(閲覧注意)赤くて丸い

あなたの全身は刃物みたいで、そのことで僕達の生活は快適に回っているのだろうけれど、あなたが僕に触れるたびに僕は血まみれになってしまう。それであなた自身が傷ついていないか心配になる時もあるけど、あなたにはあなた自身のことは見えていないみたいで、何だかもうどうでも良くなってしまった。

崖の上には木でできた十字架と一輪の花があって、隣にあるログハウスにはもう誰もいない。世界が全部逆さまになれば彼も、彼女もまた戻って来るんだろうか。

絞首した自死体が並んでいるのを見て、次は自分の番なんだな、と思っていたけれど、皮肉にもそんなことはなかった。
「世界が変わっていってしまって苦しい」と彼は歌っていたけれど、僕はそのおかげで今日も点滴を打ちながら生き長らえている。毎日眠らなくてはいけないし、食事をしなければいけないし、風呂に入らなければいけないし、排泄しなければいけない。変わらないで欲しい、だなんてただのわがままだったのかも知れない。

拳銃で脇腹を撃たれた痛み。
蜂に背中を刺された痛み。
おもちゃでできたカラフルな駅舎。
そういうどうでもいいことばかり覚えていて、あの人の声とか匂いとかばかり忘れていく。

何か恐ろしいものから逃げてバスに乗った気がするけど、安心したのも束の間で、そのバスは終点とその1つ前の停留所の間を30分くらいかけて行ったり来たりしている。仕方がないから途中で降りて、海を背に獣道ですらない場所から山に入っていく。

日が落ちてきてから見つけた、トタンで造られた青い小屋は落ち葉で埋もれていて、とても使えたものではなかった。気がつくと、一緒に逃げてきたはずの彼女は居なくなった。

そのまま森を進んでいると、いつの間にか夜が明けて昼になっていた。石でできた鳥居だけがあって、それをくぐって進むと狸や烏、狐なんかに偉そうに説教され辟易としてしまう。
結局、池か沼かよくわからないけどそういった類の場所にたどり着く。足元には赤黒い液体がこぼれた跡と、そのまま焼け焦げた跡があった。女性が以前に焼身自殺を図ったらしい。
改めて空を見上げると、もう烏が何を言っているのかわからなかった。水面に映る曇り空が何かの模様みたいで美しく感じた。

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