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(閲覧注意)冗談

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言葉を紡ぐためだけのショートストーリー集です。
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記事一覧

(閲覧注意)逃げ出して

目の前で、壊れた無数のブラウン管テレビの山の上に下品に座る女。ビールの空缶を大切そうに握っている。

暗い部屋。窓。美しい夜景に背を向け、笑いながら走り回る痩せこけた少年。

空気のひどく汚いこの部屋を出る。扉を開き、数歩進む。
晴れ渡る空の下、何処かの舞台の上にいた。目の前では群衆が大通りを埋め尽くしていた。何をしようとしていたんだっけ。思い出せないまま、スピーカーに繋がっていないマイクをスタン

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(閲覧注意)空気色の窓を割って

駅前のロータリーに、たった1人車椅子に座ってじっと眠っている老婆。
踏切の前で十字を切る女性。
殺してしまいたい、と呟いたどこかの誰かがエレベーターに乗り込む。
そのまま暖かい家に帰って今日も平凡で幸せな日々を送っているのだろう。

道端ではネズミが死んでいる。誰かにとってはこれは喜ばしい風景なんだろうか。
そういう私も、それを横目に通り過ぎる。きっと明日には忘れてしまうんだ。

ふと気付くと大嫌

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(閲覧注意)真っ白い部屋から初めて出た少女の話

「私は世界に興味もないし、他人に興味もない、ましてやあなたになんてもっと興味がない。」
「じゃあ、何になら興味があるのさ」
「鳥が飛んでいるから。」
「雨が降ってくれないのに」
「ずっと同じ場所から動かない虫はいずれ石になってしまうの。」
「ひどく退屈な話だ 吐き気がする」
「そういってあなたはまた金儲けの話ばかり読んでいるね。」
「僕の家のまわりには蛇がいて 悪い虫や動物をみんな飲み込んでくれる

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(閲覧注意)赤くて丸い

あなたの全身は刃物みたいで、そのことで僕達の生活は快適に回っているのだろうけれど、あなたが僕に触れるたびに僕は血まみれになってしまう。それであなた自身が傷ついていないか心配になる時もあるけど、あなたにはあなた自身のことは見えていないみたいで、何だかもうどうでも良くなってしまった。

崖の上には木でできた十字架と一輪の花があって、隣にあるログハウスにはもう誰もいない。世界が全部逆さまになれば彼も、彼

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(閲覧注意)かさぶたはかゆい

まだ傷が痛む。
でも、やっと、ちゃんと傷と向き合うことができるくらい立ち直れたということかも知れない。

部屋には山ほどの服が片付けられないまま放置されている。
ハンガーから外して畳んでしまえばいいのに、そのままカーテンレールなどにかけたままでいる。
次第にそれは絞首した死体に見えてきて、もし僕が生きるための犠牲者だとすれば懺悔しなければいけないし、これまで蔑ろにしてきた自分自身だとすれば恥ずかし

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(閲覧注意)宇宙に溶ける

畑の真ん中で夜空を見る機会があった。周囲には街灯も家の明かりもなく、星がやけに綺麗に見えた。地平線側の空の縁は青くて、今踏みしめている場所が球体であることを思い出させる。
右手を開いて空へ向ける。星空が指の隙間から僕の手を侵食してきて、その手は次第に夜に溶けていく。

翌朝。夜空と一体になった手をポケットに突っ込んで通勤電車を降りる。改札を出ると、イヤホンで世界を塞いだはずの僕の脳みそに、政治家の

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