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弱ければエラいのか?

2024年4月には下記のような記事を書いた。内容としては、私は「弱さ」一般が嫌いであること、その理由は「弱さ」は際限ない自己憐憫を生み、最悪の場合には傷の治りを遅くするだけでなく人間を立ち直れなくするほど傷つけ、不健康にするからである。だから、誰もが、もし生き残り生き延びようとするならば、どこかで自分自身の弱さと自分自身とを切り離し、立ち直るのが本人のためにもなると私は信じている。

ところで、いわゆる弱者と呼ばれる属性を持っている人を既得権益かのように攻撃する人がいる。率直に告白すれば、かつては私も攻撃側だったこともあった。冷静に考えるならば、弱者というほど弱い立場に追い込まれるというのは本人個人にはどうしようもない事情によってそうなるのであって、そのような不運や社会構造に対して課題を認めることはあるにしても、本人一人やミクロな集団をあげつらって非難したところでどうしようもない。なぜならば、貧困者を仮に目障りだからといって皆殺しにできたとしても、あるいは現在の貧困者に資本(例えば土地)を与えて貧困から脱出させたとしても、依然として貧困者を生み出す仕組みが温存されていれば、ただ新たな貧困者が増えるばかりだからである。

それでは、どうして一定の人々は弱者を憎んでしまうのだろうか? なぜならば、(1)弱者の中にも悪党がいるし、(2)公認された弱者は一定の手当を政府から受け取る場合もあるからである。

(1)弱者の中にも悪党がいる。これは当然のことである。なぜならば、別に何か弱い属性を持っているからといって、同時に怠け者であったり犯罪者であったりするようなことを排除するわけではないからである。むしろ、弱い立場に投げ込まれたら、たとえ不本意であっても生き延びるために窃盗をせざるを得ないこともあるし、労働や学習によって高い賃金を得る手続きを知らなかったり書類の手続き自体が苦手となれば、何もせずに怠けていた方が本人の頭に浮かぶ選択肢としては最適になってしまうだろう。しかし、そうはいっても結果として、露出した部分が犯罪者であったり怠惰である様子を見せつけられると、相手が弱者だったとしてもその事情を勘案せずに非難したくなる。この非難したくなるのも人情である。

(2)公認された弱者、例えば高齢者や障害者や病人は行政から手当を受け取ることもある。しかし、受け取らないこともある。両者の違いは自分自身の弱さを受け入れて認めた上で、書類上の手続きをしたかどうかである。このわずかな違いを実行して手当を受けるのは非難されやすい。なぜならば、手当を受けずにガマンしてワーキングプアを継続しているような人からすれば手当を受け取っている人は「ずるい」ように思えてしまうからである。

上記(1)(2)のように弱者を非難したくなる原因があり、またそれが「弱者」に成り下がりたくないという情緒(スティグマ)を醸成する。一方で、社会的に一定の承認を受けて(例えば資格を授かって)そのために「特典」を受けるというのは、あたかもその人々が擬似的に「エライからそれにふさわしい特典を受けている」かのようでもある。しかし、実際には弱者はエラくない。確かに自分個人の苦境に耐えているという意味では偉いが、一方で事業で黒字を出して納税する人々や世界新記録を成し遂げたアスリートのような意味では偉くない。なぜならば、たとえ手当をもらっていても、それはただ弱者の弱者性の一部を補ってもらっているに過ぎないからである。もし本当にエラい(=社会に貢献している)のだとしたら、もっと大幅にプラスになるような「特典」をもらっていなければ筋が通らないだろう。

左派の人々が弱者を擁護するときも、弱者の代わりに矢面(やおもて)に立って非難を受けて立つ!というよりも、「弱者のエラさが理解できるこんなに繊細で敏感な感受性を持っている私ってすごい」という虚栄心が働く人もいるようだ。なぜそのような推測ができるかというと、彼らが左派同士で「お前は鈍感だからわかってない。私は敏感だから大事な点がわかっている」とマウント合戦をするからである。これも弱者をダシにした無益な争いである。

結論としては、私は弱者は弱者であることによって偉くはない。もちろんだからといって軽んじてよいというわけでもない。しかし、偉くなかったとしても、本人に責めが無いことで苦境に耐えているのだから、福祉上の手当を受けるべきであることは全く変わらないと考える。弱者を例えば道徳的に偉い存在であると神聖化するのは好ましくない。なぜならば、上記のようなマウント合戦に利用されるなど副作用(弊害)が生じるからである。

(1,905字、2024.05.18)

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