ご免侍 六章 馬に蹴られて(十四話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬の朝帰りで、月華は、つい一馬と口づけする。
十四
琴音は、目で合図するように廊下を見た。一馬は立ち上がると廊下に出ると琴音がついてくる。
「どうした」
「もうしわけありません」
「なにを謝る」
「一馬様には、お好きな人は居ることを知りませんでした」
「……何の事ですか」
(まさか月華に口吸いされた事を……)
嫌な汗が出る。
「お仙さんの事です」
「あ……ああ」
「とても仲が良い事を知りました」
「う……うむ」
琴音の目は、最初に出会ったときのように冷静さが戻っている。よそよそしいとは違う。礼儀は守るが親しくなる前の琴音に感じる。
「私はきっと何かを勘違いしていたのです」
「……何をでしょうか」
「役目を忘れさせてくれる人がどこかに居ると……」
「……つらいですか」
「いいえ、決してそんな事はありません」
「私に何かできる事が……」
「あなたには、お仙さんが居るじゃありませんか」
「お仙とは、夫婦になる事は無いと……」
琴音の目がきつくなる。
「それでは遊びなのですか」
「あ……遊び……そう言われると」
「もういいです」
琴音が部屋に戻ろうとする手首を握る。驚いたように一馬の顔を見る琴音は、さみしいような泣いているような顔だ。
「男はどうしても我慢できないときもある」
「知りません」
「それと、これとは別なんだ」
「それとかこれとか判りません」
一馬から逃げるように顔をそむける琴音の手首は細く弱々しいが、それでも人を投げ飛ばす力がある。逃げる気になればふりほどく事も可能なのに琴音はしなかった。
一馬にも判る。琴音の天涯孤独な状況やこれからの未来がどうなるのか考えるだけでも重くつらいはずだ。その弱さを見せられない琴音を、心の底から守りたくなる。
「琴音は、どうしたい……」
「手を離してください」
一馬が手を離すと琴音のやわらかい手が力なく体の両脇にぶらりと下がった。
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