ご免侍 六章 馬に蹴られて(九話/二十五話)
設定 第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章
前話 次話
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬の朝帰りで、月華は、つい一馬と口づけする。
九
「伊豆の湯治も重要じゃが、そこに居る刀鍛冶に会うのが本来の目的じゃ」
「鍛冶屋……」
「そこのじいさんから刀をもらい受ける」
「それは、ありがたい」
鬼おろしはとにかく重い。短期決戦ならば、戦えるかもしれないが相手が攻撃をしない、待ちの状態で対峙する事になると不利だ。
(重さで腕が疲れる……)
「なんにせよ、湯治が楽しみじゃ」
祖父は立ち上がると一馬の部屋を出て行く。祖父はもう戦うのも難しいと思える。ねじれ念仏の印地で肉を削がれた体は痛々しい。隠居の身の上で実戦に出るのは死に直結する。
(早く新しい刀で、琴音を守らないと……)
「一馬様」
「一馬」
いきなり障子が開くと琴音と月華が並んで座っている。
「な……なにごとです」
「わたくしを嫌いになる方法を教えてください」
「はぁ……」
琴音が突飛もないことを真顔で訴えている。ちらりと月華を見ると同じように真顔だ。
(何かの冗談ではないのか)
「それは、琴音殿が私を嫌いになりたいという事ですか」
「……そう……なると思います」
やたらに歯切れの悪い態度で、琴音がうつむく。
「琴音はね、大事な体なの。一馬となんかあったら大変でしょ」
「俺が手を出すと言いたいのか」
いつのまにか琴音と月華は、幼なじみのように仲良くなっていた。
「うむ、では俺の考えを聞いてくれ」
「はい」
「変な事を言ったらぶん殴るからね」
二人から責められてるような変な気分になりながら、真面目に答える。
「琴音殿を助けたのは、天命だ」
付き添いの下男が殺されて拉致されそうになった琴音を助けたのは、神仏からのお告げだと強調する。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?