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ご免侍 六章 馬に蹴られて(十七話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことね月華げっかの事が気になる。一馬達は西国に向けて旅立つが、宿で襲撃を受ける。敵は天狼か!


十七

「一馬、あんたは壁際かべぎわに寝な」
「わかった」

 祖父を寝かせると一畳しかない。三人がそこに寝るのがきついが、琴音ことねを真ん中にして、お仙が祖父を見まもる形で川の字になる。

「ふふふ、こんな風に寝るのは子供の時くらいです」

 琴音ことねが少し興奮した口調でひそひそと独り言をいうと、まばたきを何回もしないうちに寝息ねいきを立てる。

琴音ことねも疲れたのだろう)

 一馬は逆に寝付けない。斬り捨てた男達の血がまだ臭く興奮したままだが、すぐそばで琴音ことねが寝てる。ほのかな甘い香りがするのは女特有の色香いろかだ。

(これはたまらん)

 壁際かべぎわに顔を近づけるように横になる。一馬は琴音ことねを愛しているのか、抱きたいと思うのか、自問自答じもんじとうしても答えはわからない。守りたいと思うのは彼女の境遇の不憫ふびんさだ。早く楽にさせたいとも思うが、それは自分から責任を放棄したい、わがままな自分が見える。

(俺は、琴音ことねをどうしたいんだ……)

 背中にあたたかいものが触れると腕がからみつく。琴音ことねがねぼけて体をからめてくる。それは生物として自然な反応なのかもしれない。誰かと一緒に寝れば、その腕は誰かの体を抱きしめる。

(起こすべきか……)

 スースーと寝息を立てる琴音ことねは、無邪気に腕で一馬の体を強く抱く。いやかなり強い。

(う……うむ、なかなか力が……)

 むせるような力ではないが、ぎゅーっと抱かれると腕に痛みが走る。

「こ……琴音ことね殿、琴音ことね殿」

 大きな声を出さぬように、ひそひそと話すと、むにゃむにゃ言いながら琴音ことねが寝ぼけた事を言う。

「一馬様、それは大根です」

 意味がわからないが笑いたくなる。もう眠るどころではない。一馬はゆっくりと琴音ことねの手をはずそうとするが、まるっきり動かない。

「なにしているの」

 お仙が上から一馬達を見ている。

「すまん、琴音ことねの腕を外してくれ」
「これはかなり強いね」

 ぐいっとお仙が琴音ことねの体を起こすと目が覚めたのか、寝ぼけまなこで一馬達を見た。

#ご免侍
#時代劇
#馬に蹴られて
#小説


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