ご免侍 六章 馬に蹴られて(十五話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬の朝帰りで、月華は、つい一馬と口づけする。
十五
「一馬」
障子が開くとお仙が顔を見せる。口に指を当てると、その指を下の階に向ける。
(追っ手か)
隠密頭の天狼が怪しんで探しているのかもしれない。すかさず部屋に入ると、鬼おろしを腰に差す。部屋の全員が戦闘態勢の状態で支度をしていた。一龍斎が、ひそやかに命令する。
「いいか、みな目をつむれ」
かすかな音で階段を誰かが上がってくるのが判る、一人……二人……五人。夜襲だ。障子が開くと同時に、行灯の火が消された。一馬達は目をつむって火が消されると同時に目を開く。追っ手は逆に明るい状態から暗くなるので夜目が利かない。
太刀風が来ると同時に、鬼おろしを跳ね上げた。刀がへし曲がり使えなくなる。そのまま敵の腕を切り落とす。数人切ると音がしなくなる。
真っ暗な旅籠の部屋は、血なまぐさい臭いで充満していた。襲撃が終わると行灯に火がついた、赤暗い部屋の中は死体が散乱している。
「これは、忍びですかな」
雄呂血丸が襲撃者の顔の覆面をとると、どこにでも居るような町人の顔だ。祖父の一龍斎が、彼らの腕や太ももを見ているが、それらしいイレズミは無かった。
「ああ、これは草だな」
「素性を隠した忍者ですか」
「公儀の者でもない、雇われの草だ。我らの風体を見かけたら夜襲しろと言われたのだろうな」
「旅籠も危ないですか……」
草は、普通は町人や武士として潜伏をして命令があれば行動する忍びの者だ。見た目では絶対に判らない。
「お仙、ここは夜襲されるような宿なのか」
「まさか……護衛もいますよ」
階下に護衛役と思われる下人達が斬り殺されていた。
「一馬、このままでは巻き込まれる。すぐに出立するぞ」
「夜にですか」
「なにどこかの小屋で寝れば良い」
困難な旅が始まった。
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