ご免侍 六章 馬に蹴られて(六話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬の朝帰りで、月華は、つい一馬と口づけする。
六
月華は玄関に戻りながら口をぬぐう。
(なんて馬鹿な事を……)
ふとみると玄関で水野琴音が立っている。
「月華さん、どうしました」
「なんでもないよ」
月華顔がまだ赤い感じがするので、あわてて顔をこする。琴音は心配そうに近寄ると、声を落としてひそひそと話す。
「実は、相談があります」
「あたしにかい」
「はい」
「あのじいさんじゃだめなのかい」
「はい」
琴音が女同士の話をしたいのかもしれないと考えると、深呼吸をして普段の自分に戻ろうとした。
(心の臓がまだ痛い)
心音が細かく激しく鳴っている。こんな気分になるのは、初めてかもしれない。琴音と道場の中に入るとしんとした暗い場所で、膝をつきあわせた。
「それで、何の話」
「一馬様の事です」
「あんなのは一馬でいいよ」
「命の恩人ですから」
「まぁいいけどね、それで一馬がどうかしたのかい」
「一馬様は、好きな人が居るのでしょうか」
「んん、それをあたしに聞くのかい」
「月華さんが、どう思ってるのかなと」
琴音は、真っ正面から月華を見つめている。その表情には、真剣というか真摯だ。
「好き……なのは、あんただろ」
「私が好きなのでしょうか」
「えーそれは、私もわかんない」
「私は、きっと好きとは違うと思っています。」
「琴音は、一馬を抱かれたいとかないの」
「抱かれる……夫婦になるのは、想像できません」
「んん、たとえば体に触りたいとかないの」
月華の方が混乱してきた。男に抱かれるのは当たり前で、それが仕事だろうが、恋愛だろうが体を差し出す。これが大前提で生きてきた。
「それはあります、手を握られたり体に触れられるのは嬉しいです」
「……それ普通に、恋じゃないの」
「そうなのでしょうか……さきほどの、一馬様が女と遊んでいたと聞いた時にとても嫌な気分になって……なんでそうなるのかなと」
「嫉妬じゃないの」
「でも月華さんと一緒の時はそう感じませんよ」
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