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ご免侍 六章 馬に蹴られて(十六話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことね月華げっかの事が気になる。一馬達は西国に向けて旅立つが、宿で襲撃を受ける。敵は天狼か!


十六

「お爺々様じじさま、大丈夫ですか……」
「平気じゃ」

 老体の上に散華衆さんげしゅうに肉をえぐられる傷を受けた。長旅は命の危険すらある。

「なに、拙者せっしゃが背負うので大丈夫です」

 熊のような大きな体の雄呂血丸おろちまるは、藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいを背負って夜の街道を歩く。

「追っ手が来るのでしょうか……」
「判りませんが、宿から離れた方が良いでしょう」

 水野琴音みずのことねは、男装してはかまをはいて腰に刀を差している。すたすたと元気に歩いているが、夜通し歩くのは無理に思えた。

「近くにお堂がある、そこに泊まりましょう」

 お仙が道案内する。笠をかぶり脚絆きゃはん草履ぞうりの彼女は巡礼に見えなくも無い。

(お仙……天狼と通じてはいないのか)

 一馬は疑うが頭をふり考えないようにした。もし内通者がいるならば……

 月明かりや星明かりだけで、誰も通らない街道を進むと薄暗闇うすくらやみに目が慣れたのか、ぼんやりと小さなお堂が見えた。

「狭いですな」
「狭いよ一馬」
「寝れるでしょうか」

 二畳もない小さなお堂には、仏様が描かれた古い掛け軸があるだけで、がらんとしている。

「お爺々様じじさまと女達は眠ってくれ」
「一馬、私がまず見張りする」

 月華げっかは夜目が利くから先に寝ろと一馬をお堂の中に入れて雄呂血丸おろちまると外に出た。

 祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいを、寝かすが布団もないので肩からかけた荷物を枕にして横たえる。

一馬かずま……」
「なんでしょうか、お爺々様じじさま
「箱根の鍛冶屋まで、裏街道を使う……」
「わかりました、明日にしましょう」

 ぐったりした祖父を見て心配になる一馬のそでを引いたのは、お仙だった。

#ご免侍
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