SS 赤い靴【#白い靴】 #シロクマ文芸部
白い靴を見つめる。真新しい白い長靴はおかあさんが新しく買ってくれたけど、ぶかぶかで歩くと転びそうになる。
「大丈夫、すぐに大きくなるから……」
おかあさんは、なんでも勝手に決めてしまうので困る。ぶかぶかだから足をぶらぶらさせると、ゆるゆるする。
「赤い色が良かった」
赤い靴♪ はいてた♪ 女の子♪
悲しげな歌は、今の自分にはぴったりに思えた。大人は何もわかってくれない。
イジンさんに♪ 連れられて♪ いっちゃった♪
(イジンってなんだろう?)
「イジン、イージン、イージン」
ふと気がつくとタヌキが居る。
「タヌキだ、ターヌキ、タヌキ」
「白い靴はきれいだね」
「そう? 私は赤い方が良かった」
タヌキがしゃべるけど気にならない。タヌキがとぼけた顔をして、白い靴に近づくと鼻でクンクンする。
「赤い靴はね、とても怖いんだよ」
「怖いの?」
「そうだよ、赤い靴をはくと連れていかれるよ」
「……」
「白い靴で、良かったね」
私はくるりとふりむくと家に急いで戻る。ぶかぶかの長靴が歩みを遅くする。今では恐怖しか感じない、家に戻るとわんわんと泣いておかあさんにしがみついた。
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「それで?」
「別に何もないわ……」
「タヌキがしゃべったんだよね?」
「記憶違いよ、私がタヌキに置き換えただけ」
「そんな事があるのかい?」
「そうよ……だって当時は連続誘拐事件で女の子が何人も行方不明になったわ」
消えた子は……赤い靴をはいていた。
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