見出し画像

ご免侍 六章 馬に蹴られて(十一話/二十五話)

設定 第一章  第二章 第三章 第四章 第五章 第六章
前話 次話

あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことね月華げっかの事が気になる。一馬の朝帰りで、月華げっかは、つい一馬と口づけする。


十一

 琴音ことねが、すっと立つと部屋をでる。顔はまだ赤いままで恥じらいを感じるが、一馬かずまはどうすればいいのかわからない。

「一馬、あんたどうしたいの……」
「どうしたいって……、城に送り届けるだけだ」
琴音ことねは、京でみかどのお嫁さんになるんだってさ」

 月華げっかは、一馬の顔をじっと見ているが、一馬はうつむいたまま動かない。それに見切りをつけるように月華げっかも立ち上がって部屋を出る。

「なにやらむずかしい話ですな」

 雄呂血丸おろちまるも困り顔で刀を手にとると、鯉口を切ってスルスルと同田貫どうたぬきを抜いた。

「何を怒っているのかわからない」
琴音ことね殿の事でござるか」

 長く大きな刀は戦場で使われた実戦用の大太刀で無骨な刀として有名だ。雄呂血丸おろちまるは、この刀で芸を披露しているのだから腕はあると判る。

「この刀は長刀なので重いですが抜けば、それだけで見世物として有利」
「……」

 雄呂血丸おろちまるは、座ったままで刀を上段から振り下ろす。風音かざおとがすると空気が震え迫力を増した。

「一馬殿は普通の太刀で据物斬すえものぎりでも良いと思います」
「私は琴音ことねに惚れているのでしょうか」

 雄呂血丸おろちまるが、あきれた顔で一馬の肩を叩く。

「若い、若い事はいいですな」
「どうすればいいのか」

 一馬は混乱していた、自分の気持ちよりも琴音ことねの反応に戸惑った。少しでも自分に好意があるのかと考えると、胸の中がくすぐられたように踊る感じがする。

「まぁなんでもそうですが、人の恋路の事は何も言えませんな」
「そうなんですか……」
「変な助言をしても馬に蹴られて死ぬだけですからな」
「あははは……」

 一馬は自分の気持ちすらわからない状態で、旅する事に不安を感じた。

#ご免侍
#時代劇
#馬に蹴られて
#小説


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?