ご免侍 六章 馬に蹴られて(十二話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬の朝帰りで、月華は、つい一馬と口づけする。
十二
「気をつけて行くんだぞ」
同心の伊藤伝八が一馬の屋敷を管理する、番屋の下人達や元岡っ引きのドブ板平助が見回りに来るし泊まる事もある。
「一馬様、琴音様をしっかりお守りしてくださいよ」
お徳も一馬に、くどくどと旅先の注意しているがキリがないので、手をふって屋敷を後にした。
祖父の藤原一龍斎と雄呂血丸は、名目は家族といつわり伊豆の湯治場に行く。一龍斎は、かなり衰えているのか馬を使って旅する事にした。
「では一馬殿、先にまいりますぞ」
雄呂血丸が馬の手綱を引き歩き出す、一馬達もゆっくりと旅をはじめた。若侍に化けた琴音が笠を深くかぶる。
「この笠、かわいいよね」
鳥追い笠と三味線を持った露命月華は、足取りも軽く先へ先へと急ぐように歩き出す。
「月華、そんなに早く歩くな」
「私は平気です」
「まずは品川で泊まる」
「はい」
琴音は、嬉しそうに返事をしながら一馬を見つめる、目が少しだけ潤んでいるように感じるのは、錯覚だと一馬は自分に言い聞かせる。
(いつかは別れる時が来る……決して好きになってはいけない)
「どうしました」
「いやなんでもありません」
一馬も笠を深くかぶり目をそらした。
「今日が出立だったのかい」
「え」
顔を上げるとお仙がいる、そして旅支度をしていた。
「どうしたんだ、その格好は」
「旅に行くんだよ」
「どこにいくんだ」
「あんたたちと一緒だよ」
腕を組まれると体を密着した。混乱する一馬が先に気がついたのは琴音の目だ。その目は……怖かった。
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