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ご免侍 五章 狸の恩返し(二十三話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬はまむし和尚の策略から平助と女房を助け出す。


二十三

 平助は夢を見ていた。昔の事だ、母親が子供の頃に話をしてくれた。

「狸はイモをくれた村の子を、化けて山賊から助けてあげたんだよ」
「狸は村の子供と友達だったのかな」
「どうだろうね、でも人と動物だからね」

 俺は狸だ、武士とは友達にはなれねぇ。

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琴音ことね殿、傷はどうですか」
「ひどい打ち身ですが、折れてはいません。折れているなら骨が熱をもちます」

 傷が思ったより深くない。さらしを巻いて平助は道場で眠っている。一馬は不安を感じていた。

(このままだと、いつか琴音ことねが傷つくかもしれない)

「平助は無事だ」
「ありがとうございます、本当にありがとうございます」

 一馬の父親の左衛門さえもんが、道場で平助の容態を見ている。女房のお勝が父親に頭を何回も下げている。

「父上」
「なんだ」
「私は、琴音ことね殿を連れて西の大烏おおからす城をめざします」
「……」
「天狼様の仕事に関してなのですが……父上が代わって……」
「それはできぬ」

 左衛門さえもんは、ぽつりとつぶやく。床を見つめて何かを思案しているかのように見える。

「なぜです」
「……仕事があるからな」
「どのような仕事ですか」
「……国をゆるがすような仕事だ」

 まるで岩に向かって話している気がする。父親からとてつもなく強い決意が見えた。

「わかりました、私から天狼様に話をつけます」
「それは無理だ」
「なぜですか」
「天狼が琴音ことねを探している」

 答えにつまる、自分が遠くに旅をすると話せば探られる可能性もある。黙って出れば追っ手が来る可能性もある。そこに祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいが顔を見せた。

「心配するな……」
「お爺々様じじさま、お体は」
「もう平気だ」

 だが、ねじれ念仏から受けた傷は治っていない。

#ご免侍
#時代劇
#狸の恩返し
#小説


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