ご免侍 六章 馬に蹴られて(二十五話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬達は西国の旅先で山賊の権三郎と出会う。彼を手下にした直後に、散華衆の四鬼に襲われた。
二十五
暗い山道は、たまに山鳥の鋭い鳴き声がするくらいで静まりかえっている。権三郎は、獣道は使わずに猟師や山の者が使う道を進んだ。起伏は多いが歩けない道ではない。
「どこに泊まるんだい」
「へい。猟師小屋があちこちにあります」
たまに先客の猟師がいるが、大体は無人だ。権三郎の、案内がなければたどりつけない。近くの村に寄って近くの小屋を教えてもらう。
「勝手に泊まっていいのかい」
「問題ありませんよ、助け合いが大事ですから」
山賊はしているが本来は猟師の権三郎は、優秀なのか、たまに山鳥を鉄砲で撃ってナベにした。すでに冬になっていたが、街道沿いはあたたかく雪に悩まされずに、目的の伊豆に到着できた。
「山湯がある、そこに鍛冶屋がおる」
藤原一龍斎が、弱っているのは判る。長旅で体力を使っていた。
丸太作りの鍛冶屋は、山の麓にあり、そこに湯がでる川があるが湯量もないので湯治場として機能はしていない。知っている人間がたまに来るような村だ。
「ここじゃ、鬼山貞一は、おるか」
「一龍斎か、帰れ」
粗末な山小屋の戸から、出てきたのは片目の老人。手で追い払う仕草をする。
「刀を作ってくれ」
「いまさら何をいうか、娘を殺しておいて」
「……あれは仕方がない」
「許すつもりはない」
にらむ鍛冶屋の前に出て、一馬が頭を下げて頼む。
「鬼山貞一様、新しい刀を打ってくだされ」
「なんじゃ、この若造は」
一龍斎が静かにつぶやく。
「お前の娘、桜姫の子じゃよ」
一馬がはっと顔を上げて祖父の顔を見る。母が死んだ、そして殺された。呆然と二人の老人の間で一馬は立ちつくす。
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