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シロクマ文庫用と青ブラ文学部等の企画参加作品

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企画された作品を置いときます
運営しているクリエイター

記事一覧

SS 怪談:地下室のみち子【山岳カルマ】#毎週ショートショートnoteの応募用(930文字位)

 暗い山道を三人で歩く。急な登りは通勤列車ばかりの俺にはつらい。 「なぁ、どこに行くんだ」 「みんなの村よ」 「廃村になった……」  村の分校に通っていた。俺たち四人は仲良しで、同じ村に生まれて育ち、幼なじみが死んだ。 「みち子は、まだあそこかな……」  ぞっとするような記憶がよみがえる。 「その話はやめろよ」 「あれは、みち子が悪い」  子供の頃は男女二人ずつでペアのように遊んだ。幼い男女がする事は…… 「思いだしたくない……」 「みち子だけが嫌がってたからな

SS 文芸部の日常【文学トリマー】#毎週ショートショートnoteの応募用

 文学トリマー、それはどんな小説も無駄をなくし読みやすくする優れた能力だ!   文芸部長がスカートをひらひらさせて、机で推敲している俺の作品を見る。 「良いと思うけど描写が少なくない?」 「トリマーが重要なんです」  ひたすら無駄を省く、主人公の名前すらいらん! 「誰がだれかわからなくない」 「いきおいです!」  誰が台詞をしゃべったかなんて読者が考えればいい。俺はひたすらトリマーを続ける。  ふと横に座っている部長から甘酸っぱいような五感をチクチクと刺すような奇

SF いつもの朝【#帰りたい場所】#青ブラ文学部(550文字くらい)

 低くうなる音が聞こえる。ヴーン――ヴーン――ンンン  音が途切れると目覚ましの音がした。 「起きなくちゃ……」  学校に遅れると思って上半身を起こすが、今日は休日だ。いつもの癖で目覚ましのスイッチをONにしていた。キッチンに降りると父と母が深刻そうな顔をしている。 「もうダメなのか……」 「別れましょう」  離婚の話を延々としている、毎日なので飽きないのかな? と思うがいつも母が折れていた。でも今日は違う。母がすっと椅子から立ち上がり父の後ろに回ると手に持っていた

SS 赤い靴【#白い靴】 #シロクマ文芸部

 白い靴を見つめる。真新しい白い長靴はおかあさんが新しく買ってくれたけど、ぶかぶかで歩くと転びそうになる。 「大丈夫、すぐに大きくなるから……」  おかあさんは、なんでも勝手に決めてしまうので困る。ぶかぶかだから足をぶらぶらさせると、ゆるゆるする。 「赤い色が良かった」  赤い靴♪ はいてた♪ 女の子♪  悲しげな歌は、今の自分にはぴったりに思えた。大人は何もわかってくれない。  イジンさんに♪ 連れられて♪ いっちゃった♪ (イジンってなんだろう?) 「イジ

SF 気になるあの娘 【二億斉藤】#毎週ショートショートnoteの応募用(560文字くらい)

「二億斉藤」 「なんだよ、てれるな」  ネットで繋がるゲームで二億かせいだ。モンスターを倒して偶然アイテムを手に入れた。ネット内の競売で売ると大金が手に入る。 「運がいいよな」 「お前も狩りにいけよ」 「数万分の一だぞ、時間が無駄すぎる」  ギルドの仲間は、うらやましそうに俺を見る。俺はこれから競売で強い武器と防具を買う予定だ。 「ごめんなさい、競売はどこにあります?」 「ああ、一緒に行こう」  頭に新人のマークが出ている、かわいらしい女の子キャラは、ブリブリのブリ

SS 投影【記憶冷凍】#毎週ショートショートnoteの応募用

「ばっちぃ」  私に触れないようにクラスメイトが避ける。髪が長くクシをいれてないせいか不潔に見えたと今では思う。 「スタンバイお願いします」  スタッフに呼ばれてパイプ椅子から立ち上がる。私の前に新人で小生意気な女が立っていた。 「身なりを整えて、だらしがない!」 「母さんには、関係ない」  冷たい記憶、記憶冷凍されたイメージが浮かぶ。私は彼女だ、傲慢できつい眼をした冷徹な娘。 「そんな態度だから嫌われるの」 「私が嫌われるだけ、あんたに関係ない!」  ふいに涙

SS 最高の彼女 【君に届かない】青ブラ文学部用(730文字位)

 君に届かない、並んで歩きながらいつも感じる。 「なんか猫背気味?」 「だって身長がまた伸びて……」  彼女は170cmを軽く越えていた。だから自分と一緒に歩くときは、かかんで歩く。 「気にしないでくれ、俺は平気だから」 「うん……まぁ……そうだけど、バランス悪く見るかなと?」  心が痛い、確かに美人で頭も良くて背が高い彼女と並ぶと、まるで弟みたいな気分だ。 「身長ごときで、コンプレックスは無い!」 「そうよね、身長で人の価値は決まらないわ」  笑顔の彼女を見てい

SS 人の居ない街【#風薫る】 #シロクマ文芸部

 風薫る だれもおらぬ 道を吹く  Λは、無機質な通路をぶらぶらと進みながら、人間に習った俳句を口ずさむ。 (今日は、きゅうりとトマトを植えるかな……)  空気が人間の体感で最適の温度と湿度を保っている。花の香りがするのはΛが花を育てているせいだ。  紫陽花、花菖蒲、薔薇、薫衣草、色とりどりの花は人工で作られた種を利用している。 (人間は何をしたかったのかな……) 「やぁΛ」 「γ、今日は動けそうかい」 「無理だね」 「部品を作ろうか?」 「このままでいいよ」

SS 井戸の鬼【#子どもの日】 #シロクマ文芸部

 子どもの日が来た。村の大人達は数日前から準備をはじめている。僕は親戚の縁側で足をぶらぶらさせる。畳で横になる従姉は、だるそうだ。 「端午節って何?」 「鬼に憑かれない支度……」  親戚の家にGWにおとずれるのは初めてで父親は親戚たちといそがしそうだ。  従姉は十六歳で県内の高校に通っている。 「小さな子は、鬼になるからね……」 「……迷信だよね」 「前に端午節を、さぼった子がいた」 「それで」 「鬼になった」 「嘘だ」 「なったよ、だから井戸に落としたんだ」 「……

SS 夢 【#春の夢】 #シロクマ文芸部

 春の夢を見たと彼女はつぶやく…… 「――春の夢なんですよ、桜が咲いていてとてもきれい」 「良かったですね」  胸元は鎖骨が浮きでて痛々しい。 「私も桜を見たい」 「もう葉桜ですからね」  布団から体を起こしているのもつらそうに見える。しばらく話して別れの挨拶をそこそこに部屋を出た。部屋の外で待っている母親がつぶやく。 「来年までは、もちません」 「……そうですか」 「婚約を解消しましょう」 「わかりました」  婿入りの予定だった、次男の自分にはもったいないくらい

本当の人生【#風車】 #シロクマ文芸部

 風車が回る、子供が手にもってくるくると回しながら道を走っている。 (俺もあんな風に遊んだ……)  公園のベンチでぼんやりと座る男は、家を追い出されたばかりで途方にくれていた。 (仕事もない……家賃も払えない……)  子供の頃を思いだす、なんにでもなれた。パイロットにも野球選手にも、スーパーヒーローにもなれると思っていた。 (無駄な人生……、もっと真面目に仕事すれば……)  ふと気がつくと、小学生くらいの少女が風車を持って立っている。 「人生をやりなおしたい?」

SS 小さなお店【朧月】 #シロクマ文芸部

 朧月のせいか夜の帰り道が暗く感じる。職場の仕事に嫌気を感じているが転職も難しい。 「こんなところあったかな……」    いつもの商店街を通ると、横の細道にネオンが見える。昔はバーがあった場所だ。かすむような、にじむようなネオンにつられて入ってみた。 「いらっしゃい」  やたらと背の高いドレスの女性が壁に背をつけて立っている。腕が太い。男だ。愛想笑いで足早に逃げた。 「なんだ……ここ」  酔客がやたらにいる。フラフラと肩を組んで歩くサラリーマンやきらびやかなドレスを

卒業

シロクマ文庫の読み上げテスト

SS 明日がある 【卒業の】 #シロクマ文芸部

 卒業の時が来る。あたたかく甘いほうじ茶を口にふくみ、こたつで足を伸ばす。 「清美、学校に行く時間よ」 「もうちょっと」 「本当に遅れるから」  母が眉をひそめる、ぐずぐずとなんでも先のばしにする娘に手を焼いていると思う。自分でもなんで、こんなに腰が重いのかわからない。 (だって今の状態が好きなんだもの)  猫がこたつから顔をだす。茶トラの頭をなでながら至福の時を満喫する。 「ミー子は、学校いかなくていいよね」 「いい加減にしなさい!」  ぐいっと腕を引っ張られる