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『フェイブルマンズ』にみる、映画への愛

巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が自らの子ども時代を映画化した自伝的作品。
科学者の父(ポール・ダノ)と音楽家の母(ミシェル・ウィリアムズ)という対照的な両親のもとに生まれた少年サミー(ガブリエル・ラベル)が、映画づくりに夢中になり、やがて夢を叶えるまでの葛藤と成長の日々を描き出す。

allcinemaより

なかなか食指の動かなかった自伝作にあっさりと惹き込まれていく。
ユダヤ系である以外、生い立ちを知らずに監督作を眺めてきたけれど、ヘンタイ域といってよいエンタメの神様は予想通り少年時代から変わっていた。それが個性的な両親の板挟みによる影響であるとわかれたのはなによりの収穫。

父と母と、家族同然に付き合う友人ベニー(セス・ローゲン)らの、往年を感じさせる豊かな演技が作品全体の魅力を大きく底上げしていく。
特に母役ミシェル・ウィリアムズの魅力は特筆ものだとおもう。

友人ベニーへの秘めた愛を、息子の8mmカメラで象られてしまった彼女の動揺する様、情感豊かにピアノを奏で大いに泣き笑い踊り怒り愛する、芸術家気質のキラキラした母親像が息子サミーに与えた影響は絶大だった。
サミーは母親に似ていた。
だけど初めて劇場で観た『地上最大のショウ』を模型撮影で再現するのに夢中になるオタク気質なところなんかは理系の父親譲りなのだ。

血、人種、環境、さまざまな要因が人となりを作り上げるドラマを、器用すぎるほど器用に151分でまとめた巨匠の手腕に唸るばかり。
さらには、ひとりの少年の人生まで変えてしまう”映画”の魅力まで存分にエモーショナルにロマン溢れるタッチで盛り込んでいるからすごい。

賑やかで凸凹な家族、新天地カリフォルニアへの引越し、ユダヤ人イジメ、愛する両親の離婚、ヘンテコな恋を経て大きくなっていったサミーが、挫折や絶望を繰り返しながらも映画の夢を諦めなかった清々しい姿に感慨を覚える。

巨匠ジョン・フォード(デヴィッド・リンチ!)との滑稽な邂逅のラストが、なんともスピルバーグ監督らしいエンタメの魔術的作用を引き出し幕を降ろす。

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