ようやく時代が私に追いついてきた
『汝、星のごとく』で暁海の就職した会社の話を聞いた櫂は、何十年前の世界の話だと呆れていた。
田舎には往々にして、周回遅れ甚だしい出来事がある。
一方で、我が家は田舎暮らしをしていながらも時代の最先端を走り続けてきたと言っても過言ではない。ただし、決して都会暮らしに憧れているわけではないことを付け加えておこう。
私自身も20年先を走り続けていた。ようやく20年前の考えが認知されてきて、「ようやく来たか」と思っていることも多々ある状況だ。
消防団への勧誘を断った
来月から自治会内の消防団が消滅するらしい。正しくは消滅ではないようだが、大幅に団員を減らし、広域での団編成となる。
就職してすぐに入団の誘いがあったが断った。消防団といえば、夏には消防ポンプ操法大会のため、毎晩練習しているイメージだ。また、年末になると夜警と称して酒を飲み、夜中に自治会内を歩くイメージもある。
どちらも「???」な部分が多い活動だ。当時の私から見れば『軍隊』そのものだった。
もちろん、消防団には意義のある活動も多いが、意味のない活動が多いことも事実だろう。そもそも、当時は職場が遠く、仕事中に連絡を貰っても現場到着までに1時間は必要だった。いざというとき、完全に役立たずのポンコツなのだ。
そんな複雑な思いがあり、勧誘を断ったのだが、
「えっ?消防団って断ってもいいの?」
と、何人かに言われたことがある。
田舎の認識は全員参加が基本らしい。ネットで検索すると「消防団の勧誘を断ったら家族が村八分に」などの動画や記事がヒットする。今でも田舎ではそういう状況なのだ。
そんな消防団は、今やオオサンショウウオと同じくらい絶滅を危惧されているらしい。入団希望者が減っているからだ。NHKの記事に「消防団員が足りない! 存続の危機 変革迫られる消防団」とあった。
古臭い縦社会のイメージは、令和の時代にはそぐわない。気付くのが20年遅いのだ。20年前に気がついていれば、何らかの対策もできただろう。
結婚も20年早かったか……
結婚してから25年目に入った。来年の3月には銀婚式を迎えることになる。そろそろ時効だろうか……
結婚は猛反対された。それも、親戚中から。
それでも、反対を押し切って結婚した。半ば、意地になっていた部分もあったかもしれない。地元を出ることも考えたが、私の父が他界したこともあり、踏みとどまった。
今では家族仲良く暮らし、親戚付き合いもきちんとしている。そんな妻は尊敬に値するだろう。忘れたわけでもなく、許したわけでもなく。できた人だ。
具体的なことは書かないが、2016年に法整備されている。最近のことだ。やはり20年早かったと思わざるを得ない。法整備とは無関係に、世の中の風向きも明らかに変わってきている。
良くも悪くも情報化社会。どんどん新たな問題が発生し続けていることで、状況は大きく変わったように感じる。令和の今なら結婚を反対されることもないだろう。
仕事よりも大切なこと
結婚から3年が経過し、娘が生まれた。
最先端の不妊治療を行う予定をしていた。体外受精の予約をしていたが、いつまで待っても排卵日が来ない。どうなっているのかと二人で病院を訪れたところ、妊娠が発覚。驚きの自然妊娠だった。最先端医療をも追い抜いてしまっていた。
娘が1歳になる前、東京営業所への出向を言い渡された。単身赴任での出向とのことだった。
あっさり仕事を辞め、転職した。
仕事よりも大切なものができたからだ。それまでは仕事で徹夜したり、徹夜したり、徹夜したり……社畜も意外と良いもんだと思っていた。
しかし、仕事よりも大切なものがあることを知ってからは、仕事はほどほどにしている。子供が大きくなった今でも、優先順位の堂々の第1位は家族である。
第2位が剣道。3位以下は……無い。(笑)
仕事は生活するために必要なだけだと思っている。
どうやら、Z世代の考え方と同じらしい。ここでも時代を先取りしてしまっていたようだ。
そんな娘も、もう20歳。息子は17歳になった。
我が家は最先端より前を走っている
先日、17歳の息子が
「時代がようやくオレに追いついてきた」
と言っていた。まだ17年しか生きていないにもかかわらず。
別の日、20歳の娘までもが
「私、時代の最先端行ってたから」
と言い出す始末だ。
我が家はどれだけ時代の先を走り続けているのだろうか。
最先端を走り続けることは素晴らしいことかもしれない。しかし、どうやら我が家は時代の最先端のその前を走っているのだ。
残念なことに、時代の先を走ってしまった場合、誰も認めてくれない。認めてもらえないどころか、好奇の目で見られてしまう。しかも、時代が追い付いてきた頃には完全に忘れられているのだ。
「そういや、あの人、そんなこと言ってたなぁ」
などと思い出されることもない。
やはり、時代に流されて生きる方が楽だと思う。そんな今日この頃である。
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