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おひがしさんと武徳殿(えせエッセイ vol.1)

そういや、おひがしさん、行ったこと無かったわ。


おひがしさんとは

おひがしさん、つまり、浄土真宗の本山東本願寺のことだ。我が家の宗教は浄土真宗大谷派。他力本願の、この上なくありがたい宗教である。とくに信仰心は無いのだが、他力本願の言葉の響きは荘厳な宇宙の響きだ。

東本願寺

私は、おひがしさんの存在は知っていたものの、実際に見たことも行ったことも無かった。信仰心のかけらもない。一方、我が家の子どもたちは地元の寺の行事で、東本願寺の行事に参加し「あかほんくん」にも会っている。

『あかほんくん』っていうか本?(出典:日本ご当地キャラクター協会

ちなみに、「あかほん」とは日常のお勤め用の経本のことであり、決して大学受験の過去問集のことではない。受験合格祈願でおひがしさんに来る人はいないので気をつけていただきたい。他力本願で乗り切れるほど、受験は甘くないと思われ。

知らなかったが、地域の人たちがおひがしさんに出向くことは日常茶飯事のようだ。

かつて東本願寺の修繕のため、私の住んでいる地域からも多くの人が働きに出向いたと聞く。高速道路を利用しても、約1時間半もかかる距離だ。移動だけでも大変だったことは想像にたやすい。

報酬を得ていたのか、完全なるボランティアなのか、そこまではわからない。

『伊香詰所』と『東浅井詰所』

GWに京都駅から歩く機会があり、その修繕工事がかなり大掛かりだったことを知った。なぜなら、歩いても歩いても東本願寺なのだ。街中にある寺とは比べ物にならない大きさだった。調べてみると、世界最大級の木造建築物とある。

どうしてわざわざ遠くから修繕工事に?

昔の人はそれだけ信仰心があったのだろう。科学の発達していない時代は宗教こそが心のよりどころだったのかもしれない。みんな他力に頼りたかったに違いない。

京都に到着したのは、5月2日(木)の20時30分頃。

怪しく輝く5月2日の京都タワー

JR京都駅を出ると、怪しく光り輝く京都タワーがこれでもかと天を指差して「あっち!」と主張している。目的地は京都タワーの横を通り抜けて約800m北にあるらしい。

てくてく歩く。

夜のおひがしさんは、荘厳という言葉がよく似合う。門しか見ていないが……

ようやく東本願寺の端を抜けたところで、目的地である『東浅井詰所』を発見。ここは、おひがしさん修繕のためだけに建設された宿舎だ。オリンピックのためだけに建設された施設のような……

「京都駅から歩いて10分ほどですよ」

軽々しく言われたが、思ったよりも大変だった。たかが800m、されど800mだ。重い荷物を持って歩く800mはかなり長い。

私の住む長浜市は、市町村合併によって旧長浜市と旧伊香郡、旧東浅井郡の3つの自治体が合併した。旧長浜市の事情はよくわからないが、どうやら旧伊香郡と旧東浅井郡の人たちは、おひがしさんの修繕に深く携わっていたようだ。

信仰心の強さは、修繕のためだけに『伊香詰所』『東浅井詰所』が建設されたことからもうかがえる。そして、『伊香詰所』と『東浅井詰所』は、現在も旅館として残っていた。

東浅井詰所の外観

しかも、両方ともに近年建て替えられ、真新しい建物になっている。画像は『東浅井詰所』の玄関付近から撮影したものだ。3階建てで、1階部分のみ旅館として利用され、2階と3階は寮のように使用されているらしい。

安い!

数年前まではビジネスホテルはどこでも5,000円くらいのイメージだったのに、最近では5,000円で宿泊できるホテルを見つけるのは、私の財布の中からギザ10を見つけるくらいに困難になっている。

安いところを見つけたと思ったら、ことごとくドミトリータイプだったりして肩を落としてばかりだった。

「えっ?知らない人と雑魚寝なの?」

ときにはそんな出会いも楽しいかもしれない。しかし、今回は残念ながらそんな悠長な旅ではない。そんなときに思い出した。

「伊香詰所があるじゃないか!」

しかし、伊香詰所は人気のため予約できず。
「ほな、東浅井詰所に聞いてみたらどうですか?」
担当者に言われるままに、東浅井詰所に電話してみた。

どうやら、伊香詰所はネットでの予約も可能だが、東浅井詰所は電話予約のみとなっているらしい。部屋も空いていた。予約の不便さも相まって、簡単に予約できた。ネット社会万歳!!

最後はアナログが勝つ。

宿泊費は一泊4,000円(税別)とのこと。旧東浅井地方在住の方は3,500円(税別)らしい。激安である。残念ながら、私は旧伊香地方在住のため、4,000円での宿泊となった。それでも安い。

ただし、安いのには理由がある。

なぜ詰所は安いのか

もちろん、素泊まりの料金であることは大前提だ。そのうえで、料金が安い理由と考えられることがいくつかあった。

いや、いくつもあった。

トイレと風呂は共有

トイレと風呂は共有スペースにある。ビジネスホテルのように部屋にユニットバスが付属しているわけではない。

東浅井詰所の浴室

浴室は一般家庭の浴室と同じ感じのもので、広くも狭くもない。ただし、一人しか入れないため、他の人が利用している場合は開くまで待つ必要がある。

トイレと風呂は、女性も安心して宿泊できるように、男性用と女性用がそれぞれ別々に用意されていた。

久々だなぁ。こんな、せんべい布団。

宿泊した客室の様子

客室はそれなりに広いので、おそらく4人くらいは宿泊できると思われる。ただし、布団やシーツ、枕カバーは自分で掛け、朝には回収ボックスに片付けなければならない。

ゴミも同様に、共有スペースにあるゴミ箱に捨てる必要がある。ただし、それほど大きな負担にはならないだろう。

冷蔵庫やポット、電子レンジは共有スペースにあり、独り占めはできないようだ。「ほかの女性とは話さないで!」などと言う独占欲の強い人には耐えられないかもしれない。私の場合は、使う予定も使う時間もなかったのでとくに不便を感じなかった。

話を戻そう。

なるほどなるほど。セルフサービスを取り入れ、設備を少なくすることで人件費や設備費を安くしているのか。安さの理由を知って納得だ。

問題は……

寝苦しいことだ。
久々にせんべい布団で寝たという印象。残念ながら、身体の疲れは取れない。おそらくこの状態で何泊も利用することは不可能だろう。3泊以上の宿泊にはセルフサービスでマットか布団を準備する必要がありそうだ。

テレビはあるがWi-Fiはない

もちろん、Wi-Fiなんてものはない。机は長机が1基置いてあるだけだった。宿泊するだけなので問題はないのだが、なんだか殺風景に感じた。

歯ブラシがない

タオルは貸してもらえたが、歯ブラシやひげ剃りなどはなかった。しかたがないので、歯ブラシだけ近くのコンビニで購入。家にあるものを持ってくれば良かっただけなので、余計な出費だ。(約300円)

ひげ剃りは、1日だけのことなので諦めることに。まあ、誰も見ていないだろう。

『東浅井詰所』にはホームページもないのため、情報が極端に少ない。他力本願で「大丈夫だろう」と軽く考えると失敗する。電話で確認すべきだったと、刺し身の醤油皿くらい深く反省。浅すぎる……

総合的に考えると「ビジネスホテルって便利だな」という結論に至る。

京都に宿泊しているのに早朝5時半出発

なぜ京都に宿泊したのか。全日本武道演舞大会(通称京都大会)に出場するためだ。

ただ、立ち合いは午後だったため、わざわざ宿泊する必要はない。本当の目的は、3年間開催されなかった朝稽古に参加するための前乗りだ。

7時開始の朝稽古に参加するには、着替えや準備のことを考慮して6時30分頃には会場入りしたい。京都府は隣県(隣府?)なので、近いと言えば近いのだが、当日出発しようと考えると4時出発になってしまう。高速を利用するにしても5時出発だろう。

しかし、『東浅井詰所』から会場の京都市武道センター(京都武徳殿)は遠かった。距離はそれほど遠くないのだが、公共交通機関が意外と不便なのだ。

そして、駅から会場までも意外と遠い。平安神宮を超え、さらにてくてく歩かなければならない。

京都市武道センター近くの平安神宮

宿舎を出たのは、朝5時半だった。

あれ?

何のために宿泊したんだったっけ?もしかして、日帰りの方がラクなのだろうか……
京都武徳殿に到着するまで、心の葛藤が続く。

明治32年に建設された京都武徳殿(国重要文化財)

ぜひ東本願寺へ

おひがしさんに行くには、『東浅井詰所』がおすすめ。ぜひ、電話予約してみてほしい。『伊香詰所』も近くにあるが、少し不便なところだと、東浅井詰所の職員さんが言っていた。

私の立ち合いの様子は、こちらからどうぞ。(動画開始から5時間17分)

出典:YouTube「第120回 全日本剣道演武大会」

なかなか上手くいかないものだ。
他力本願を信仰する気持ちが足りないのかもしれない。

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