JOKER

これほど怖いと思った映画は無い。
上映当時、世界中が文字通り正しく「熱狂」し、賛否両論が渦を巻いた。
それはまさしく「JOKER」で描かれているものそのままであり、故にこの作品が如何に現実に即しているか、現実に起こり得るかを証明しているし、そして何よりもそのジョーカーに成り得るかということに旋律した。

前置きが遅れたが、今回取り上げる「JOKER」は俗に「ホアキン版」と呼ばれるものだ。
元ネタとしてDCの「バットマン」に登場する悪役・ジョーカーであることは既知の事実であるが、この作品を理解するのに「バットマン」を履修する必要は無い。
かくいう僕はDCもマーベルも苦手で、それらの映画やコミックは履修していなかった。
理由としてはシリーズが多すぎる上に読み順も悩むことから参入障壁が高いからなのだが。
この「JOKER」にはシリーズ履修の必要が無いと知ってからは、あらすじの段階で結構期待していて、そして期待以上だった。

以下にして主人公・アーサーはジョーカーになったのか――或いは成らざるを得なかったのか――……といった考察や解説の類はたくさんされているだろうから他の人にお願いするとして、自分がジョーカーの成り得るという危機感と恐怖を感じた話をしたい。
ここでいう自分というのは僕だけでなく、全ての人だ。
アーサーは精神的な病に侵されている節が描写されているが、優しい人ほど精神が参りやすいと僕は感覚的に思っている。
加えて、芸系をやっていると自分の中での満足のいくものができなかったり、自分の中の評価と他者こらの評価のギャップや、そもそも評価はおろかみむきもされず最低限の承認を感じられない孤独感・無力感というのは、自分との戦いの極地だ。
この二つが組み合わさるとさぁ大変だ。
自分と他者のどちらも大事にしたいがあまり、手に余ってバランスを崩す。
僕にも覚えがあるので痛いほどよく分かるが、そのタイミングで攻撃や嘲笑を受けたときの惨めさは(本来なら惨めに感じる必要は毛頭無いのだが、優しさ故に抗力であるハズのベクトルが自分に向くのだ)とてもとても辛い。
語彙力が無いので辛いとしか表現できないのだが、それが言葉通りの辛いなんてものじゃないのは、昨今の誹謗中傷で命を絶ってしまう人が多くいるのが証明している。
そして大なり小なり、芸系でなくても誰しもがそういった挫折感や孤独感を感じることはあると思っていて、それの耐性も人それぞれであるから、どこで「無敵の人」スイッチが入るか分からない。
芸系かつ精神に傷があり、しかし優しく、加えて裕福ではないという分かりやすい背景を持たされたからアーサーは映画の主人公を演じるキャラクターとなっているが、誰しもが同じ不発弾を抱えて生きているということを我々は忘れてはいけない。

もう一つ、この映画の恐ろしいところは「集団」となったときの人間だ。
インターネットのあるアンチ集団が行き過ぎた言動で犯罪に手を染めたり、或いは誰かを死の際まで追い詰めてしまったり……という構図はもはや見慣れてしまった。
リアルでもイジメはその典型的な例だと思うし、日本ではあまりないがニュースで見る過激なデモもそうだし、企業くるみで犯罪をしてました、なんてのもパターンは同じだと思っていて、人は何故か集団だと一人では出来ない・やらないことができるようになる。
まるでバッタの群生相だ。
同調圧力も一つの要因にあると思うが、幼児が親の言葉や動作を真似るように、「他の人がやっているから自分もやろう・やっていいだろう」という考えが無意識下にあるような気もする。
そして当選ながら人は「自分は間違っている」と思いながら行動することは基本的にない。
何故なら生物は自分にメリットが無ければ絶対に行動しないからで、間違った行動は自分に損しかないので正すからだ(犯罪は間違った行動だ!と思われるかもしれないが、例え瞬間的でも「この人を殺した方が自分にとって有益だ」と判断したから殺人犯は手に掛けるということ)。
故に、自分にとって間違った行動・損である行動を集団に合わせるために行わなければならないとき、人はその行動を「正当化」しようとする。
こうして損を理解しつつもそれ以上の益があるハズだと行動した結果、引き返せないので正しく正当化できるまでエスカレートするのである。

これらの様相が全て詰まっている映画が「JOKER」だ。
中にはこの映画を受け付けない人もいるだろうが、それはこの不発弾と集団の魅力に普段から気付いていて、尚それが自分にも当てはまる事実にも気づいている人の防衛反応にも似た忌避反応、現実逃避にも近い拒否反応だ。
ある意味それは正当な反応でもあると言える。
本当に恐ろしいのは、全くそれらの反応を自分に感じない人で、もし貴方がそうであるならば気を付けて欲しい。
貴方は世界の誰よりもジョーカーに成り得る人間だ。

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