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雲 の 行 方



雲よ—。
広大な空に浮かぶ雲よ。



君たちは どこで生まれ、 どこまで
放浪の旅を続けるつもりなのか?
暑さも寒さも空腹も知らない君たち。



君たちは姿・形さえ自由に変えられる。
透き通る広大な空が、君たちの生きる場所なら
僕は雲になりたい。 



君たちは僕よりもずっと前から生きて
この世界を眺めていたのだろう。
 


そんな君たちは僕を見かねて
そっと つぶやいたかも知れない。
『無理するのは、およし』…。
『やせ我慢は、およし』…。
 


でも雲よ—。
それならば教えてほしい。
下界の暮らしに馴染めずとも
君たちはどうして、悠悠自適に生きていけるのだろうか?
 


いつわりの笑顔の下には傷心が深々と横たわっていた。
心のはるか奥底は、人知れず
色褪せた死の湖よりも
厚い氷に固く閉ざされて。
 


雲よ——。
僕はいったい何を求め、何にあらがってきたのだろう?
閉ざしたままの心の内側は、まるで空一面の おぼろ雲。
修復不可能なほど、粉々に砕け散っていた。



この胸に手を当てれば、あらゆる追憶が 轟音とともに
哀しみの淵へ、なだれ込んでくる。

 


故郷を目指す渡り鳥の群れ――。
渡り鳥も何かを悟ったことだろう。



幾度となく僕の頭の上を旋回する。
せめてもの、さようならを言いたげに。
押し潰された臆病者を
そんなにも健気 (けなげ) に 気遣ってくれるのか?
 


雲よ——。
願わくば、教えてほしい。 求めた先にあるものの正体を
瞳を凝らすほど、遠くを見上げても
心の痛みが やわらぐでなし。



空はいま、深々と “秋” を装っている。
どこもかしこも 秋の静寂が漂うばかりだ。
 


物憂げな季節、日々に深まり
それは、町はずれの公園の
古ぼけた空間の周りにも確かにやって来た。



ひらひらと舞い落ちる枯葉を、僕は 憐れんでいる。
またひとつ、またひとつ…と、消え入りそうに溜息をついて。




ひとりきりの 秋の日の公園。
誰も寄り付かない 壊れかけたベンチ。
この場所なら遠慮なく、僕は嘆くことが許される。
だから、とうぶん 立ち去れそうにない。
 



雲よ——。
そうとも僕は臆病者のゆえ
君たちの仲間にはなれないだろう。
雲になるより前に、満身創痍になるのが関の山。



寄る辺なく、過ぎゆく時間を見つめていただけの
日常を繰り返してきた。



いや、『雑草』である僕にとって
本当は たいしたことじゃない。
(本当は たいしたことじゃない……)




毎度のことに違いなかった。
心が風邪をひいたのなら、治すのに一日あれば充分だ。
 



季節はいつでも、秋から始まるらしい。
哀しみの秋に始まり、むなしさの秋に終わる……。
季節の移ろいが、むしょうに哀しいと思う。




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♬BGM1曲目 ミュージカル ≪キャッツ≫ より『メモリー』
♬BGM2曲目『秋の一日』/下成佐登子
♬BGM3曲目『M』/プリンセスプリンセス
♬BGM4曲目『My First Love』/上原多香子
♬BGM5曲目『誘惑のテーマ』/ギリシャ映画
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