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小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(17)矛盾に気づいて

Chapter17


──漫画雑誌を読んでいたら、いつの間にかそれは「絵本」へと姿を変えていた。その絵本が光を放って僕を捉え、体の自由を奪ってしまった──

 トムは自分の頬を両手で思い切り叩いた。これが悪い夢であるならば、今すぐにでも覚めてほしいと心から願った。

「で、君はどこへ行こうとしていたんだ? 随分と焦っていた様子だが」

 男性の問いかけに、トムの意識は急に現実に引き戻された。彼は震える声を何とか鎮めようと努力し、心の中の不安を逸らすために早口で答えた。

「僕は人を探してるんです!! 僕が待ち合わせの時間に遅れたから⋯⋯きっと一人でブランコに乗ってると思って──」

「ほう。それはどんな人物だ?」

「僕の幼馴染です。レナっていう女の子なんですが、この間から行方がわからなくなって──」

 トムは自分の発言の矛盾に気づいた。彼女を探しているというのは事実だが、「行方不明」と、「待ち合わせの場所にいなかった」という事では、まるで意味が違った。

「ん? 君が待ち合わせの時間に遅れたから、彼女が行方不明になってしまったという事か? それはミステリーだな⋯⋯非常に興味深い話だ」

「すみません⋯⋯僕も自分で何を言ってるのか、わからなくなりました」

「いや、待て。その話の筋はなかなか面白そうだ。その限られた情報から考察するに、彼女は君に待ち合わせの約束をすっぽかされたわけだ。それで怒って、どこかへ行ってしまった。飛躍してしまうが、その彼女は君に好意を持っていて、『本当に心配してるなら、私のことを追いかけて見つけてちょうだい。ダーリン!』という意味にも取れる」

「ぷっ! 何ですかそれ? あのレナがそんな事言うわけないや」

 トムは男性の強引なストーリー展開に思わず吹き出してしまった。そのユニークな設定は、小説家志望の学生のアンテナにヒットし、これまでの恐怖からくる緊張をほぐした。

「ありがとうございます。 何だか、気分が晴れました。これまで色々とあって、精神的に参ってたんです⋯⋯いや、ちょっと笑ったら大分楽になった気がします。まあでも、そのお話の展開は無理がありますね! 面白かったですけど」

「いや、その設定で行く。俺が決めたんだ」

 その瞬間、男性の鋭い目がトムを睨みつけた。彼の体はまるで重い鉛をまとったかのように動かなくなり、金縛りの状態に陥った。断片的だった記憶が一つ一つ繋がり始め、全てが明確になっていく過程で、トムの耳には遠くでざわめくような不気味なノイズが聞こえた。

「君は、『絵本世界』の新しい住人だ。面白いストーリーを期待しているぞ」

 この不穏な雑音は、彼が別の次元に足を踏み入れたことを示唆しているかのようだった。


If you really care, come after me and find me. Darling!


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