小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(12)目を閉じて
Chapter 12
「芸術的幻影⋯⋯それって、具体的にどんな技術なんですか?」
「簡単に言えば、『理想の具現化』みたいなものかな? 僕も仕組みはよく知らないけどね!」
ふと、レナは自分のスマホが手元にない事に気づいたが、その具体的な手がかりとなる記憶は一切残っていなかった。
「⋯⋯その釣り竿のような技術や商品って、どこで手に入れるんです? インターネットで検索して買ったりするんですか?」
「インターネット? それも聞いた事がないな。君の学校では、そういう授業があるのかい?」
男性との会話が噛み合わないことに、レナは再び不安な気持ちになった。何かがおかしいと感じるもどかしさから、つい感情的になり声を荒げて言った。
「スマホがあるじゃないですか! 今は何でも簡単に手に入る時代です。ネット通販とかで!」
男性は少し驚いた様子で、困惑しながら答えた。
「おっと、ごめん。僕の言葉や知識が足りないせいで、君に満足いく答えが出せなかったみたいだね」
そう言うと、男性はまるで小さな子供を扱うかのような優しい態度で、レナに語りかけた。
「君が今、望んでいるものは何だい? 目を閉じて、頭の中にそれを思い浮かべてごらん」
「どういう意味ですか? 私をからかって⋯⋯」
焦るレナの言葉は、目を疑うような光景によってかき消された。男性が静かに瞼を閉じた瞬間、彼が手に持っていた釣り竿は、一瞬のうちにどこかへ消えてしまった。
「さあ、イメージしてごらん。目を閉じてみればわかるはずだよ? 大丈夫、君はさっきよりも落ち着いている」
疑う余地のない現実を目の当たりにしたレナは、マジックか何かだという疑念を抱きながらも言われた通り、静かに瞼を閉じた。
「君がさっき言ってた、スマホ? それはどんなものかな?」
「どんなって、携帯型のデジタル端末ですよ? 今じゃみんな使ってる⋯⋯」
目を閉じていたレナの視界に突如、真っ白なスクリーンが浮かび上がった。ざっくりと思い描いたスマホのデザインが、モノクロ写真のようなリアルさで瞬く間に形を成した。その驚異と不可解さに圧倒された彼女は、思わず目を開けて叫んだ。
「ええっ!? 何これ!?」
いつの間にか、レナの右手にはスマホが握られていた。それは彼女の小さな手のひらにぴったりと収まるサイズで、ずっとそこに存在していたかのような自然な感覚を与えていた。
「う〜ん⋯⋯途中で目を開けちゃったから、うまく生成できたかどうか?」
「生成って⋯⋯これは、一体何なの!?」
レナの思考は一瞬で凍りつき、感情は再び混乱の中に沈んだ。芝生の上で目覚めた時からの驚きの連続が、彼女の閉ざされた記憶の殻を突き破った。
「おい! 君!! 大丈夫か!?」
「公園⋯⋯ベンチ⋯⋯絵本⋯⋯」
そう呟いた直後、レナの足は力を失い、ゆっくりとその場に倒れ込んだ。
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