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<スペシャル鼎談>習慣化は面白い!IBM×WizWeが語る付加価値創造プロセスの再構成

今回は、日本アイ・ビー・エム株式会社の村澤 賢一 氏と八木橋 パチ 昌也 氏との鼎談をお届けします。

お客様と共に付加価値の共創を続けていく、クライアント・エンジニアリングというチームをお持ちのIBM様とは、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストへの出場がご縁となり、共創がスタートしています。

鼎談では、村澤氏が自らの経験から実感した習慣化の肝となる要素、そして、新しい習慣を組み込むためには古い習慣を捨てなければいけないのか、習慣化のキートリガーとなる会話総量についての議論など、習慣化に対する考え方についてじっくりお話しいただきました。

・日本アイ・ビー・エム株式会社
    執行役員 テクノロジー事業本部 パートナー・アライアンス事業部長 
    村澤 賢一 氏
・日本アイ・ビー・エム株式会社 
    コラボレーション・エナジャイザー/フューチャー・デザイナー 
    八木橋 パチ 昌也 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平


出会いはジャパン・ヘルスケアビジネス・コンテスト

森谷:ジャパン・ヘルスケアビジネス・コンテストがIBM様との出会いのきっかけでしたが、その時はどのような印象でしたでしょうか?

八木橋氏(以下、八木橋):コンテストのサポートを、日本IBMが推進しているスタートアップとの共創プログラム「IBM BlueHub」がやらせていただいています。「一緒に何かやりたいという会社があれば手あげしてください」とのことだったので、WizWeさんのプレゼンを聞き、迷わず手を挙げさせていただきました。それが2023年1月ですね。

こうしたコンテストではテクノロジーや先端技術にフォーカスしたものが多く、また医療業界は特に時間軸が長いのが特徴です。一方、当時村澤が担当していたクライアント・エンジニアリング事業の応援の仕方は、CVCやVCのようにお金を投入し、長い時間をかけて「成長を下支えします」というものではありません。比較的短期間で早く、かつ大きく社会やビジネスを変えられるかというところがポイントになります。

なぜIBMが、少なくとも私がWizWeさんのことを面白いと思ったのか。それは医療そのものではないけれど、習慣改善はより早くより多くの人を救える・支援できるテクノロジーだと、森谷さんのプレゼンで思い知らされたからです。

薬の飲み忘れや生活習慣病も大きな社会問題ですし、習慣の見直しは誰にとっても大いに役立つソリューションです。WizWeさんとIBMが手を組んで一緒にやっていくことで、世の中をより良い場所へ変えられるのではないかと思っています。

森谷:ありがとうございます。

毎日歩いて実感した習慣化の肝となる三要素

村澤氏(以下、村澤):習慣化というのは口で言うと簡単ですが、実践しようとするとすごく大変ですよね。個人的な話になりますが、私の家系の疾病歴で顕著なのが脂質代謝異常と動脈硬化です。祖父母も若くして血管障害で亡くなったこともあり、自分も40代に入ってから不安に感じることもありました。先のコロナ禍を機に一念発起し、生活スタイルの変革に着手し、日々の歩行を習慣化しました。毎月大体300kmぐらい歩いています。

森谷:300kmはすごいですね。

村澤:いつも皆さんから「信じられない・・・」と言われるのですが、本当ですよ。

森谷:歩くのが一番いいですよね。年齢が上がってもできますし。

村澤:若い頃はお客さんや仲間内でフットサルをしたりしていたのですが、腰を痛めて以来、走ると痛むようになってしまいました。今月も月初来今日現在234km歩いています。先月は342kmでした。1日最低7kmは歩くようにしていますが、週末はちょっと補完して歩いて1カ月大体300kmになるようにしています。

ところで、習慣化を要素分解すると、先ずは「何のためにやるのか」というインセンティブの観点がありますよね。例えば、皆さんが社会人として積み上げてきたスキルや経験値に対し、何がしかの社会環境の変化や新技術の発明により、これまでとは異なる軸のことをやらなくてはいけないとなった際、「何のために学ぶのか」というインセンティブがはっきりしていないと、新たなスキル習得を継続的に実践することは難しいですよね。インセンティブの明確化と、自分としての腹落ちがすごく大事ですね。

森谷:おっしゃるとおりです。

村澤:私が歩くことを続けているのは、食事に気を付けていても、毎年少しずつ血中中性脂肪や悪玉コレステロール値が上がってしまうからです。加齢による代謝力の低下を克服し、健康な人生を全うしたい。また、自分が病気になれば家族にも迷惑をかけてしまうのでやらなくてはいけない。このようにインセンティブが結構強いです。

あとは、継続しようとしたときの「負荷の程度」があります。私の場合歩行速度は時速5kmぐらいですので、1日7kmというと1時間ちょっとになります。日々の行動や生活の中に組み込めるレベルの負荷となっているかは、目標を習慣として定着させる上ですごく重要なテーマですね。学びの場でも、ビジネスのリスキリングでも同様かと思います。

そしてもう一つ。皆さん驚きますよね「月300km歩いている」と聞くと。そんな時、「月に300km歩くと年間で3,600km。月の直径が約3,500kmなので、夜空の満月を見上げ『1年間であれだけの距離を歩いているのか』と思うと、それはそれで面白いですよね」などと別の切り口からお伝えしたりしています。周りの方に共有したときに、「へぇ~」というリアクションでもよいので何がしかのレコグニションがあるということも、行動を継続する習慣化において重要だと感じています。

森谷:本当によく分かります。

村澤:インセンティブの明確化、管理可能な負荷、レコグニションの有無、この三つの要素が習慣化の肝なのではないか? これは日々の歩行習慣をとおしての気づきです。 WizWeさんのサービスにも、この三つの要素が組み込まれていますよね。

付加価値創造プロセスを再構成するクライアント・エンジニアリング

森谷:クライアント・エンジニアリングはどういったチームなのでしょうか?

村澤:実は、7月1日付でクライアント・エンジニアリングから、パートナー・アライアンス部門の担当に異動しました。パートナー・アライアンス部門は、弊社の製品や技術を活用し協業いただく企業さまと、新しいソリューションを組み立てたり、それを基に新しいお客さまを獲得したりという仕事を戦略的に進める部門です。

クライアント・エンジニアリングについてお話しすると、キーワードは「Co-Creation」、共に創る「共創」です。少し前に、共創系の取り組みとしてオープンイノベーションや企業コンソーシアム型の地方創生プログラムなどが盛り上がりましたが、そこから世の中を大きく変えるようなイノベーションが雨後の筍のように起き、どんどんトランスフォーメーションが進んだかというと、そこまで定着化できていないという理解です。付加価値創造プロセスそのものをモデルチェンジするということの難しさを実感します。共創活動の進め方や手法も、まだ発明の途上なのではないかと感じています。

一般的にエンジニアリングというと、製造業におけるエンジニアリングをイメージしがちですが、エンジニアリングという言葉そのものに「付加価値創造」という重要な意味を見出しています。得意分野を持った者同士が、早いタイミングで手をつなぎ新しい価値を創造していく。この付加価値創造プロセスの再発明を、日本市場全体でより速く進めていく必要があります。そこで、IBMは2021年の年初に、お客さま企業との共創を前提に価値創造プロセスを再構成していくことをミッションとした、クライアント・エンジニアリングというチームを創設しました。

お客さま企業やビジネスパートナー企業と連携し、アイディア整理の上、実現価値定義をし、その上で実現可能なデザインに落とし込みます。その有益性に合意いただければPoCからもう一歩踏み込んだMVP(将来の製品開発に役立たせるための最小限のプロダクト)をつくり、お客さまにその価値を検証いただき、ご納得いただいた上で実際にソフトウエア製品を購入いただいて、実サービスや製品を仕立てていきます。この最初の入り口をお客様との共創を前提に無償で提供する専任チームということで、社内の役割分担としてはプリセールスを担っています。

このような価値創造プロセスの再構成には、ITやデジタル技術に明るいだけでは駄目だということで、クライアント・エンジニアリングは五つのケイパビリティ領域を軸としてチームを編成しています。

まず、UIやUXデザイナー、次にデータサイエンティストやAIエンジニア、そしてクラウドネイティブでフロントエンドもバックエンドもインテグレーションできる開発者、 ビジネス価値を整理するビジネス・テクノロジー・リーダー、さらにソリューション全体の構造を組めるソリューションアーキテクトです。

もう一つ特長的なのが、企業がこうした取り組みを行おうとすると内部人材を集めチームを編成する場合が多いのですが、クライアント・エンジニアリングは全体メンバーのうち約80%が社外から転職してきた中途入社の社員です。外からの新しい血を大量に入れ込むことで、多様性と前へと進む推進力を手に入れました。

新しい習慣を組み込むために古い習慣をいかに捨てるか

八木橋:クライアント・エンジニアリングというチームの中では、古いハビットを壊して、新しいハビットを身に付ける、新しい行動様式や思考様式を自分たちに取り入れるために、時代遅れあるいはバリューを見いだせなくなったものをいかに捨てるかということが、ポイントになっていました。

すごく聞いてみたいのですが、習慣化がWizWeのコアというところで考えると、新しい習慣をつくるということと、逆に古い習慣を捨てるということについて、森谷さんにはわれわれには見えないものが見えているのではないですか?

村澤:習慣を振り切るときのグラビティはやはり強烈ですよね。

森谷:基本24時間がコップだとすると、水はもう既に満たされています。新しく加えることはできません。ただ、テクノロジーの進化で時間は生み出されます。例えば、最近だとスマートフォンの登場で、通勤時間に動画を見るというようなことですね。この部分は新しい習慣として組み込めますが、それ以外は時間を捨てなければ入ってこないです。何を捨てるかというところからスタートしますね。

村澤:クライアント・エンジニアリングの付加価値創造プロセスを再構成するという観点でいくと、やはり捨てるべきところは捨てなくてはいけない。

森谷:おっしゃるとおりです。

村澤:これがなかなか捨てられないですよね。これまでのやり方はどちらかというとクローズドイノベーションで、いわば「混ぜるな危険」の世界です。閉じた環境で完全性の高いものを生み出していくのが基本プロセスで、それを得意としていた時代が長期間続きました。

しかし、よく八木橋とも話すのですが、混ぜるな危険の時代から「混ぜなきゃ危険」の時代ですよねと。従来のやり方を打破して、早いタイミングから価値と価値の連携を目指して広く外側とつながっていく必要が出てきた。ただ、混ぜなきゃ危険と急に言われても、それまでのハビットがありますし、そのハビットがある種、歴史ある伝統の型となっているのが現状です。

そこを打ち破り新しいモデルを組み立てていくために、捨てるべきところを捨てていくということを、現場からミッドマネジメント経営層まで含めて積極的にやれるような風土環境になっているかというと、一筋縄ではいきません。そうした状況においてお互い利するようなビジネスモデルをどうつくっていくのか。すごく難しい部分です。
 
ただ、企業の活動においても、冒頭の個人の習慣化の話と同様のことが言えるのではないか。つまりある種のインセンティブと適正な負荷とレコグニションをセットできれば、企業に習慣を定着させ、そこから新しい形が継続的に生まれる枠組みをつくるということにもつながっていくと思います。

今、私が担当しているパートナービジネスにおいては、多くのパートナー企業さまやお客さま企業と連携しており、習慣化というテーマでWizWeさんとも連携できる機会が増えてくるのかなという期待値もあります。

例えば、日本では1000人以上の従業員規模数を持つ企業数は、約140百万社にのぼる全株式会社のうちの0.2~0.3%位と限られており、多くは中規模かさらにそれよりも規模の小さい企業体ですよね。

WizWeさんの習慣化サービスを活かして変革に取り組んだ場合、企業規模別に様子が異なるのか、あるいは同じ考え方でやれるのかなど、どこから手を付けていけば一番効率よく全体が変わっていくのかという話を含めて、いろいろなテーマをお持ちなのかなと思っています。その辺り、WizWeさんのサービスの中で、 何かヒントになりそうことはありますか?

森谷:時間の使い方の話なので、基本的にやってできないことはない世界です。例えば、とても熱量の高い人事教育担当者がいらっしゃって、英語のeラーニングを何とかやり抜かせたいということで、自分で一人一人に督促をしに行きます。ただその方は一人で人の力だけでそれをやろうとすると、ほとんどの業務時間をそこに投下しなくてはいけません。他の仕事に取り組む時間がなくなってしまいます。

前例があってやり方がある世界ですので、基本は積み上げと改善で何とかなります。私たちはもともと教育の習慣化をやっていました。コロナ禍で私の体重が増えてしまったので、オンラインフィットネスで痩せられるかどうかを試してみたら、これはいけるのではないかとなりまして、そこからヘルスケア領域にも入っていきました。

最初はフィットネスもうまくいかなかったのですが、「まずやってみる」、「習慣化サポートを仮説ベースで思い切って当ててみる」、「その一つ一つの結果を分析する」、すると「ボトルネックが見える」、「改善する」というこの繰り返しでうまくいくようになっていきます。その中で、われわれのやり方のキートリガーは、間違いなく会話ですね。

失敗ケースというのは会話が存在しない、会話総量が少ないです。組織の中の習慣化であっても個人への習慣化であっても、Individual (つまりは、一人だけで切り出され、孤立した状態の「個」)には、モチベーションもハビットも存在しません。逆が対話であり、グループであり、組織的熱量ですね。日常会話空間における熱量が担保されると往々にして人は動き始めます。

私たちが定義するモチベーションや熱量、習慣化の源泉は何かと言うと、自分がこうなりたいと外に出して、それを自分以外の他者が承認(レコグナイズ)することです。自分の外へ「コトバ」として出して、自分以外の他者と共有の目標とすることです。自分以外の味方をつくるとも言えるかもしれません。目標が共有されることで他者が自分にフィードバックしてくれる構図が生まれます。

村澤:先ほどのレコグニションのところですよね。

森谷:おっしゃるとおりです。その瞬間に、自律自走の種が生まれるというのが、簡単な基礎構造です。会話によって人類は進化したので、これは人類史上の基礎構造ですね。ただ、今は皆さん忙しくてそれを生み出せない状態に埋まっています。

では、その時間をどのようにつくるか。実はスタート前に決まっています。われわれのモデルは7割が統計的には行動継続するのですが、100%ではないので、失敗するケースもあります。何で失敗したのかと考えたところ、事前にそのプロセスをきちんと経ないといけないということが分かっています。

会話総量は減っているのか増えているのか

八木橋:個人ではなくて、組織として習慣を変えたいというオーダーは入ってきますか?

森谷:多いですね。個人であっても、例えばフィットネス事業や健康食品などでは、お客さま1人を取り巻く人間は1人ではありません。フィットネスクラブでは通う店舗のマネージャーさんがいて、店舗の受付の方がいて、サポーターの私たちがいます。ここに1人ユーザーさんが変わると、4人のコミュニティーになります。このユニットですね。

八木橋:少し話が飛躍し過ぎかもしれないのですが、私はずっとサステナビリティの分野を追いかけていまして、気候危機、特にCO2排出量に関心を持っています。この分野にはスコープ1、スコープ2、スコープ3という排出区分があり、とりわけ製造業などが顕著なのですが、ティア1と呼ばれる上位メーカーがCO2排出量を減らすために構造ややり方を変えると、その下のティア2、ティア3のやり方も一気に変わり、CO2排出量の激減へとつながりやすいんです。

ですから組織においても、鍵となる部門が行動や思考の習慣を変えたら、ものすごくたくさんの組織や人に、ポジティブな思考変化や習慣変化が生まれ、社会変革につながりやすくなるのかもしれないですよね。とはいえ、鍵となる組織が悪いほうに走ってしまったら、逆の影響を受けるということもあるので表裏ではありますが。

森谷:今の日本はすごいチャンスだと考えています。日本の社会は、近代から広がってきたときに、土地に根ざしながら、各種インフラがビルドアップされてきましたよね。ただ、人口が急激に減るので、恐らくその生活空間やコミュニティー、地域というものを再編せざるを得ません。コンパクトシティとも言われますし都市部ではスマートシティとも繋がる話に思われますが、きっと日常生活における行動様式が変わります。

八木橋:素朴な疑問なのですが、先ほど「会話総量」と言われていたのは、バーチャルな空間、例えばチャットやオンラインボードでのn対nの書き込みのようなものも含めた意味でしょうか。もしそうであれば、実は会話総量は増えているのではないかという気もするんです。

村澤:森谷さんのおっしゃっている会話総量は、恐らく胸を打つ会話ということなのでは。

八木橋:情報ではなくて、情緒とか、そういうものの交換や伝え合い。なるほどそういうことですね。

村澤:コミュニケーションのあり方も、旧来のFace to Face中心から、対話のチャネルがマルチ化し、過渡期にありますよね。われわれの世代は、認知の幅やスピードの観点から、相変わらず会ったほうが早いと思っていますよね。でも、デジタルネイティブの世代は、異なる世界観を持っています。世代ギャップと言ってしまえばそれまでなのですが、今それが複雑に混在していて、あらゆるチャネルにみんなが巻き込まれているという状態です。

ただ、その中で本当に意味があるコミュニケーションというのは何なのか。おそらくは、意味のある、心に沁みる力のあるコミュニケーションの総量が、チャネルを問わずもう一回整理されていく過渡期にあるのではないでしょうか。そこに焦点を当てたサービスを展開できれば、WizWeさんのサービスの仕組みをもっと広く生かせるだろうなと思っています。

森谷:まだ数値化しきれていないところですが、最適ノウハウを供給した交信の総量ではなく、感情交流の指数があります。感情交流がしっかり樹立できたときは習慣化します。そして大前提は、行動をトラックするKPIに無理がないことですね。頑張りますという声はマイナスでしかないので、続くことが苦ではない設計が必要です。

村澤:そうだと思います。

八木橋:今、頭の中に、愛されるために生まれたロボットである「LOVOT」のことが浮かんでいます。GROOV X代表の林さんとラポールについてお話をしたときのことを思い出しました。

村澤: LOVOTも、外側から働きかける一つのデバイスで、それに対してある種の親しみや情動が生まれてくるというのは、人間というか動物の面白いところだと思いますね。

森谷:分かってきたのはストーリーの重要性ですね。人間というのはそれを見ながら育っていきますので。

習慣化は面白い

八木橋:習慣化ということを考えたときに、古い習慣を捨てない限り新しい習慣を入れられる時間や余裕がないという話には、個人的にいろいろと思うところがあります。いかにやめるか。

森谷さんは、プレゼンなどでよく三日坊主の話をされますよね。でも私は、三日坊主も重要なのではないかとも思うんです。要は、いかに早くこれではないと見極められるかということ。もちろん良いものを三日坊主にしないことは重要ですが、一方で三日坊主の持つメリットとどうかけ合わせていくのか。そしてもう一つ別のテーマとして、組織が個人の習慣化のコントロールを手にしたときのことを考えると、どれだけ操られてしまうのだろうかという怖さもありますよね。

森谷:そうですね。インパクトロジックと言ったことをお話すると、私たちのモデルのプラスになりますよねと言われることもありますね。そういったときに、やはり倫理の話は避けて通れないですね。

八木橋:社会では今、エシカルAIが議論されていますが、デジタルを活かしたプログラムにAIが入ってくるのはもはや必然といえるでしょう。ただそこで倫理の部分をどう確立していくのか、実行していくのかですよね。しっかりと公平性と透明性を担保し、「WizWeがやっているのだから大丈夫」、「森谷さんだから安心」という信頼感をどうつくっていくのか。一つの失敗が大きな反発を招く「キャンセルカルチャー」とも呼ばれる社会の中では、誰と、どうやってパートナーシップを組んでいくのかが非常に重要ですよね。WizWeさんもそこは当然お考えになられていると思いますし、われわれとしても、パートナーシップづくりにおいて倫理観がより重要となっています。

村澤:先ほど、24時間365日埋まってしまっていて隙間がないと、新しいことを入れられないという話がありました。われわれとしては、生成AIという技術は、うまく使えば新たな隙間を捻出することができる技術だと思っています。そして、より安全に安心して使っていただけるようにと、今年5月にAIデータプラットフォームをIBM watsonxとして再構成しました。生成AIのコア機能であるIBM watsonx.ai、それを支える質の高いデータ群を管理するIBM watsonx.data、八木橋が言ったような倫理や安全性を担保するためのIBM watsonx.governanceです。
 
生成AIの積極活用をとおし時間的余裕が捻出され、そこで新しい付加価値創造プロセスモデルを定着化することができたとき、新しいものが次々と生まれる好循環になっていくのではないでしょうか。

ただ、気をつけなければならないのは、組織におけるハビットは、いずれそれがカルチャーとなるということです。より公明正大で透明性の高いカルチャーでないといけない。そこをどういうふうにデザインするかは、未来の経営へと連なる大きなテーマだと思います。習慣化というキーワードで、それをうまくデザインできると面白いかなと思いますね。

八木橋:人や組織に良い習慣をつけ、ディーセントな社会や組織をつくることに有効な手法と思想を広げるためのWizWeであってほしいなと強く思います。面白いですよね、習慣化。

森谷:大変ですが、面白いですね。いろいろな方とお話ができますので。コンテンツプロバイダーの方もプラットフォーマーの方も。

村澤:WizWeさんが提供している質の高いコミュニケーションを通した継続性の担保により、利用者の内発的な動機がグッと出てきたとき、御社の提供サービスの真の価値が広がっていくのでしょうね。

森谷:そうですね。卒業モデルになる必要があるのが習慣化です。今、フィットネスクラブからのお話が多いのですが、往々にしてお客様は6カ月の壁を超えると、少し運動継続の効果が見えだして、「こんな効果があった」「実はこれだけ続いている」と、得た効果や、自分が継続していることを外に向けて発信し始めます。すると「おぉ!」「すごい!」と周囲の承認がはじまります。こうなってくると、日常生活への習慣定着は自走ステージに入ったとも言えます。

村澤:レコグニションの世界ですよね。その中で新たなテーマやインセンティブが自己認知されることで、また原動力になってくる。ここは本当にすごいですよね。習慣化というのは、力強いエンジンを回す燃料だと思いますね。面白いですよね。

森谷:私たちも日々発見の連続で、失敗から学ぶことが極めて多いですね。失敗ケースを分析し、本当に一歩一歩重ねていくというそんな世界かなと思っています。

本日はありがとうございました。