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<スペシャル対談>熱量が人の感情を動かす!「あすけん」×「Smart Habit」ユーザーさんに喜んでもらえるサービスを届けたい

今回は、AI食事管理アプリ「あすけん」を開発・運営する、株式会社askenの取締役であり管理栄養士でもある道江美貴子氏にご登場いただきました。

会員数800万人を超える大人気アプリとなった「あすけん」は、管理栄養士のノウハウとAI技術を組み合わせ、ダイエットしたい、健康になりたいという方々のためにつくられた、食生活記録・改善のサービスです。

「あすけん」アプリ誕生の話から始まった対談は、習慣化、AI、そして人の感情を動かすという話にまで発展。今回も盛りだくさんの内容でお届けします。

・株式会社asken 取締役 管理栄養士 道江 美貴子 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平


いいサービスをつくって届けたい!「あすけん」アプリ誕生の経緯

森谷:食事管理アプリ「あすけん」は、どういった経緯で生まれたのでしょうか?

道江氏(以下、道江): 「あすけん」は、創業当時はBtoB向けのサービスとしてスタートしました。askenの親会社は社員食堂などを全国で展開している株式会社グリーンハウスなのですが、栄養士が約2000名、その中に、管理栄養士も300~400名ほど在籍しています。

2008年に特定健診・特定保健指導の法改正があり、特定保健指導が義務化されるという流れの中で、特定保健指導に関連するビジネスをグループでできないかという話が上がっていました。私は管理栄養士として親会社のグリーンハウスにいたのですが、その取り組みに参画する管理栄養士を募集するという社内公募に手を挙げてaskenにジョインしました。
 
当時は、管理栄養士が保健指導をするときには、事前に対象者の食事を3日分程度、紙に手書きしていただいて、それを栄養計算して指導するという方法が一般的な方法でした。そこを自動化したらいいのではということで始まりましたので、コンセプトとしては、今とは提供先が違う形でのスタートでしたね。

森谷:新規事業の立ち上げは大変ですよね。

道江:最初の3年ぐらいは本当に右往左往していましたね。もちろん赤字ですし。2008年にローンチしたのですが、1年もたたずにB to Bだけでは難しいという結論になりました。特定保健指導でこのツールを使えないかと営業もしたのですが、15年前というとまだ健康経営という言葉もない頃でしたので、サービス自体はいいよねとは言っていただけるものの、お金がなかなか出てこないという状況でした。

そこで、インターネットで食事記録ができるところまではつくっているのだから、コンシューマーのほうに出したらいけるのではないかという話になりました。かっこよく言えばピボットなのですが、当時はそんな余裕もなく、なんとかして事業にしないといけないという感じでしたね。
 
その時は、パソコンサイトでレコーディングダイエットが簡単にできる、という形で出しました。出した頃は、そこまでレコーディングダイエットというワードは有名ではなかったのですね。少し後に、岡田斗司夫さんのレコーディングダイエットで痩せたという本がベストセラーになって、レコーディングダイエットというワードがすごく有名になりました。それから使ってくれる方が増えましたね。

そうは言っても、その当時はまだ5万人ぐらいだったのですが、当時は、5万人でもダイエットのツールとしていけるのではないかと、社内では盛り上がっていました。

森谷:意思決定が早いですね。大手企業様の中での新規事業というのは、決める速度などいろいろ問題がありそうですが、お話を伺うとすごくスタートアップ感を感じます。

道江:親会社がIT企業ではないため、その点においては、上層部からの指示や意思決定はさほど強くはありませんでした。自分たちでどちらが適切かを考えて、実行していける環境を整えていただいたと思います。

だからといって、B to Cですぐにマネタイズができたわけではありませんでした。パソコンサイトの広告収入が少しある程度で、物販もしてみましたが、結局2013年にアプリを出すまではそれほど大きなビジネスにはならなかったです。結局、「これでいける」と感じられるまでに7年ぐらいかかりました。アプリを出してからは成長軌道に乗れたのですが、事業として飛躍するイメージをなかなか持てない時期が長かったですね。

森谷:その時期を乗り切ったのがすごいですね。みんなで何とかしようという感じだったのですか?

道江:創業当初は10人ほどのメンバーでしたが、2010年ごろに一旦縮小ということで、4人になりました。資金も限られており、4人では取り組めることが非常に限られていました。ただし、サービス自体は存在していたため、ユーザーの皆さんが喜ぶようなことを、手作り感満載で少しずつ行っていました。
 
その頃は売り上げもなかったのですが、独立系ではなく親会社があるおかげで、一部署のような感じで、管理部門のことなど色々助けてもらっていましたね。サービスはあるので、運用や情報発信を中心に粛々と行っていました。そのときが、すごく苦しい時代だったのかと言われると、思い出が美化されているだけかもしれませんが、意外とそうでもなくて、4人で好きなサービスをつくっているという感覚でしたね。

森谷:わくわく感がありますね。

道江:どちらかというと、大きく稼ぐことより、目の前にあるものをいいものにしていこうという、ものづくり的なところに時間を投資していました。

森谷:私たちの習慣化も、10年ぐらいかけてようやく今に至ります。やはり、それぐらいの期間が必要な気がしていますね。

道江:本当にそうですね。新規事業は3年でクローズというパターンが多いですが、もう7年待ってもらえていなかったら、今の「あすけん」はなかったとよく話しています。

森谷:そのときの積み上げがあるから、アプリを出してうまくいったということもあるのでしょうか?

道江:アプリを出した2013年頃には、ユーザーさんが15万人くらいになっていました。長く使ってくださっているコアな方が多く、ユーザーさんからスマホアプリで使いたいという意見が上がってきていた状態でしたので、リリース時、大々的に既存ユーザーさんにダウンロードを呼び掛けたところ、1日で5000ダウンロードしていただけました。それが何日か続いたことで、割と早くランキング上位にいけましたね。

アプリをリリースしてすぐに軌道に乗れたのは、そこまで使ってくださっていた既存ユーザーさんのおかげだと思います。何もないところからダウンロードしてもらうまでがとても大変だと思うのですが、広告費などを一切使わずに軌道に乗れたので、本当にユーザーさんに感謝ですね。

森谷:皆さんが自律的に使う形ですよね。そうすると行動デザインをすごく考えていかなくてはいけないと思うのですが、それはアプリになる前から一つ一つ改善しながら構成などを変えていったのでしょうか?

道江:最初は、栄養士のリアルな行動をとにかくIT化しようという試みでした。まずは食事を聞き取りする、栄養計算のために食事内容を入力するというところですね。記録については、記録のしやすさや分かりやすさの部分を改善していきました。

その後に、どういう視点で改善のアドバイスを送るのか、栄養バランスを見るのかというところについては、かなりヒアリングをしたり、自分自身も栄養士としてどういう視点でアドバイスをしたらいいのか考えたりしながら、それを自動的に出すということを行いました。アドバイスの出し方や使い勝手などは、長い間ユーザーインタビューやアンケートでUIUXを磨いてきています。

森谷:アプリをリリースするまでに、どれぐらいの時間をかけて調整してきましたか?

道江:「あすけん」には、未来(みき)さんというキャラクターがいるのですが、パソコンサイトのときから使ってくださっているユーザーさんの中には、未来さんに愛着を感じてくださっている方がいらっしゃいます。点数をつける仕組みもあり、健康度などに反応してくださる方もいらっしゃいました。

これらは初期のコンセプトなのですが、それをずっと守ってきています。時間だけはありましたので、とにかく毎日違うメッセージを出すなど、ユーザーさんとのコミュニケーションをどのようにしていくかというところは、未来さんを通じて丁寧につくりこんできたと思います。

森谷:素晴らしいと思います。私たちも、習慣化の伴走サポーターを付ける「Smart Habit」を、すごく低コストにしようとしているのですが、そもそもは完全に人が伴走するところからスタートしています。ユーザーさんとの対応のところに、徐々にITを入れていった形です。とてもよく分かります。

道江:最初は栄養士に写真を見せて、この場合はどういうことを言いますかといったインタビューを行っていました。でも、健康行動というのは、分かっているけれどできないというものですよね。最初は正しいことを正しく伝えるというところから入ったのですが、そのうちに、「ちょっとアプローチが違う」、「ダメ出しばかりだとみんなつらい」、「そういうことを言われたくない」となってきて、ユーザーボイスなども受けながら、少しずつ変えてきました。

分かっているけれどできないという気持ちを未来さんが分かってあげて、「いや大丈夫、でも続けることが大事だよ」と言う。そういったコミュニケーションに自然に出来上がってきたと思います。

最初は本当に先生みたいな感じで、「これではいけません」というようなアプローチをしていたので、そこは変わっていますね。今でも、もっと違うアプローチがあるのではないかという話はよくします。

森谷:私たちも同じです。最初は最適解を提供するのがベストだと思うのですが、正しいノウハウというのは、あまり人に求められてないですね。

道江:結局は、励ましてほしい、もう大丈夫と言ってもらいたいということですよね。ですから、どういうタイミングで、そういった言葉を掛けていくのがベストなのかを変えてきたところは一緒かもしれないですね。

森谷:愚痴を聞くといった寄り添い系のヒアリングがすごく効果がありますね。また、発話として「ありがとうございます」「感謝しています」という声はポジティブで、「頑張ります」はあまりポジティブではないというようなことも、これまで苦労しながら取り組んできた中で分かってきたことですね。最初は全然分からなかったです。

道江:栄養士のフィードバックも年々変わってきていて、まだまだ改善しなくてはいけないところもあります。ティーチングではなくコーチングであったり、ピアサポートのような形であったり、そういう方向に変わってきていると思いますので、未来さんも少しずつ優しくなれるように進化させたいと思っています。

コミュニケーションと習慣化の関係

森谷:ヘルスケア領域の習慣化では、健康増進系のお話が多いのですが、そのものを目的とせずに、異なるエンタメと組み合わせたほうがいいというアドバイスをよくいただきます。例えば、eスポーツを皆さんが一緒になって楽しんでいるように、アプリでもそういった体験を提供するというようなことです。

道江:楽しみながら取り組むということですね。分かっているけれどできないという方も多いと思うのですが、習慣化するためにはどういったことがポイントになってくるのでしょうか?

森谷:ファンですね。楽しいから続けるというところに持っていく。御社のヘビーユーザーの方々は、きっと楽しく続けていらっしゃると思います。その楽しみをどこでデザインすればよいのかを悩んでいたのですが、2014年に初期的なものができました。それは仲間と共に楽しくやるということでしたね。

道江:同じ仲間が集まって、コミュニケーションを取りながら続けていくという感じですか?

森谷:最初は、さあやるぞ!という感じでわいわい、ああだこうだ文句も言いながら話します。その後に、伴走者が付いてスタートしていくのですが、起爆剤は「仲間と共に」のところですね。自分の中の気持ちを吐露していただいて、それに対してああだこうだ話す。

2014年頃は一緒のグループの人たちで最後に飲み会を実施していました。飲み会では文句がたくさん出るのですが、終わるとみんな生き生きしていましたね。ただ、体力がもたなくなって飲み会の実施はやめましたけれども。

道江:コミュニケーションというところで言うと、「あすけん」には日記があります。1人で孤独にダイエットするよりは、頑張っているとか、自分はこんなにできないということを共有できる場所があって、そこでお互い励まし合えば長く続くのではないかというコンセプトでつくったものです。

でも、コミュニケーションが好きな方と、そうではない方がいらっしゃって、好きな方は日記を使うことで続くと思うのですが、そういったタイプは考えて対応されていらっしゃいますか?

森谷:現状は全員出ていただいています。なかなか発話が難しい方には、うまく発話ができるように促すなどしているのですが、好き嫌いがあるかもしれないですね。

道江:最初に、この人たちと一緒に取り組んでいくという輪ができると、継続率は上がるのでしょうか?

森谷:私たちはラポールと言っているのですが、人間の脳みその中に固有名詞の空間があって、その外に固有名詞ではない人たちがいらっしゃるときに、その中に入ると話がしやすくなります。まず、この固有名詞のラポールの中に入るということを重視しています。ポイントポイントで、仲間と共にわいわいやるとラポールの中に入りやすいということはありますね。

伴走というのは一対一になりますが、仲間に囲まれているとさらにうまくいきます。一緒に集まって実施するリアル接続やオンライン上でという場合もありますね。

道江:健康経営の場合、会社から言われてということが多いので、中にはあまりやる気がない方もいらっしゃると思います。そういう場合は、ただ単に使ってねと言うよりも、人が付くとか、最初に集合セミナーを開催して目標を立てるとか、一手間を入れることでツール継続率が高まりますよね。その後、栄養士が1人付くともっと上がるということもあるのですが。誰かに見られているということが重要なのでしょうね。伴走者はできてないからといって怒る人ではないですしね。

森谷:そうですね。どちらかというと悩みを聞く人です。「私もできないです。分かります。」というような。

道江:寄り添いですね。

森谷:そうですね。あとは、目標の設定がすごく重要です。最初は何でも習慣化ができると思っていたのですが、目標がないものは習慣化ができないことが分かりました。

道江:なるほど。確かに、勉強でも何でもそうですね。

森谷:具体的な目標があればあるほど、すごく習慣化しやすくなります。何をやってもいいよという場合が難しかったですね。昔、すごく自信満々で提供して何度か泣いたことがあります。挫折が多くて通用しないということがありました。

道江:そういう意味で言うとダイエットや筋トレなどはすごく分かりやすい目標ですよね。見える目標。

森谷:数字で測れることはすごく重要だと思いますね。見えないと続かないです。

道江:そう言われて初めてそうかと思ったのですが、確かにカロリーや体重で、その人なりにこの数字をこうしようという目標ができてくると、それがモチベーションになるということはありますよね。

森谷:私は、語学から始めていますが、英語の世界でTOEICという試験ができたことは非常に強いです。創業者の方も、まさに体重計に乗るように英語力を測らないと身に付かないとおっしゃっていて、測るということが習慣化の原点なのかもしれないなと思っています。

道江:変化が見えるということですよね。「あすけん」でも、もちろん体重は見えるのですが、1週間では変わらないですし、1カ月でも難しいという人もたくさんいらっしゃいます。ですから、体重が変わる前に離脱してしまう人が非常に多いです。体重は減っていなくても、その短期間に何か実行したことでの変化をどう感じてもらえばいいのだろうかとよく考えますね。

カロリーが適正になる回数が増えた、野菜を食べる量が増えたなど、ちょっとしたことに気付いて、未来さんの言葉として発信していくという部分をもっと強化していく。そして、もっと違った表現でそれを見せてあげられないだろうかという話をちょうどしているところです。

森谷:測定を入れたかどうかで継続率を比較したところ、2.7倍違いました。インタビュー系で、どれぐらいの成果があるのかを測るものなのですが、測定を受けている人と受けてない人はそれぐらい差があります。実は、成果が上がったかどうかより、測定を受けたかどうかのほうがはるかに優位でした。

道江:測定してもらうことがすごくいいということですね。実感できるから。

森谷:そうですね。あとは、上がらなかったことへの不安に対するフィードバック「次までもう少し頑張ってみましょうか。今回は上がらなかったですけれど、3カ月後にはこの統計からすると70%ぐらいの確率で上がるケースが多いですよ。」という一言が重要です。

道江:このまま続けても意味がないよねという気持ちを少し変えていくということですか?

森谷:先が見えないところの霧を少し晴らすということが重要なのだと思います。

AIと人間の感情

道江:「あすけん」もリアルな人を付けられたら付けたいのですが、人数が限られてしまうので、できるだけ自動でしたいという気持ちはすごくあります。まだまだ道半ばですね。

森谷:そこはすごくよく分かります。そこはAIの領域の活用が必要ですね。

道江:最近はジェネレーティブAIがでてきて飛躍的にAIでできることが増えているので、うまく活用してというところなのですが、人間というのは複雑で、感じ方がそれぞれ違うから難しいですね。

人は雰囲気とか空気で判断できる能力が本当にすごいと思うのですが、プロの方なら、ちょっと話すと、この人はどういう人で、どういうふうに応対したら心を開いてくれる人かということがわかったりします。まだAIではそういったところまでは即座に分からないですよね。

例えば、1週間使えばあなたのことが分かってもっと最適化されますというところまで持っていけるといいなとは思っています。AIも発達しているので、これからはそういう取り組みがどんどんできてくるのかなと期待しています。

森谷:私たちの場合、電話がとても重要です。生声の運んでいるメッセージという意味だけではなくて、電話でつながったかどうかですごく変わります。最初に中に入ることがすごく重要なのですが、その電話を全部するのはかなり重たさがあるため、何かいい方法がないかなと思っています。でも、自動応答は駄目ですね、電話がつながるかどうかも分からないですし。

道江:お話を聞いていると、人でリアルなことをされていて、そこから一部デジタル化して行くということを考えていらっしゃると思うのですが、そのアプローチが弊社とすごく似ていると思いました。

森谷:近いですよね。

道江:栄養士がリアルで行っていたことをデジタル化したというところとすごく共通点があると思って聞いていました。今、ChatGPTで、栄養指導が要らなくなるのではないかという話を周りから聞くのですが、人の力とChatGPTが答える力の差分はどのように考えていらっしゃいますか?

森谷:現状は、まだ人間の心を動かす力はないですが、学習総量が上がると、それも可能になるかもしれないとは思っています。

道江:そのうち生成した文章を感情を込めて読むということが普通にできそうですよね。

森谷:それは、あり得る未来だと思います。恐らく、融合することは間違いないですよね。人口全体が減っていくので、人間の価値が重要なポイントになっていくと考えています。

道江:どちらか一つというわけではないということですね。

森谷:うまくブレンドされてくような気がしていますね。ただ、いろいろな方が、いろいろなことをすごく説得力を持っておっしゃっているので。

道江:どうなっていくのだろうと思いますよね。恐らくヘルスケアはアプローチとしていろいろな業界で使われると思っています。近しい業界でチャット形式を取り入れている所も多いですし、使われていくだろうと考えた時に、「あすけん」としての立ち位置はどうしていくべきなのか。

もちろん、アドバイスを出すということに価値を置いてきましたので、そこを変えることはありませんが、だからといって何も変化しないということはありえないよねという話はしています。「あすけん」でしかできない価値をどこで出していくべきなのかということを考えていますね。

森谷:未来さんへの愛着は重要なのではと勝手に思っています。キャラ立ちというか。

道江:ユーザーの皆さんがキャラ立ちさせてくださっていますね。

森谷:そのキャラというのは簡単につくれないと思います。ファンが愛するキャラは、ポケモンやスーパーマリオと同じ世界で、キャラが立ってくると簡単には生成型のもので代替できなくなってきます。愛着、愛情は人間の感情なので、何かライバルが出てきても簡単には移らないと思いますね。

道江:未来さんは、そんなに特徴のある子ではないと思うのですが、ユーザーさんがいろいろ脚色してくださって盛り上がっていっているので、面白く見ています。

森谷:未来さんへの思いがあふれていますよね。

道江:会社のエントランスに等身大の未来さんがいます。プロフィールもあって、社員の一人として扱っています。

森谷:いいですね。

道江:AIの栄養士ですが、アプリを通じてその人を自分の栄養士であるかのように感じてほしいという思いでつくってきました。ユーザーの皆さんが愛着を持ってくださったり、投げ掛けに一喜一憂してくださったりすることがすごくうれしいです。デジタルを通してでも受け取っていただけるものなのですね。未来さんが怒ったとか泣いたとか、意外なところを見せると喜んでいただけます。基本は真面目なのですが、たまに意外なことをするという。

森谷:性格や設定を全部つくっているのですか?

道江:性格や年齢など、いわゆるプロフィールは存在しています。趣味もありますね。

森谷:人物への愛着という点は、すごく共感するところあります。私たちの習慣化サポートは、基本的に裏側から入る、水や空気のように入っていきたいという思いがあります。言葉だけでは乾いて伝わるのでキャラクターをつくりました。社内の意見を集約して、クロックと黒衣でClokko(クロッコ)というキャラクターをつくったところ、とても分かりやすくなりました。皆、自分たちはこのキャラクターのような存在だと愛情を持っています。そういうことが、すごく大事だと思いますね。

道江:確かに、人の感情を動かせる存在はすごいですよね。

森谷:キャラの性格などは、ユーザーさんの思いや、そこで活用されているものが形づくっていくように思うのですが、簡単にはつくれないものなので、すごいですよね。

つくり手の熱量がユーザーの感情を動かす

森谷:「あすけん」が人の感情を動かせるアプリになったのは、つくり手側に熱量があるからだとお話を聞いていて感じました。

道江:いいサービスをつくって届けたいという気持ちが強かったです。「あすけん」は、それこそデータベースを揃えるところからすごく苦労してつくったものですし、自分たちも、いいものだと思っていたので、それを何とかして世の中に届けたいという気持ちがありましたね。

当時は他にはないものでしたし、サービスには自信がありました。当初から、このサービスを使った人が変わっていくところを、ユーザーさんを通じて感じることができていましたので、自信があるこのサービスを広めていきたいという気持ちですね。

そういう意味で言うと、ユーザーさんからの、使ったら痩せたとか、使いやすいなどの声を聞くと、もっと続けなくてはいけないなという気持ちでサービスを続けてきたという感じです。

森谷:私はMBOをしているので、すごく共感します。もともと教育に関わる仕事をしていましたが、皆さん全然学習してくださらないので習慣化の仕組みをつくりました。ところが、会社がセールス事業にピボットしたため、習慣化の事業は存続の危機に直面します。私はこの事業を絶対に存続させたいと思いバイアウトをかけました。そのとき、ユーザーさんから人生変わったなど、熱量の高い感想をいただいていたので、これは私が取り組まなければいけないと思いましたね。

道江:ユーザーさんが少ないときも、オフ会を開催していたのですが、皆さんが「あすけん」があってよかったと言ってくださいました。全然お金を稼げていなかったのですが、いいサービスを提供しているという満足感はありました。あの頃は割と平和でしたね。今のほうが大変かもしれません(笑)

森谷:新規事業とスタートアップの根幹を見たような気がします。

道江:親会社の人たちやグループの社長が激しく詰めてくるということはあまりなくて、温かく見守ってくれていたと感じています。私たちも、新しいことを試して報告はしていましたが、誰もここまでになるとは思っていなかったでしょうね。事業として大きくなると思っていないけれど、一生懸命取り組んでいるからいいかというような感じだったのかもしれません。

今、社員が増えて50人ぐらいになりました。当初の4人から考えると10倍近いです。会社が大きくなっていったとしても、プロダクトに対する価値、ユーザーさんにどんなものを届けられるのかということを、とにかく全員で考えることが大切だと伝えていかなくてはと思っています。

森谷:今後の進化も楽しみですね。

道江:そうですね。ここ2年ぐらいが勝負どころだと思っています。

森谷:健康がすごく重視されている時代ですから。

道江:そうですね、今盛んにウェルビーイングが謳われていますが、食べないで我慢する、というようなストイックなダイエット、をする時代ではなくて、自分らしく無理せず、体を資本に人生を楽しむいう感じなのではないでしょうか。あすけんが大切にしている栄養バランスを整える食べ方は、ただカロリーを押さえるのではなくて、かしこく食事を選ぶということです。それがこれからもっと浸透していくだろう思います。

私たちはあすけんというサービスを通じて、その考え方を浸透させていきたいという思いがあるので、しっかり取り組んでいきたいですね。食べることというのは一生続いていくものなので、楽しみながら無理せずに行うということをメッセージとして出していきたいです。

森谷:私たちの習慣化も1日当たり30分から60分です。それ以上は苦しくなってしまうので難しいです。本当に共通点がたくさんありますね。

本日は貴重なお時間いただきましてありがとうございました。