見出し画像

<スペシャル対談>メドピア×WizWe「Healthtech/SUM」が創り出すエコシステムの魅力とヘルステック業界の未来

メドピア株式会社と日本経済新聞社が共同で開催する日本最大級のヘルステックグローバルカンファレンス「Healthtech/SUM」。2022年のピッチコンテストに森谷が出場し、最優秀賞とオーディエンス賞をいただきました。

今回は、「Healthtech/SUM 2023」の開催を控える、メドピア株式会社 代表取締役社長 CEOの石見 陽 氏との対談をお届けします。

「Healthtech/SUM」開催の背景やヘルステック業界を盛り上げたいという熱い思い、そして、ヘルスケア領域における習慣化サポートサービスの可能性などについて、語っていただきました。

・メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO(医師・医学博士) 石見 陽 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平


ピッチイベントに出場する意義

森谷:今年も「Healthtech/SUM」の時期になりましたね。昨年、スタートアップピッチコンテストに参加してから、1年あっという間でした。SNSで募集広告を見かけて申し込みました。

石見:誰かの紹介ではなく、Webマーケティングに食らいついていったのですね。

森谷:ピッチを頑張ろうと思っていたので、機会を必死で探していました。
「Healthtech/SUM」の前に、「ICCサミットFUKUOKA2022」で惨敗しました。ICCはスコアも順位もつくのですが、見事なくらい惨敗でかなり凹みましたね。何しろデビュー戦で、初めての経験でした。でも、何とか改善して練習もして、もう一回挑戦するぞと決めて申し込みました。

石見:WizWeさんは、 MBOしてスピンアウトできているということは、ピッチをした経験はありますよね?

森谷:投資家向けのピッチはしましたが、大会のピッチはICCが初めてでした。

石見:勝つためのピッチというのは独特ですよね。少しスポーツに近いところがあるので、一定のトレーニングをすると成果がでます。重要なのは事業の中身ではあるのですが、聴衆の気持ちつかむというところもポイントになってきますね。

森谷:ICCでは知り合いからフィードバックをもらって、審査員の方にどこが駄目だったのかを聞きに行きました。過去に優勝した方などにも意見を聞いて、すごく学ぶことが多かったですね。負けたことで事業面の弱点も分かるので、半年ほどかけて改善することができました。

石見:事業の中身と自分がどうしてその事業をやっているのかをきちんと伝えることが大事ですよね。

今はピッチをする側より見る側になりましたが、ピッチで学んだことは相当あります。私が「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(EOY)」に出場した時、JINSの田中仁社長が審査員でした。田中社長は2011年にEOY日本大会で大賞を受賞し、日本代表としてモナコで行われた世界大会に出場しています。田中社長の質問はキレがあって的確で、この人はすごいと思いました。

EOYではベンチャー部門で選んでいただけたのですが、その後、個別に連絡をさせていただきました。それがきっかけで、今でも私が勝手にメンターにさせていただいていて、年1回はお会いして組織の話などの相談に乗っていただいています。

そういった意味では、ピッチイベントなどがきっかけになって事業が伸びるということはありますね。やはり経営者以上に会社は大きくなりませんから、経営者の先輩に出会うという場として本当にいいと思います。「Healthtech/SUM」もそういう場として活用してほしいと思って開催しています。

森谷:習慣化をきちんと謳っていくためには、まとまった分かりやすい説明が必要で、それを何とか磨こうと思ってピッチコンテストに出始めました。厳しさも体感しましたが、出たことでプラスの影響がかなりありました。「Healthtech/SUM」のようなイベントは、本当にありがたいです。

「Healthtech/SUM」でヘルステック業界のエコシステム確立を目指す

森谷:「Healthtech/SUM」は、どういったきっかけで始められたのでしょうか?

石見: 2015年にスタートしたのですが、当時は「 Health 2.0 Asia - Japan 」という名前でした。前段として、2010年に、シリコンバレーで開催されている「Health 2.0」に参加して、ヘルステックのエコシステムが出来上がっていることに衝撃を受けました。このイベントには、ヘルステック関連のスタートアップ、Google、マイクロソフト、Amazonなどヘルスケアに興味のある大企業、政府関係者、ベンチャーキャピタル、製薬企業などのステークホルダーが参加していました。そこでは、最新のテクノロジーの活用についてのプレゼンテーションが行われ、ネットワーキングも大事な要素となっていました。

最も印象的だったのは、多くの知らない会社がチャレンジャーとして存在したことです。若者に限らず、60歳以上で会社をリタイアした人々がベンチャーを始めたりするなど、年齢層もバラエティに富んでおり、人種や性別も多様でした。何年か参加していると、成功しなかった企業のCEOが、翌年、新しい会社名で起業していることもありました。つまり、失敗を許容している。このような空気感がとてもいいなと感じました。

当時、日本においては起業の失敗は社会的に非常に厳しいものとされていましたが、アメリカでは真逆でした。失敗を許容しないカルチャーというのは良くないですし、これは何とかしたい、エコシステムを作り上げたいと思いました。作り上げないと業界全体が盛り上がりません。業界というより日本全体ですね。ですから、私の場合はヘルステック業界を盛り上げるようなイベントがあったらいいなと考えていました。当社は2014年に上場したのですが、2015年に「Health 2.0 Asia - Japan」を虎ノ門ヒルズで開催しました。

当時、ヘルステック分野が盛り上がりつつあるタイミングだったため、関連イベントも多く開催されていました。ライバルが出てきている中で、私たちはこのイベントを続けるべきだと考えました。3年目からは、上田悠理先生に協力をいただき、毎年開催してきました。ピッチは初年度から実施しています。

イベントを続けることは大変なことでした。プログラムとネットワーキングはできるのですが、ロジ周り(イベントのスケジュール調整などの業務)が得意ではないのでどうしようかという時に、日本経済新聞社との出会いがあり、協力関係を築きました。

実は、「Health 2.0」創設者のマシュー・ホルトが応援してくれており、毎年参加し、盛り上げてくれていました。しかし、「Health 2.0」がHIMSSに売却されたため、2019年はHIMSSと日本経済新聞社の3社で「HIMSS & Health 2.0 Japan 」として開催しました。そして、2020年からは、日本経済新聞社と2社共同で「Healthtech/SUM」を開催しています。

最初の意図である、ヘルステック業界の育成と事業会社としてその中心にメドピアがいるというところは、一定の目標として達成しつつあると思っています。今後のイベントの展望については未定ですが、現時点では、このエコシステムのプレイヤーを増やすことに集中すべきだと感じています。

森谷:実際、「Healthtech/SUM」での出会いから、様々なつながりやビジネス的なパートナーシップが生まれています。

石見:明治安田生命さんと事業提携のプレスリリースを拝見しました。全て把握しているわけではありませんが、こういった事業提携の話などはがいくつか発生しているようです。その提携に至る前の段階のネットワークというところで、懇親会を開催しています。それが「Healthtech/SUM」の特徴の一つでもあります。ピッチの優勝者はその日のヒーローなので、みんなそこで名刺交換をしたいわけです。そういう場に活用していただくのは正しい使い方だと思います。

森谷:手ごたえを感じていらっしゃいますか?

石見:毎年、徐々にですが手ごたえを感じています。ただ、着実に進んできていると思う一方で怖さもあります。特にヘルスケア分野というのは、人の命に密接に関わるものです。さらに、情報の取り扱いについても慎重でなければなりません。ヘルスケア分野では遺伝情報など、書き換えられないものもありますから、一度情報が漏れてしまうと、ごめんなさいでは済まない事態につながりかねません。

このような繊細な情報に触れるヘルステック業界は、サービス内容も高度です。例えば、ピッチの審査をしている時に、これは前提が合っているのかというところを、専門家として瞬時に見極めなくてはいけません。ピッチが上手ければ、優勝する可能性があるかもしれませんが、その前提が誤っていたとなると、「Healthtech/SUM」というブランドが傷つく危険性があると思っています。

その中で、WizWeさんのピッチは非常にロジカルで、専門家がしっかりと入っている。これからのところはあるのかもしれませんが、ある程度エビデンスも出ていましたし、大変安心感がありました。予防や行動変容というところは、これからの業界という意味では、ぴったりでしたね。

森谷:私のピッチはどんな印象でしたか?

石見:初めは緊張されていた気がします。当たり前ですが、みなさん信じてその事業をされているので、最初は緊張していてもだんだん乗ってきますね。途中からの説得力が全く変わってきます。スティーブ・ジョブズのことをみんな好きですよね。もちろん彼のプレゼン能力、表現者としてというところもありつつ、やはりiPhoneというプロダクトがあるからだと思っています。そう考えると、プロダクトこそが大事であって、よどみなくアジテートするようなピッチは、私にとってはそんなにポイントではありません。ですから、そういった点で印象に残ったピッチを選びました。他の審査員の方はわかりませんが。

森谷:ありがとうございます。あのときは、一番緊張していたと思います。質疑応答を拝見していたら、結構、厳しい質問が飛んでいましたので。

石見:わざと厳しめの雰囲気をつくっているところもありますね。それが結果としていい緊張感になっていると思います。真剣勝負ですから、そこは大事にしています。

森谷:とてもいい経験になりました。実は、ファイナルで登壇された企業との話しも進んでいます。登壇者のネットワークが、大変刺激になっています。

石見:同じ戦場で戦った仲間のような気持ちがあるのかもしれないですね。

ヘルスケア業界における習慣化サポートサービスの可能性

石見:WizWeさんのサービスは、行動変容という非常に幅広い領域に関係するものです。医療、ウェルネスの業界では、様々なモニタリングのデバイスということだと思うのですが、そこからどのように行動を変えていくかというところですよね。特にウェルネスは薬を飲む前段階と考えると、シナジーを生み出しやすいサービスだと思います。

森谷:バイタルデータや行動データを日常的に取得できるようになれば、多くの可能性が出てくると感じています。ウェアラブルデバイスが手ごろな価格で入手可能になると実現できるのではないでしょうか。

石見:そうですね。私はオーラリングを使用していますが、モニタリングがより手軽にできるようになりました。行動を変えることで、どのような変化が生じているかが可視化され、明確に把握できるようになりますよね。

森谷:行動変容には、測定が非常に重要なのですが、測定の重たさが課題です。簡易測定ができるとだいぶ変わってくるのではないかと思っています。ただ、簡易測定はエビデンスの関係性で問題もありますが。

石見:それこそ、株式会社FOVEの「認知機能セルフチェッカー」は、まさに測定の重たさの部分に対応したサービスですよね。認知症やMCI(軽度認知障害)の診断も、MRIやCTを使用するため相当重いです。「認知機能セルフチェッカー」は、非劣勢という意味では、変化までは追えます。非常に可能性はあるのではないかと思っています。こういったものは試してどんどん修正していくことが重要ですね。

森谷:測定が早まると、できることがすごく増えますよね。

石見:認知症は予防薬が出ましたが、数十万かかる検査をした上でとなりますから、結構ハードルが高そうです。認知症を治すことは難しいのですが、それ以上は進ませないというときに、例えば禁煙、食事習慣、睡眠習慣、運動習慣などとセットで、こういう行動を変えたら認知症は進まないということが見えてくると、社会貢献度的にはよりインパクトが大きいのではないでしょうか。

森谷:これまでの経験から、やはり成果がしっかりと数値で示されるエビデンスの重要性を再認識しました。医療費の削減まで達成するのは容易ではないですが。

石見:それはこれからの課題ですか?

森谷:今、まさにその過程にいます。ただ、私たちだけではできませんので、シンクタンクやSler(エスアイアー、システムインテグレーター)の協力が必要です。エビデンスとロジックをしっかりしないといけないと思っています。

石見:そうですね。それこそ実証実験的に、どこか自治体と組んで、専門家の方たちと一緒に作ってくということも十分あり得ますね。

森谷: 予防の領域はそのようなアプローチですね。また、治療領域の重症化予防やDTx(デジタル治療)で、薬プラスアプリとなった時に、法律上、私たちだけで習慣化サポートをすることができません。医療行為となると、医師と一緒に取り組んでいかなくてはいけません。副作用対応など、医師との連携が非常に重要になってくると思います。

石見:そこで、メドピアのネットワークが役立ちますね。

森谷:医師の皆さんが後ろにいらっしゃるというのは、すごく強力なネットワークです。

石見:そうですね。医師もアカデミアの方々と臨床を実地されている医師がいます。エビデンスを作る部分というのは、本当の上流になるのでアカデミアの方々を、より普及していく、社会実装していくタイミングでは臨床医を巻き込んでいくことが重要になってくると思います。

医師から言われる話と、何か面白そうだけれど医師抜きのものとでは、やはり説得力が全然違います。特に行動はそうかもしれませんね。ですから、そこは両輪で取り組む。医者が勧めるには理由が必要で、そこにはエビデンスがありますから、これはこうだと迷いなく進めることができますので、セットかもしれないですね。

森谷:これは教育領域の知見になりますが、派生して考えられることは専門知識を神動画にすることです。テクノロジーによる自動化で、パーソナライズされた最適な動画が届いて、見て、行動を続ける。1~2分の隙間時間に活用できると、非常に可能性があると思っています。医師のネットワークや知見をより効果的に活用できるのではないでしょうか。

石見:指導を迅速に行えそうです。いわゆるSaMD(Software as a Medical Device、診断や治療を支援するプログラム医療機器)のような世界ですね。

森谷:私たちが習慣化サポーターとして情報を提供するだけでは、専門知識として信じていただけないこともあると思います。医師が専門的な知識を提供する動画であれば、信頼性が高く、価値のある情報提供が可能です。

石見:それはありますね。まだまだ紙が多く使用されていて、少し進化してもiPadの紙芝居です。それが動画になって、カスタマイズされていくといいですよね。

森谷:そうですね。この辺りも法的規制についても考慮すべきですか?

石見:iPadの紙芝居あたりで言うと、特に法的な規制はないです。ただし、言い切ってはいけないなどはありますね。インタラクティブになってくると、診断の領域に入ってきますので、医師でないと断定的なことは言えません。最終診断はお医者さんでということを入れるだけなのかもしれませんが、サポートできることは相当多いと思います。

それこそ、来年の医師の働き方改革。そのタスクシフトを、看護師、薬剤師、病院の事務の人がそれぞれ分担していく上でも、テクノロジーがサポートできることがあるのではないでしょうか。WizWeさんのサービスを使うと効果がでそうですね。SaMDを補完するようなものでもいいかもしれないです。

森谷:今後可能性のある領域として、介護や手術後の予後管理などのお話しも出てきています。
これまでの習慣化のノウハウとは異なる領域の話ですから、通用するのかどうかは検証していかないと分からないですね。

石見: WizWeさんのサービスを指導の手段として利用し、リッチコンテンツ化するというところは、非常に重要な切り札になりそうですね。

森谷:あり得ると思っているのですが、現時点では未病予防だけで精一杯という状況です。お話はいただくのですが、一歩一歩、改善していく必要があると感じています。

「Healthtech/SUM」への期待

石見:「Healthtech/SUM」などのカンファレンスに参加していると、このサービスと自社のサービスを結びつけたらどうかといったインスピレーションは湧いてきますか?

森谷:そうですね。例えば、私は「測定が有効です」という話をしたのですが、測定の関連企業が2社参加されていたので、その辺りのお話を伺いました。どんどんインスピレーションが湧いてきましたね。また、懇親会で名刺交換をさせていただいた、静岡社会健康医学大学院大学の 藤本修平 准教授には、WizWe総研の客員研究員に参画いただきました。完全に「Healthtech/SUM」のおかげです。

石見:何か新しいアイデアやインスピレーションを得る場になっているというのは、うれしい話です。

森谷:「Healthtech/SUM」のピッチコンテストに参加したことで、多くの方から「ピッチを見ました」と声をかけてもらうことが増えました。自分の思考の幅が大きく広がったと感じています。

石見:採用などにも影響はありましたか?

森谷:ヘルスケア領域でサービス展開していくにあたり、理系採用を頑張らなくてはいけないのですが、ピッチを見て興味を持ったという理系新卒を採用することができました。 あとは、テレビ東京の『夢遺産』という番組に出演したのですが、「Healthtech/SUM」で最優秀賞をいただいたという実績があったことで、話が締まってありがたかったです。

石見:それは素晴らしいですね。

森谷:メドピア様はお医者さまのネットワークを保有されており、非常にフットワーク軽く、様々なことを展開していらっしゃる印象です。「Healthtech/SUM」もそうですが、しっかりとしたスタートを切っているように感じます。ですから、お医者さまとの関わりや、未病予防の次の段階である重症化予防の領域において、協業やコラボレーションが非常に面白い可能性を秘めているのではないかと思います。

また。「Healthtech/SUM」のエコシステムを通じてのコラボレーションなども非常に魅力的に感じています。テクノロジーの分野において、素晴らしい企業が参加されていると感じました。

石見:私たちも医者のコミュニティーからスタートし、現在では日本の医者の約半数、16万人の会員がいます。今後も会員は増やしていきます。事業として展開していく中では、現在、病院におけるDX(デジタル変革)など、患者を中心に据えた様々なサービスも増えてきていますので、何かコラボレーションできるといいですね。先ほどの予防の領域も含め、定期的にお互いの進捗を共有しながら模索していければと思います。

森谷:ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。


MedPeer Styleで「Healthtech/SUM 2022」 受賞企業インタビュー配信中!