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<スペシャル対談>ピッチからダイエットまで!ガラパゴス中平健太氏が研究した「笑い」と「習慣化」

一昨年、WizWe代表の森谷がICCサミットのピッチに出場しました。その際に参考にさせていただいたのは、「ICCサミット KYOTO 2019」 のスタートアップカタパルトで準優勝を果たした株式会社ガラパゴスの代表取締役、中平健太氏のピッチでした。森谷のピッチスタイルが形成されたのは、中平氏のお手本があったからこそと言っても過言ではありません。

ガラパゴス様は、「刺さる広告を、データ×AIでデザインする」というコンセプトを掲げた広告クリエイティブ制作・運用サービス「AIR Design」を提供しているスタートアップです。

今回、中平氏をお招きしての対談が実現しましたが、クリエイティブに関する話題だけでなく、ピッチの構成においての「笑い」の研究や、自身のダイエットでの「習慣化」に関する研究など、一味違ったお話を伺うことができました。ぜひお楽しみください。

・株式会社ガラパゴス 代表取締役 中平 健太 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平

中平社長のnoteを参考に!低評価だったピッチを改善

森谷:私がガラパゴスの中平社長を知ったのは、「ICCサミットFUKUOKA2022」のピッチコンテストにエントリーしたことがきっかけです。

私はICCのプレゼンレビューの段階で代表の小林雅さんから「君のプレゼンは5段階の1.5、相当頑張らないと難しい」という厳しい評価を受けました。そこで、三輪開人さんの『カタパルト必勝ワークショップ』を受講したところ、「森谷さんと似たタイプの起業家のピッチを参考にすると良い」というアドバイスをいただき、その時名前が挙がったのが中平さんでした。

そこで、中平さんがまとめたプレゼンについてのnoteを何度も読み、ピッチの動画も繰り返し見ました。中平さんは、ピッチで強調するポイントを2回宣言していらっしゃったので、真似させていただきました。結果としてICCは惨敗だったのですが、その後も中平さんの記事を参考にしながら修正を重ね、現在の形になっています。ピッチでは今も強調ポイントを2回言っていますが、とても好評です。

中平氏(以下、中平):不屈の精神ですね。

森谷:中平さんは、なぜピッチに出場しようと思ったのでしょうか?

中平:やはり知られないと駄目だと思い、出場できるピッチに全部エントリーしました。高校生の時にバンドやっていたのですが、もともと人前で発言することや観衆の空気が上がったり下がったりする緊張感は好きですね。

森谷:中平さんのnoteに記載されていた、7分間のピッチにおけるオーディエンステンションのグラフも大変参考になりました。

中平:脚本が大切ですよね。舞台とかお笑いと近いです。ガラパゴスでは、2014年にディープラーニングのGAN(Generative Adversarial Network)の技術に関して、「クリエイティブやデザインの世界が相当変わる」という危機感を持って研究を始めました。それが今の「AIR Design」につながっています。

それと同時に、将来的には労働時間が大幅に減ると思いました。今当たり前に8時間労働をしているところが4時間ぐらいになると余る時間がすごく増えますよね。これは仕事以外の娯楽、たとえば「笑い」のようなことの重要性が増していくのではないかと考えました。

そもそも、笑いとは何だろうと興味を持って調べていくと、笑いは感情ではなく脳の反応であるということが分かりました。その脳の反応を情報によって起こしているのが漫才師で、笑いのパターンは脳のメカニズムの問題です。そこから、M-1やキングオブコントを研究するようになり、「つかみ」が必要だということが分かってきました。4分間の漫才の中で早めにつかめるかどうかは大変重要です。そして、見終わった後に覚えていることは1個か2個しかないと思いました。

ICCのピッチでは、私たちの場合は「デザイン産業革命」という言葉だけを覚えて帰ってもらいたかったので、そこを強調して二回言うことにしました。さらに、人間は動くものに目が行きやすいということから、早い段階で動画を持ってくることにしました。

森谷:中平さんのICCのピッチはすごく面白かったです。ピッチの全文を書き起こして、文字数を数え、話すペースも測りました。自分はどれくらいの文字数であれば自信を持ってピッチができるのか、限界を調べてみました。とにかく自分のピッチを何とかしたかったので。

中平:漫才を見ていると、上手いけれど練習して作り上げたことが感じられてしまう、つまり「練習が見えてしまう」漫才師というのがいます。コントは設定と演技なので演じていいのですが、漫才は演じていては駄目です。立ち話なので演じると不自然ですよね。いかに今、思っているか、いかに今思いついたかという雰囲気を出さないと人は笑えません。練習が見えてしまうと、台本通りやっているのだなと脳が違和感を覚えて反応しないのです。

ピッチも同じで、練習が見えてしまうと聞いている方々の感情が動きません。ですから、自分自身がピッチに飽きないことが大事です。直前まで練習するのですが、できれば直前の1日は空けておきたいですね。1日空けて緊張した状態で、あたかも今思い付いたかのように自分の言葉で話すと、人の感情が動きます。

森谷:すごく面白いですね。ピッチに出てすごくよかったと思っています。

中平:外向けにも、社内向けにもいいですよね。YouTubeに動画を上げていますが、採用にも使えます。

森谷:そうですね。ピッチを見て当社に興味を持ってくださった方々と対談をして、noteに記事として出しているのですが、採用の時に読んでくださっている方も多いです。

セールス&マーケティングにおけるデザインの重要性

森谷:セールス&マーケティングではお客様の興味関心を引き、到達点としての受注、あるいは購買が重要なポイントになっていますよね。実は、私たちの習慣化の領域でも近いところがあります。購買後の世界の力学といいますか、買った後に特定の情報を受け取った人がどんなふうに動くのか、時系列で動きがどう推移するのかが大切になっています。

カスタマーサクセスとか、顧客中心主義とか言われてきていますが、基礎力学はセールス&マーケティングと同様であり、必然的に、セールス&マーケティングで重要視されているデザイン領域は、購買後の行動継続、カスタマーサクセスでも、同じくらい大切になってきています。先ほど中平さんがおっしゃっていた、GANの技術についても興味深いですね。

中平:人の表現方法はテクノロジーの進化とともに変わるものだと考えています。生成AIなどの登場により、描くこと自体の価値が圧倒的に下がっています。PhotoshopやIllustratorのスキルも付加価値が下がっていますので、クリエイターサイドはこれにアジャストしていかなくてはいけません。

中世ヨーロッパでは、あるタイミングから風景画が急速に広まりました。なぜかと言うと、それまで絵の具は家の中でしか使えなかったのですが、チューブというテクノロジーが出来上がったことによって、絵の具が外に持ち出せるようになったからです。テクノロジーがあって表現方法が普及するという例です。クリエイティブが重要であることは確かですが、誰でも描ける時代が来ています。

一方で、描くことの価値は下がっていますが、描かせることの価値は上がっています。どう指示を出せるかが非常に重要になってきていると考えているので、そういった観点で「AIR Design」を進化させていく方針です。

森谷: 実は、デザインというか「美」と「ヘルスケアの行動変容」は関わりが深いところがありますね。人生100年時代において、政府も健康寿命の延伸を目指していますが、当社でもヘルスケア関連の習慣化プロジェクトがいくつか進行中しています。例えば、健康増進のために骨粗しょう症や認知症などの予防活動を日々続けていく必要があるのですが、皆さんがすぐに取り組めるかというと少し難しいです。

最近のアプローチとして、女性の場合は化粧をして外出しコミュニケーションを楽しむということが、ちょっと先の将来も明るいものであるという気分を促す要因となり、日常の行動継続に効果的であることが分かりました。国立長寿医療研究センターの研究で、化粧が健康にプラスの影響を与えることも確認されています。どうやら「美」と「健康」は連動しているようです。昨今の美容意識の高まりを見ると、美意識の点では男性についても同様かもしれないと思います。

中平:面白いですね。

森谷:私たちは「ありたい姿」ということを大事にしているのですが、何歳になっても、自分が「今よりも、ちょっと良い未来」に近づけると感じられるようなエンターテインメント性を組み込むことが、健康行動や学習行動につながると感じています。

その訴求手段としてクリエイティブが有効で、ショート動画や音声、画像が文字よりも訴求効果があります。デザイン一つでユーザー様の既読率や返信率も変わってきますよね。そして既読率、返信率が高まれば、自然に習慣化率も高まります。それは、データ統計上で明確になってきています。

私たちのサービスはサポーターが伴走するので、そこに人の感情も込めるのですが、非言語的なもので伝えられる領域は結構あると思っています。

中平:脳は0.4秒で見るか見ないかの判断を決めるそうなので、その振り分けで落ちないことが重要です。高いクオリティーのデザインでなくてもいいので、とりあえず目に留めてもらえるような、最低限のクオリティーというのは非常に大切ですね。

森谷:ユーザー様からの返信もワンクリックでできるような形にすると返信率が上がって、そこからサポーターとの会話が生じてきます。そういった工夫はしていますね。データを取ってテストをしながらコツコツ改善していくというのは、マーケティングの世界と近い感じがしています。

中平:これは自社のプロダクトでの話ですが、マーケティングデータはGoogleやFacebookの管理画面、Googleアナリティクスなどで把握しています。しかし、このマーケティングで獲得したリードが実際に営業によって成約しているのか、していないのかは、営業側ではSalesforceなど別の仕組みで管理しています。このデータの分断が様々な課題を引き起こしていました。
 
そこで、セールスデータとマーケティングデータをつなぎ、どのバナーが最終的に売れたのかを追跡しました。一般的に人々は、多くクリックされたバナーが重要だと考えがちですが、実際にそのクリックが最終的な売り上げにどれだけ繋がったのかについてはあまり追っていません。私たちもクリックされているバナーを放置していたのですが、追跡したところほとんど商談につながっていませんでした。

ただし、クリックが少ないのに多くの商談につながっているバナーもありました。これらを見直すだけで、月に400万円から800万円くらい費用が浮いたんですよね。

確かに反応があることは重要です。しかし、その反応が本当に成果につながっているかどうかは別の問題であり、そこまで見ることが重要だと感じます。

自身のダイエットで見つけた習慣のメソッド 

森谷:話は変わりまして、中平さんはブログで習慣について書かれていますが、どうしてそのテーマに興味を持ったのでしょうか?大変興味深く拝見しました。

中平:ダイエットがきっかけです。私は当時、体重が80キロぐらいあって、ダイエットをしようと思い立ちました。短期的な取り組みではなく継続することが重要だと思い、継続ということは「習慣」だということで、習慣を変える方法について何冊か本を読んで研究しました。

その結果、自分なりに「宣言・可視化・褒め・監視」というメソッドを見つけました。まず、「宣言」することで逃げられない状態にします。次に「可視化」ですが、私は体重を減らすことを目標に掲げていたので、毎日同じ時間に体重と体脂肪を測り、摂取カロリーと消費カロリーを計測し、それぞれのグラフを毎日付けました。可視化すると如実に体重が減っていきます。

データにより、私の場合は1週間に1500キロカロリーマイナスが続くと、月に2キロ減ることが分かりました。これを8カ月続ければ16キロ減ります。また、「褒め」てもらわないと続かないと思ったので、毎日奥さんに実施したことを伝えて褒めてもらい、「監視」もしてもらいました。これらの四つの要素があれば、どんなことでも継続できるのではないかという仮説を立てていて、実際に16キロ減らすことができました。

その次は、年間100冊の本を読むという目標を立て、本を読む習慣を身に付けました。他にもいくつか習慣化することができたので、このメソッドでできるなと分かった感じですね。

森谷:私たちは習慣化をビジネスにしていますが、まさにその法則性が重要であり、とても共感します。WizWe総研というシンクタンクで習慣化の研究しながら取り組んでいますが、習慣化する上で最初に大切になってくるのは「目標宣言」です。自分のありたい姿を言語的に定義することです。

特に、数値で表せると習慣化しやすくなります。数値化されない曖昧な目標の場合は行動パターンが変わるため失敗事例が数多くあります。中平さんのお話はその点で非常に興味深いですね。数値が測れることは習慣化にとって大変重要です。

中平:弊社に先ほどのダイエット手法を使って体重が100キロから70キロまで減った人がいるのですが、しばらくしてリバウンドしてしまいました。そこで気づいたのは、ハートモチベーション、心の底からそうなりたいと思っているかどうかも重要だということです。

私の場合は、自分自身が変わりたいと心の底から思ったところから始まっていますので、何とかキープしなくてはという強い気持ちがありました。リバウンドしてしまった人は、数字の変化のプロセスを楽しんだものの、心の底から70キロでいたいと思っていたわけではなかったということです。

森谷:すごく身に染みます。私たちの習慣化事例では、心の底から自分自身のために行動するだけでなく、他者のために行動することが重要な要素となっている傾向があります。例えば、子どもや孫のために健康を維持したいなどは、行動の要因になっていますね。

中平:それから、当時、昼ご飯は大体同じものを淡々と食べていましたね。そうすれば考えなくてもすみます。人間は1日に2万回の判断ができると言われていますが、私は余計な判断を減らして大切な判断に集中するために、服の選択をシンプルにしました。基本的に白か黒のTシャツにデニムパンツ、寒いときにはジャケットを羽織ります。

森谷:ルーティンを作るのは習慣化の観点でも大事なことです。考えなくても進んでいきますから、そうなったら勝ちですね。

中平:朝風呂に入り、出たら必ず体重計に乗ることをルーティンにしています。続けるためには3日、7日、3週間、3カ月をどう乗り越えるかというラインがありますよね。

森谷:その通りです。まず3日やってみる。7日は続けてみる。3週間はそれが生活のサイクルに入ってくるのですが、まだ慣れていない段階です。3カ月頑張れば体に習慣が入ってきます。この時期に何が発生しているかというと、脳を消費しなくなり、考える必要がなくなるようです。これでもまだ離脱することがあるのですが、それは求めた成果になっているかどうかです。本当にこれでいいのかと疑念が生じ出すのですが、そのときに測定が優れた役割を果たします。

また、第三者がフィードバックすることも重要です。結果が出ると、周りの人に「毎日運動して体重が3キロ減ったよ」などと言い始めるようになります。周囲の第三者から承認が得られるようになると、私たちのサポートは要らなくなります。そこが習慣化の仕上がりということです。

中平:自分で習慣をつくることができると自己効力感が上がりますよね。できるという自信がつきます。

森谷:自分のメソッドがビジネスにもなりますよね。

中平:実際、ダイエットを習慣化した経験を基に、自社でアプリを作ってリリースしたことがあります。でも、誰もが続けられるものではないと実感しました。何が違うのかは分からないのですが、みんな続かないですね。

森谷:時間の使い方も関係しているかもしれませんね。他のことに時間を取られてしまうと、続けることが難しくなります。隙間時間を活用するなど、何かをやめることで新しいことに時間を割くなどしていくことが必要です。

中平:確かに時間の工夫はありましたね。毎日忙しいけれど運動もしなくてはいけません。そこで思いついたアイデアが、走って帰るということでした。オフィスから家まで電車で1時間かかるのですが、走っても1時間くらいです。費やす時間は同じなので週3くらいは走って帰りました。これで生活を大きく変えることなく運動ができました。

私は、ランニングを走る禅だと思っています。走らない人から見れば、ランナーは苦しそうに見えるかもしれませんが、実際は気持ちがいいです。習慣にするためには、それがすごく重要だと思っています。走った後というのは、セロトニンが出ているので座禅を終えた後のような脳内の爽快感があるのですが、その気持ちよさが好きになると続けることができますよね。

森谷:そうですね。習慣化するためには気持ちよさ、楽しさというのは重要になってきます。

中平:習慣化支援のサービスを提供し始めてから何年ぐらいですか?

森谷:10年ぐらいですね。最初は企業の語学研修の習慣化から始めました。人が伴走してサポートするというところを、テクノロジーを活用しながらやってきました。

中平:サポートしてくれる人がいれば、続く確率は絶対に高まりますよね。

森谷:サポーターという存在がいるだけで成果は上がりますが、どれぐらい改善するかが大事ですね。行動は人それぞれなので、なかなか奥が深い世界です。たくさん失敗しながら改善を重ねていくことで、私たちのサービスはここまで来られました。

現在は、語学だけではなく受験勉強の対策などもサポートしています。フィットネスもコロナ禍のあたりから始めて3年になりますね。ようやく、サポートをつけると継続期間がこれくらい伸びるというデータが出始めたところです。フィットネスは、サポート終わった後の離脱がどこかというデータが必要になってくるので、長くかかりましたね。

中平:面白いですね。これから幅が広がりそうですよね。

森谷:そうですね。ありがとうございます。