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<スペシャル対談>三菱総合研究所がスタートアップとの連携で目指す、ヘルスケア領域の新規事業創出

今回は、株式会社三菱総合研究所の榎本 亮 氏と福田 健 氏との対談をお届けします。

三菱総合研究所様は、ヘルスケア領域における新規事業展開に向けて、スタートアップとの連携を進めています。積極的なパートナー探しをされている中で、WizWeにも関心を持っていただきました。

近い将来、公的医療保険が直面するであろう危機を見据え、スタートアップと共に目指していきたい未病・予防、早期発見に焦点を当てた取り組みや、健康増進を実現するために重要な行動変容の難しさなどについて、じっくりお話を伺いました。健康に対する意識について考えさせられる興味深い対談となりました。

・株式会社三菱総合研究所
 全社連携事業推進本部 VCP総括 ヘルスケア分野担当本部長
 参与 榎本 亮 氏
・株式会社三菱総合研究所 
 社会イノベーション部門 ヘルスケアビジネスグループリーダー 福田 健 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平


出会いのきっかけは新規事業での積極的なパートナー探し

森谷:WizWeに興味を持ったきっかけを教えていただけますでしょうか?
 
福田氏(以下、福田):三菱総合研究所は、長い間、厚生労働省や経済産業省などの官公庁事業を主体としてきたので、自社でヘルスケアの新規事業を始めるという動きはありませんでした。創業50周年を迎える際に、これまでの調査研究やコンサルティングへの取り組みだけで社会課題を解決できているのだろうか、と考えるようになりました。お客様のサポートだけでなく、われわれ自身が新しい事業を始めたり、自主的な研究提言を拡大したり、社会に貢献できる方法がないかと模索し、会社の体制が変わりました。それが3年前です。
 
調査研究やコンサルティングの対応、新規事業の開発・運用、自主研究や政策提言といった役割を明確に分けて組織改編されました。私はその中の新規事業担当の所属になりましたが、当然ながら当社単独では実現できませんので、他の企業と協力する必要があります。まずは、既存のパートナー各社や三菱グループ等のお付き合いの中で取り組んできましたが、簡単には新規事業は進みませんでした。そこで、ベンチャー企業との連携を検討するなど、積極的にパートナーを探していました。そんな中、WizWeさんと巡り会いました。ちょうど自治体からの引き合いを受けているとの評判を聞いて、ぜひパートナーとして組めないかと考えました。
 
おそらく、受託事業だけを続けていたら、事業パートナーを探そうという発想は出てこなくて、調査研究の外注先という感覚だったと思います。一緒に取り組めるパートナーを探すというところは、この3年間で変化してきた部分です。そのプロセスでWizWeさんとの出会いがありました。

森谷:展示会でお声かけいただきました。ありがとうございます。

榎本氏(以下、榎本):ご縁があったということですね。
この先、公的医療保険が持続可能でないのは見えています。医療と介護の合計支出は約50兆円程度ですが、私たちの予測によると、2050年には100兆円を超えるでしょう。このような状況では何らかの対策が必要です。一つの方法として、公的保険の範囲をある程度絞り込んで、例えば民間の保険でカバーするなどが考えられます。そこは議論していかないといけないので、われわれも提言をまとめていく段階なのですが、コンセンサスを得るのがとても難しいです。ただ、そういう議論を起こしていかなくてはいけないという取り組みは始めています。
 
やはり、民間のマーケットが全く立ち上がっていないことが問題ですよね。公的保険がとても充実しているので、それゆえに民間のマーケットが存在していません。要はそこにお金を使う必要がないということです。自分自身を考えてみると分かるのですが、医療費以外でヘルスケアにどれだけのお金を使っているかというと、多くの場合月に5000円以下です。つまり、民間でマネタイズするというのは難しいマーケットということです。そこをどのように立ち上げていくかというのは、今後の重要な課題ですね。
 
個人が行動変容を起こすことは難しい上に、離脱率が非常に高いです。離脱を防ぎたいというところで、WizWeさんのサービスは非常に魅力的だと思っています。また、防災の分野などでも同じような要素が存在しますので、公助のようなところでかなりビジネスチャンスがあるはずだと考えています。われわれを助けていただきたいです。
 
森谷:私たちに貢献できることがありましたら。
 
榎本:WizWeさんに注目しています。

スタートアップと連携しながら、未病・予防、早期発見の領域でのサービス展開を目指す


森谷:今後はどのような取り組みをお考えですか?
 
榎本:ヘルスケアに関して言うと、恐らく公的保険はもたないので、ある程度は民間側に任せていかざるを得ません。でも、民間となると保険料を払いたくないというインセンティブが働くので、未病・予防、早期発見というところがビジネスとして立ち上がってくるのではないかと予想しています。ですから、先駆けてその分野でスタートアップと連携して、必要になったときにさっと提供できるよう目指しているところです。
 
私が5年前にヘルスケアの本部長を務めていた時は、そのような取り組みはかなり難しいものでした。今は人的資本経営という流れの中で、企業側として、そういったところに適切に資金を投入する動きが出てきています。そのため、B to Cではなく、むしろB to B to Cというアプローチで、企業の人事政策経由でこうした取り組みを展開できる余地があるのではないかと考えています。
 
当社は、“未来共創イニシアティブ”(ICF)という会員組織を持っていますが、「ICF Business Acceleration Program」には、非常にたくさんの応募があります。中でも、ヘルスケアは半数弱を占めており、どんなものが出てくるのかとても楽しみです。ご参加いただけるスタートアップと連携しながら、未病・予防、早期発見の領域でサービス展開できればと思っています。
 
ただ、どうしてもスタートアップはアイデアや製品が単品なことが多いため、人事政策としては、やはり物足りないと感じることがあります。単品では採用するのは難しいです。現状を把握し、改善策を見つけ、そしてPDCAが回っているかどうかを計測し、最終的には離脱防止などを実施する必要があります。計測やカテゴライズなどした上で、政策として回るような形で紹介できればというところを目指しています。

森谷: 弊社の過去の知見からすると、数値改善の因果関係が科学的に明らかになっている領域は、行動の習慣化については、やりやすい、ということが分かっています。エビデンスというか、このプロセスを経るとこういう結果になるということが、先行事例で分かっており、きちんとビフォー・アフターが測定できると、何とかなるケースが多いです。

具体的な事例でいうと、体重を減少するとか、受験勉強、英語のTOEICスコア、あとは血液数値などです。いずれも測定ができ結果が数字で分かる。こうした領域は習慣化サポートが力を発揮しやすいです。一方で、効果測定が不明瞭だったり、改善にいたるプロセスが明確でなかったりする場合は難しいということがあります。
 
また、習慣化でいうと、スマートフォンやウェブサービスと連携したアプリなどが存在する場合、さらに効果的です。スマホの登場でデバイスを持ち歩けるようになったことで、実現できることが大幅に増えました。例えば、10分間×3回で30分積算というように、うまく組み込めるような時間軸でやっていくことができます。より習慣を身につけやすくなっていると思います。

福田:行動変容というのは様々な分野でも言及されています。ヘルスケア分野においては、もし何か健康に関する問題があった場合は、個人の判断で病院に行けばいいというところで守られています。そのため、どうしても予防への行動変容は個人では動かしにくいですし、かつ介入が必要な対象者も見つけ出しにくいですね。

ですから、集団に対してアプローチを行い、いかに行動変容させるかが有効と考えています。まずは、企業の人事部、健康保険組合、自治体などから集団全体にアプローチする。本当はそこから個人で動いてもらえるといいのですが、直ぐには難しいので、集団でのアプローチを継続して、関心層から無関心層に影響を与えていくことが必要だと思っています。

ただ、企業や自治体も、予算やリソースに制約があることから、取り組みを継続していくためには、「Smart Habit」のようなアプリなど、できるだけ効率的・効果的な手段を使う必要があります。さらにその先、一定の対策を行った後は自己責任にする、きちんと取り組まない個人は保険料が上がるなど、何らかの仕掛けを考えていかなくてはいけないですよね、合意形成は難しいですが。
 
榎本:この5年で動くかといったら難しいですよね。健康保険組合で破綻するところが出てこない限りは、皆さんリアリティーを感じられないのではないかと思います。
 
森谷:危機意識ですよね。健康に少し異常を来したら、その後はがらっと意識が変わるのですが、その前に気付くのはなかなか難しいです。
 
榎本:企業変革と同じですよね。企業変革も危機感が共有できないと動きません。危機感共有のところがまだ全然できていないですね。
 
福田:この分野に長らく従事しているので、このままでは社会保障制度を持続できるか不安が大きいですが、一般の方々にはまだまだ十分に伝わっていないかもしれません。
 
榎本:皆さん、給与明細で健康保険の料率はあまり見てないですからね。いくら取られているのか知らないと思います。
 
福田:例えば、仮に、うちの自治体は年に4回しか病院に行けませんというようなことになると、意識が変わるでしょうね。何回でも行けるような状況では、危機感を持つのはなかなか難しいです。制度が破綻する前にこのような厳しい手を打つことも求められるかもしれません。

自治体プロジェクトに必要な担当者の意識改革

森谷:自治体のプロジェクトというのも、モデルケースを作りながら根拠を示していくような形なのでしょうか?
 
福田:そうですね。どの分野でも費用対効果が重要ですが、特に予防の分野は難しいです。この分野ではデータが取られていなかったり、整理されていなかったり、データを取っていても紙ベースで保管されて、そのままになっていたりと課題がありました。国の「科学的介護」という政策動向を踏まえて、これらの問題を何とかしようということで、データの電子化や有効活用の提案を始めました。

ただし、その前に、自治体や健康保険組合も、まず担当者の意識を変えなければならないと考えています。先ほど、集団でアプローチしないといけないと言いましたが、それを動かす担当者の意識を変えないと、その先に行かないですよね。この点については、われわれも悩んでいるところですし、行動変容を促進する上での大きな課題とと思っています。世代が変わることで、将来的には変わってくるのかもしれませんが。
 
榎本:効果測定がとても難しいですね。翌年に結果が出るのであれば、差分は比較的簡単に取れますが、5年または10年という長期間にわたった場合、その期間やっていなかった場合はどうなっていたのかという推計が入った上での差分になります。実はそこの差分を出すのというのはとても難しいです。ただし、その差分を出さない限り、効果が認められません。また、自治体など単年度予算でプロジェクトを実施している場合、効果が5年、10年見えないとなると、そこも含めてなかなか難しいですよね。まだこれからという段階ですね。
 
森谷:教育投資みたいですね。
 
榎本:同じですね。これまでそのような取り組みが行われていなかったため、まずはその差分を示さなければならないということで取り組み始めましたので、5年または10年後にようやく実証できるというところですね。
 
福田:確かに医療費の効果が出るのは5年先とかになるので、皆さんなかなか直ぐにはやらないですよね。ですから、歩行年齢の話など、短期的に効果が出るようなものを積み上げて、住民と職員に意識を変えてもらう。このような取り組みを5年続ければ、医療費にも影響してきます。
 
あとは、健康のためと言うとなかなか動かないので、防災の話などを出しながら、「みんなは30分で避難所に行けるけれど、おじいちゃんはこのままだと1時間かかるよ」というように、生活に必要なものと結び付けることは効果的だと考えています。 

いずれにせよ、継続が重要です。WizWeさんのサービスと連携して、ヘルスケアに防災や買い物など様々な分野と組み合わせて、継続するというところで一緒に取り組めたらと思っていました。
 
森谷:組み合わせですね。

榎本:行動変容と継続という課題は、いろいろな分野で共通して上がってきている課題ですよね。
 
森谷:直線的な習慣化サポートだけでは、最大の効果を発揮するのは難しいと感じています。一本だけの線でなく、複数の線があるほうが継続しやすいですね。例えば、その人を気にかける線が、5本になるとすごく強くなります。そして、実は、過去の分析から、最終成果に一番強力に関わると思われる因子が、担当者の熱量です。
 
榎本:担当者もですが、自治体の場合、首長の熱量が影響しますね。
 
森谷:その方々の熱量によって、個人個人の習慣化率が劇的に変わることが、統計データで証明されています。
 
福田:担当者を変えるというのも難しいですよね。そのような熱量を持った人が揃っているわけではないですから。
 
榎本:特に自治体は難しいですね。
 
福田:人事部も健康保険組合も同じですよね。そこまで考えられている人はそれほど多くないです。
 
榎本:人事部も、人事企画を行っていますが、人事事務屋になってしまっている企業も多いと思います。人事企画ができる人材を見つけるのは非常に難しいですよね。
 
森谷:裏側でプレイブックのようなものを作成していますが、まず、「火をつける」というステップが必要です。この火をつけるプロセスがなければ、習慣はなかなか入りません。そして、火をつけるには熱が必要なので、熱量がある方が必要になります。そこがないと、予算を使って何かをスタートしても次に進めないですね。

その次の段階は「火を大きくする」です。最初に火をつけたケースで、成功事例をある程度作っておき、そこを上手くいった証拠として記録しておくと、横展しやすくなります。「あの拠点で成功しているから、我々も上手くいくはずだ」と、マインドブロックがとれて前向きに取り組みやすくなります。火をつける、火を大きくする、火を燃やし続けるという三段論法のメカニズムになってきています。
 
榎本:ロジスティクスもそうですね。
 
森谷:そうですね。やはりどの方が取り組んでいくのかが、結構重要になってきますね。熱量が高い方は、基本的に少々の障壁があってもうまく乗り越えて成功する傾向があります。
 
榎本:ただ、なかなかそのような人材を見つけるのは難しいですね。
 
福田:人事部長や首長にそのような視点がないとなかなか難しいですよね。正直、未だやらなくてもいいという企業や自治体もあるのではないでしょうか。
 
森谷:確かに、業務が増えることになりますからね。
 
福田:本業が手いっぱいで、やらなくてはいけないと分かってはいるものの、この次という感じで、長らくそのままになっている気がしますね。いよいよこの5年、10年の危機感をどれだけ真剣にそれぞれが考えるかでしょうね。

ヘルスケアはいかに気づかせて継続できるかが重要


森谷:三菱総研様が考えていらっしゃる行動変容についてお聞かせいただけますか?
 
榎本: ヘルスケアに特化して言うと、継続しないと駄目ですよね。いかに気づかせて、継続できるかどうか、それがヘルスケアにおいて重要だと思います。実は、防災についても同様の問題を抱えています。東日本大震災の直後は多くの人が関心を持ち、意識が高まりましたが、次に南海トラフ地震が来る可能性が議論されているにもかかわらず、あまり話題になりません。
 
実際、今年は関東大震災から100年が経つ年であり、9月1日がその記念日でしたが、ほとんど注目されていません。ニュースで少し触れられたり、NHKが特集番組を放送したりする程度で、盛り上がりが乏しいのが現実です。しかし、こうした問題には取り組み続けないと、いざ災害が発生した際に大きな影響を受ける可能性があります。
 
あとは、カーボンニュートラルやリサイクルのような話もそうですし、実はあらゆるところに同じような問題があるというのは気づいています。そこは、気づかせて、やり続けなくてはいけません。離脱させない、忘れないというところが求められているのかと思いますが、習慣化は容易ではありません。
 
森谷:そうですね、難しいところではありますね。中長期では大変重要なのですが、現時点で緊急ではないと思われている。会社でよく発生することにも近いですね。
 
榎本:同じですね。何か起こると上がって、すぐ落ちてしまう。上がったところで維持できるといいのですが。
 
福田:きっかけづくりですよね。一番効果的なのは、例えば自分や家族が病気をした経験、地震で被災した経験かもしれません。でも、誰もがそのような経験をするわけではないので、他の人にそれをどう理解してもらうか。そのきっかけをどうつくっていくかが重要ですね。
 
榎本:当社は1000人規模の会社ですが、年に数名がんで亡くなります。逆に言えば、健康診断によって早期にがんが発見され、数名が助かることもあるわけです。私は人事部にいて、その明暗を見てきたこともあって、とても実感しています。でも、一般の社員はそうした経験を持っていないため、実感がないかもしれません。もちろん、eラーニングの教材の中でこの点に触れてはいますが、実感を持つことは難しいようです。自分の持っている実感を伝えたいのですが、同じ実感として伝えることがとても難しいと感じています。
 
森谷:レバレッジポイントになるのは40代になりますか?
 
榎本: ヘルスケアに関して言うと、30代ぐらいまで無理をして、40代ぐらいから数値が悪くなる傾向があります。この時期から手を打ち始めると、大幅に改善することが多いです。

実際、私自身もそのような経験をしています。私は高校まで野球を続け、大学でもスポーツをしていました。30代までは週1回の会社の野球部の活動でなんとか健康を維持していたのですが、40歳になった途端に中性脂肪などの数値が悪化しました。この状況に危機感を抱き、ロードバイクを始めたというわけです。ロードバイクは、地元に友達ができて一緒に楽しむことができるので楽しくて続いています。数値はほぼ改善しましたね。
 
30代でできるならそれが一番良いと考えますが、40代になってからでも手を打つと、健康状態が元に戻ることが多いです。50代になってくるとかなり厳しくなってくるので、40代でヘルスケアに取り組むことは非常に有益だと実感しています。

森谷:傾向として、6カ月ほど続けて数値が改善し始めると、自分のしていることを周囲に話し始めます。これを習慣の仕上がりだと考えていて、自身の行動に対するフィードバックを受けることが楽しくて続きます。友達ができることも、続けられる要因ですね。

榎本:その通りです。ロードバイクを続けているのは、地元で新しい友達ができたからです。40歳になったとき、ふと、会社以外で友達がいないなと感じました。地元だと、異業種の人が集まっているので面白いですよ。
 
森谷:おそらく、きっかけは健康診断でしょう。私自身も30代の頃はあまり危機意識を感じていなかったですが、40歳になって息子が生まれたこともあり、健康でいなければならないという意識が芽生えて健康管理を始めました。一人で行うと続けるのが難しくなるため、うまく友達の輪に入り込むようなメカニズムで取り組むと、数値も改善されます。
 
榎本:最近、健康年齢と脳年齢についての社内イベントを開催しました。糖尿病などの生活習慣病と言うと誰も動かないのですが、脳年齢は認知症のリスクと関連があるので動くのではないかと思いました。そのきっかけをつくりたいと思ったのですが、子会社を含めて1500人中、参加者は220人でした。やはり1割しか動かなかったですね。
 
福田:もっと多いかと思っていました。
 
榎本:無料で、しかも会社で受診できてこの程度なので、有料で別の場所でとなると参加率がさらに下がりますよね。人を動かすことは本当に難しいです。動かせたとしても、継続してもらうことがまだ難しいと感じています。
 
そのため、健康年齢に関しては、人事部と連携して実年齢と健康年齢の差を算出し、その差をもとに、結果がいい人には確定拠出年金の個人負担分を少し支援するなど、お金を餌にした仕組みでないと動かせないのかと考えています。その後、それを継続してもらうところで、WizWeさんのプロトコルを活用させていただくというイメージかなと思っています。
 
森谷:私たちは、自分たちの会社やサービスを『会話の銘柄』だと思っています。きちんと論理もありますが、人が入って会話をすることで習慣が形成されます。エキュメノポリスというWizWe総研の客員研究員である松山先生の会社では、会話AIエージェントによるインタビュー再現ができます。勝ち筋のインタビューがあると、20分ほどで再現が可能です。これを受けると行動の基点になるのではないでしょうか。健康データを一気にというところは未知数ですが、少し可能性を感じました。既存のモデルでは、人がうまくカウンセリングをし、ひと押しすることで動くので、そこをいいレバレッジにできないかなと思いました。
 
今は私たちだけではできないのですが、周囲の会社と組むことでできるのではないかと思っています。人間が行うヒアリングの正解パターンがあると再現ができますので、人的リソースの限界を超え、全員にカウンセリングを提供することが可能となってきます。
 
榎本:いいですね。今、当社の産業医や看護師の方がその部分を頑張ってくださっています。人事部には言えないけれど、産業医や看護師の方に相談に行くという人もいます。行けばとそこから動けるのですが、そちらにも行かない人が結構多いですね。そこが課題です。
 
一次健康診断は強制的に100%受けていますが、二次となると受診率が急激に下がります。さらに、特定健康保険指導になると、ますます下がるという状態です。ですから、まず二次健康診断の受診率を向上させるために、今お話いただいたようなアプローチが使えるといいですよね。二次健康診断を受けても何も問題がなかったという経験を一度してしまうと、面倒になって受診しなくなる傾向があります。でも、一次で引っかかるということはそれなりに理由があるので、二次を受けることは重要だと思うのですが、なかなかうまくいきませんね。

感情交流が行動変容のキートリガー

榎本:人事部長の時には、先ほどお話ししたような自分の体験をできる限り共有しようとしましたが、言語というのは相対的なものなので、なかなか伝わらないですね。どのように相手に伝わるような言葉に直すかというところが難しいです。ですから、相手の言葉でコミュニケーションをとる必要がありますね。でも、相手の言葉はそれぞれ異なるため、それをどのように伝えればいいのかという問題があります。
 
森谷:習慣化をサポートしているので、よく分かります。正確な知識によって動くのではなく、相手の言葉の引き出しで吐露されると継続しますね。
 
榎本:会社となると、一人一人に対して行うのは限界がありますよね。うまくシステマティックにできる方法があるといいなと思っています。
 
森谷:私たちは、会話の中にヒントがあると考えて探ってみました。「人が何かを始める」、「何かを好きになる」きっかけを探るという、ある会社のプロジェクトで経験したのですが、「きっかけ」として語られた起点には全て人と人との交流がありました。人と人との会話交流、感情交流がキートリガーなのではないかと見ています。
 
榎本:それが人によって異なるため、それを手づくりで行うのは難しいですよね。そこを、うまく方法論やシステマティックにできるようになると、かなり物の伝わり方が変わってくるのではないでしょうか。
 
森谷:コミュニティへの参加するためのプロセスがあるのではないかと思っています。コミュニティは地域社会や会社内の親しい集団など、一度形成されると外部からの参加が難しくなる傾向があります。コミュニティへの参加フェーズが1から5段階ほどあるとすると、段階を追って参加できるというようなことをうまく行動変容モデルでモデリングができるといいのではないかと思っています。また、所属するコミュニティの質も、状況に応じて最適なものが存在するはずで、これをうまく実現していきたいですね。
 
榎本:人事の世界でも、方針を出し、それを具体的な目標に落とし込むというプロセスがありますが、OKR(Objectives and Key Results)を設定していくというところは、まさにコミュニケーションの世界ですよね。コミュニケーションの中から合意点を見つけて進めていく。

先ほどのお話しのように会話の中に何かあるはずで、そこから腹落ちするポイントを見つけていくことは、非常に手間暇がかかります。これを全てのマネージャーが実施するのは難しく、パワーが必要です。それをやり切れるマネージャーがいない状況では、このプロセスをサポートする手段やツールが必要です。ITやICTが進んでいる中で、効果的な方法があるのではないかと思っています。

森谷:テクノロジーが貢献できる部分は多いと思います。習慣化サポートも最初は全て人で行っていましたが、提供できる人数に限界があると感じ、どれだけの人数を1人で見ることができるのかというところで、自動化を目指して取り組んできました。
 
榎本:人事の目標設定と評価の部分に多くの手間がかかっています。WizWeさんのサービスが、この領域で活用できる可能性があるのではないかと思っています。オブジェクトに対してどのように実行されているのか、何を困っているのかを聞きだして、それを可視化したものをマネージャーが見るというようなことができそうですよね。
 
森谷:生成AIをうまく組み合わせて、感情交流を重ねるとできそうですね。
 
榎本:それができるようになると、組織が変わるのではないかと思っています。
 
森谷:習慣化実装もしやすくなりますね。以前、介護のプロジェクトで、離職防止に習慣化サポートをというお話があり、リサーチを進めると、サポーターをつけるよりも組織の改善のほうが効果的であるということがありました。一人ひとりへサポーターをつけることよりも、離職防止に大切だったのは、職場のコミュニケーションを良くすることでした。先ほどおっしゃたようなことはそのまま適用できると思います。
 
榎本:そういうツールなどを使って、できない部分は補助してあげて、そこから先は人間ですよというようにうまく切り分けができるといいですよね。指導がしやすくなりますし、人材の交流も活発になりますよね。人材確保もしやすくなると思います。
 
森谷:そちらの方が、レバレッジが効きますね。自治体の健康増進習慣化の取り組みについては、各自治体のOKRや組織風土のところでそういったアプローチができると、熱量のある担当者が何万人かを見ることができるようになりますので、そこでヒットになるかもしれないです。夢は広がりますね。
 
本日はありがとうございました。