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<スペシャル対談>医療アウトバウンドを成功に導く場づくりとは?スタートアップとの連携が国際展開のキーポイント!

今回は、日本の医療技術やサービスを海外に展開することで、世界の健康に貢献することを目指す、一般社団法人Medical Excellence JAPAN(MEJ)の北野選也氏と櫻井早苗氏との対談をお届けします。

WizWeは、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストへの出場がきっかけとなり、MEJ様から勉強会への登壇オファーをいただき、その後、ベトナムで開催された第2回MEV-MEJフォーラム会議 ランチョンセミナーにも参加させていただきました。

今回の対談では、MEJの立ち上げの経緯やベトナムや新興国への医療アウトバウンドの状況、また、WizWeにお声かけいただいた理由、スタートアップとの連携などについてお話しいただいています。

・一般社団法人 Medical Excellence JAPAN 事務局長 北野 選也 氏
・一般社団法人 Medical Excellence JAPAN 櫻井 早苗 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平


日本医療の国際展開を支援するMedical Excellence JAPAN(MEJ)

森谷:Medical Excellence JAPAN(MEJ)は、どういった経緯で設立されたのでしょうか?

北野氏(以下、北野):MEJを設立したのが2011年です。私は創立者の1人です。経済産業省が、自動車、半導体と大きな産業を育ててきた中で、第3の柱を作りたいという話があり、注目したのが医療でした。医療は、世界では軍事産業とエネルギーの次に来るぐらい巨大な経済の産業になっているのですが、日本では社会保障という観点から医療をコストとして捉えてきましたが、医療を産業として捉えなおすことで大きく日本経済を牽引することができないかという視点です。
 
2009年に、経済産業省の中に伊藤元重先生(当時、東京大学経済学部長)を座長に医療産業研究会ができました。この研究会をわかりやすく言うと、世界の多くの国は医療を産業として原価と売上という観点からものごとを見ているので、医療費というコストが上がっても売上が伸びれば吸収できると考える。ところが、日本では医療は皆保険制度の中、増加するコストをどう抑制するかという観点が中心になる。国内は皆保険制度の下社会保障コストを維持しつつ、その枠組みの外で医療を産業として国際展開を行うことはいいのではないかという話になりました。経済産業省は、国内で産業化はしないけれど海外で医療を売っていくということでなら、厚生労働省もそれは構わないというデマケーション(役割分担)が当時あったと聞いています。
 
ところが、日本の医療レベルは新興国ではあまり知られていないので、まずは日本の医療をしってもらうために、医療インバウンドで日本に来て医療を体験していただく。そして、いい医療だから自分の国に導入したいとなれば、今度はアウトバウンドにもっていくという活動をしていきたいということでした。
 
ただ、医療インバウンドを実施するにあたり、医療は重篤な患者さんもいるため、旅行会社だけではなかなか難しく、しっかり医療面でのサポートができる会社が必要ということになりました。私は当時、医療アシスタンスという患者さんの搬送などをする会社の役員をしていたので、経済産業省から声をかけていただき、医療インバウンドに関わり始めたのが経緯です。
 
最初に着手したのが、日本の医療を海外で紹介するカタログを作るということで、60件ぐらいの病院を取材して作成しました。いいカタログができたので、ロゴやカタログの名称が欲しいねとなり、日本の優れた医療を紹介するということで「Medical Excellence JAPAN」という名称ができ、ロゴも日の丸を模して作成したのが2011年春のことです。経済産業省の予算はいつまでも続くものではないので、予算が終わった後もこの活動を続けていくための事務局としてつくった組織が今のMEJです。
 
一般社団法人を設立したのが2011年10月です。そして、2012年春には経済産業省の中にMEJ活用のためのタスクフォースが設置され、当時20社ぐらいの企業が参加、経済産業省からMEJ参画の声掛けがなされました。また医療界にも参加いただくためには、トップは医師がよいということで、日本病院会の名誉会長をされていた山本修三先生に初代理事長に就任していただきました。アウトバウンドの医療機器の企業とインバウンドを行っている企業、医療機関の皆さんに関わっていただいて、新しい組織の枠組みができたのが2013年春です。
 
ちょうど、第2次安倍政権が3本の矢で掲げた成長戦略の中で、医療を国際展開していこうということになり、2013年6月に、安倍総理、菅官房長官、田村厚労大臣、茂木経産大臣と錚々たる方にご臨席賜り、スタートすることができました。

森谷:ありがとうございます。最初に会員企業様をつなぐときは、順調にいったのでしょうか?

北野:最初は否定的な意見もありましたが、安倍総理が「3本の矢」と言ってからは、皆さん入りたいという流れになりました。期待が大きかったのだと思います。

森谷:インバウンドに行くとき、アウトバウンドに行くときとそれぞれあると思うのですが、インバウンドは最初はこの国からということは考えていらっしゃったのですか?

北野:アウトバウンドから言いますと、医療市場といいますのは、パワー市場はもちろんアメリカで世界の4割ぐらいです。次に、EU、日本と来るわけですが、アメリカ、ヨーロッパはルールがしっかりしていて、医療機器の輸出にしてみても、医療の参入にしても、そのルールに則って行うしかありません。つまり、われわれのような組織が協力したり支援したりする必要性は非常に薄いのです。そう考えますと、これから人口ボーナスがあって成長できるところはやはりアジアだということで、最初からアジアをターゲットとしています。特にASEANですね。ASEAN、南アジア、中東、中国ももちろん外せないということでした。

森谷:インバウンドについてもアウトバウンドについても、最初からアジア中心ですね。国についてはいかがですか?

北野:現在インバウンドというのは8割方が中国です。インバウンドはもう中国オンリーでいいぐらいの規模があるのですが、2012年の尖閣問題があり、中国からの渡航が止まったこともあり、第2、第3の国をどうするかという議論がずっと続いています。
 
その当時は第2の国としてロシアや旧ソ連圏をターゲットにし、少しずつ患者が来日するようになりました。医療滞在ビザ制度も始まり、いろいろな国からのアクセスも始まりました。この数年間ですと、圧倒的にベトナムが増えています。

森谷:国とのやりとりなどはJETROさんと一緒に行っていく形なのでしょうか?

北野:当時、経済産業省からはJETROは中小企業支援を中心に、医療と繋げる部分はMEJが行った方がいいのではという話がありました。2016年にJTEROとMOUを締結してからは、いくつかのイベントを連携して行っています。

森谷:ありがとうございます。櫻井さんはどういった経緯でMEJにジョインをされたのでしょうか?

櫻井氏(以下、櫻井):私は約20年製薬会社に勤めていました。製薬会社では内資と外資と両方10年ぐらいずつ経験があり、臨床開発とマーケティングに携わってきました。分野としては抗がん剤領域です。製薬会社で臨床開発やマーケティングをひととおりやってきて感じたことは、社会課題にインパクトを与える仕事をするには、個社の活動には限界があり、もっと違う角度でヘルスケア分野に関わり、日本の医療に何か貢献できないかと思い、昨年の11月にキャリアチェンジし今に至りました。

森谷:ありがとうございます。MEJさんには出向の方々もいらっしゃるのでしょうか?

北野:そうですね。企業会員から5、6人ぐらいの方々がだいたい1~2年、長いと4~5年いた方もいます。

櫻井:医療機器メーカーやその他の業界からの出向の方もいらっしゃいます。本当にいろいろな専門性を持った方が在籍している組織になっています。

ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストがきっかけでMEJ勉強会に登壇

森谷:MEJさんとの最初の接点は、経済産業省主催のジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(JHeC)2023ですね。その後、MEJさんの勉強会に呼んでいただきました。ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストとは連動しながら動いていらっしゃるのでしょうか?

北野:これまでは、あまり連動はしていませんでした。というのも、スタートアップは、まず国内でしっかり足固めをして、その後に国際テックという流れなので、薬事の問題を考えていくとタイムラグがあります。これまでスタートアップとの連携はあまりしてこなかったという状況でしたね。ですから、ビジネスコンテストには、一度、審査に参加させていただいたぐらいだったと思います。
 
変わった転機は、新興国から幅広い医療サービス、介護、周辺サービスの要望があるのですが、今の会員企業の中では、なかなかそれを持っている会社がおらず、それならばスタートアップの皆さんを海外に紹介していこうと考えた次第です。昨年の秋ぐらいから経済産業省と相談し、3月に勉強会を開催し、新たにスタートアップ企業が参加しやすい賛助会員制度を整備したという経緯です。
 
WizWeさんに勉強会への参加をお願いした理由というのは、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストの過去の受賞者のリストを経済産業省からいただきまして、会員企業に誰の話を聞きたいかと投げたところ、御社が上位になりました。それで、お声かけさせていただきました。

 森谷:海外に行けそう、脈がありそうなどの基準はあったのでしょうか?

北野:幾つかの基準はあります。国際展開の可能性があるか、海外ニーズにマッチするか、そもそも企業会員の方が関心があるかという点です。貴社に関しては、東南アジアで現場の方の定着に苦労している会社があり、そこで活用できるのではないかという期待がありました。

森谷:ありがとうございます。現在、ASEANが大事なマーケットということだったのですが、例えばベトナムで、ここは日本企業としてニーズがありそうというポイントはどういったところでしょうか?

櫻井:そうですね。ベトナムに関しては、GDP成長率が非常に高く、これからすごく伸びていく国です。一方で、高齢者が人口の12パーセントを占めていて、急速な高齢化が進んでいます。高齢化が進むイコール、ヘルスケア産業が拡大していくということだと思いますので、マーケットとしての急成長が見込めるというところです。また、年収も上がってきていて、かなり豊かになりつつあります。資金力もありますので、日本の企業にとっては非常に大きいマーケットではないかと思っています。
 
特に、疾患分野としては、がんや生活習慣病のコントロールに高いニーズがあると思います。これらの疾患予防や治療には、薬剤治療、運動療法、食事療法などがありますが、いずれにしても習慣化が非常に重要だと思いますので、ベトナムはWizWeさんにとっても魅力的なマーケットではないかと思います。

森谷:ありがとうございます。ベトナムは平均年齢がすごく若いので、以前は勝手な思い込みで、生活習慣病や健康寿命の延伸などは、まだしばらく遠いことなのではないかと思っていました。それが実際にお話をお聞きすると、健康寿命が重要なトピックになっていました。

櫻井:そうですね。まさに今、転換期を迎えています。その法整備が急速になされていて、2025年あるいは2030年までの生活習慣病のコントロールに対する数値目標なども明確に定義されています。今後、疾患予防や早期診断のさらなる加速が期待されています。
 
JETROさんのお話もありましたが、通常のマッチングイベントというのは世の中にたくさんあるとは思います。われわれの活動のユニークな点は、個社でのマッチングのみならず、そこに政府なり、中央病院なりが参加することで、社会課題を解決しながら産業を生み出していくというところです。単純に一企業がもうかればいいということではなく、産業の基盤を変えながら、患者さん、国民の皆さんが健康の延伸というところを目指しながら、産業も育っていくという、三方良し的なところを目指しています。そこが、ユニークなところだと思っています。

森谷:実際に、「第2回MEV-MEJフォーラム会議ベトナム」でお話をお伺いすると、本当に日本の医療機関の方が行動介入をして成果が上がったというようなことがスタートされていて、すごいなと思いました。

櫻井:そうですね。ベトナムへの日本からの貢献というのは、人材育成だったりアカデミア研究だったり、非常に長い歴史がありますので、それをバックグラウンドに日本に対する信頼は非常に高いです。ですから、先人の皆さまがまいた種を、今われわれが刈り取るタイミングというようにも捉えられるかと思っています。

森谷:ありがとうございます。ベトナムに行ってみて、法律のところは国の特性があるなと感じました。いろいろな日本の会社の方と話をしたところ、ベトナムの事情があると。

北野:われわれはMExx(世界の医療の質を上げる仲間をつくる)という取り組みを進めていますが、MEJの一つの特色は、政府や医療界、産業界だけではなく、規制当局も関わっているなど、幅広いつながりがあるところです。そういった横のつながりが持てることがビジネスで成功する要因と考えます。このような組織はあまり聞きません。
 
企業の方が規制当局に行って話ができるかというと、まず会うのがなかなか難しいです。会えても、表面的な会話で終わってしまいます。法律はもちろんありますが、行間を読み切れないことがあります。こういう時に、フォーラム会議に参加された方とのネットワーク構築が重要になってきます。

森谷:そうですよね。行ってみてすごくよく分かったところがあります。

北野:実はすごく苦労したことがありました。企業の皆様に出席していただくことになったときに、ベトナム側から現地法人がない会社で薬事承認を取っていない会社は出席させないという連絡が入りました。

櫻井:1週間前でしたね。怖くて企業の皆さまにはお伝えしていないのですが、突然な通告があり、ちょっと冷え上がりました。最終的に話し合いで解決してよかったです。

北野:今回大きかったのが、ベトナム保健省保健政策アドバイザー に正林督章先生(元厚生労働省健康局長)がおられ、法律ではこう書いてあるから通せと言っていただきました。ただ法律に書いてあるからでは通らないところがあります。やはり人間関係があって、ベトナム保健省が正林先生をリスペクトしていることや、正林先生が今回の取り組みを評価しておられたので、保健省サイドも考えを変えていただいたのだと思います。ですから、こういう関係構築が非常に重要だと思っています。

森谷:本当にそう思います。参加された皆さんもすごく解像度が上がっていると思いますし、プラットフォーマーとしてすごく必要な情報が揃っているという印象を受けました。

北野:ありがとうございます。今回、会員企業の方々から、現地トレーニングをしてもなかなか定着しないというお話を伺っていますが、医療機器のトレーニングなどのところは、WizWeさんのサービスを使いやすいのではないかと思っています。

森谷:そうですね。そこはあり得ると思いますね。

北野:全然違う観点からいきますと、中国、東南アジアの医師の質というのは格段に上がってきています。優秀な人はいくらでもいます。ところが新興国の課題は、共通して技師や看護師などのコメディカルの方の能力が上がっていません。というのも、給料が安く社会的地位が低いので、優秀な人がなりたがらないという状況があります。ただ、ポテンシャルはあり、しっかり教育すれば伸びる余地を持っています。医師がいくら優秀で手術の力があっても、しっかりした画像がなければどこを切っていいか分からない。こういったことが現実です。
 
現地でのトレーニングをどう定着化させるか、習熟を上げるかという新興国の成長の鍵で、WizWeさんのサービスはものすごく期待されているのではないかと思います。

森谷:まさに自分の人生からすると、ライフワークになっていますね。グローバルに関わりだしたきっかけがEdTechです。2006年に中国に渡って、プロジェクトとしてすべきだったことが、現地の方々の教育でした。日本語教育を中国やフィリピンの方々向けに考えながらやってきたというところがありましたので、ライフワークとして自分のビジョンの中に入っていますね。

ピッチでもお伝えしたのですが、ナイジェリアで日本語教育をする、現地の方々を育成するというチャンスがあったときに、これはぜひやりましょうとなりました。ただ、私たちの習慣化サポーターチームはすごく大変だったと思います。いきなりナイジェリアで育成ですかと。提供側に大変なことは非常に多かったのですが、収穫も大きかったです。インターネットの凄さを感じました。ナイジェリアでも我々の習慣化プラットフォームのシステムが動き、サービスが届く。大変ではあったのですが、サービスを提供したことがない「ゼロ」状態と、実際にサービスを提供した実績がある「イチ」では、天と地ほど差があると考えています。苦労しながら刻んだナイジェリアでの「最初の一歩」は、我々のグローバル展開にとっては極めて大きな意義があったと考えています。

北野:MEJの会員企業にもナイジェリアで一番大きな製薬会社に投資をしている会社があります。日本のノウハウを教えることで成長に寄与して、アフリカでの競争力をあげています。現地の医療情報に触れることができる魅力がある一方、ナイジェリア人をトレーニングには苦労されているのではないかと思います。
 
普通では結びつかない連携が、患者さんにとっていい医療をどう提供しようかという目的を持つことで、結びついてくるところがあります。ここがMEJとして目指しているところです。

森谷:実際、ベトナムでの「第2回MEV-MEJフォーラム会議」のお話をいただいた時に、私たちはすごく小さな母体なので一瞬迷いました。やはり行くべきだと思って参加させていただきましたが、リアルで行くといいですね、すごく勉強になりました。行かないと分からない情報もありましたので。

北野:われわれは、2014年から経済産業省の補助事業の管理団体として、200件近い事業の支援をしてきました。各社が事業化にあたり苦労しているところを見るといくつかのグルーピングをすることができます。
 
例えば、ベトナムをマクロでみると、人口増、高い経済成長率がある。その中に手付かずの領域を見つけるとビジネスチャンスに映るわけですが、これでは同じ失敗を繰り返すことになります。何故かと言うと、空白な理由が明確にあるからです。政治的な要因、医療的な要因、または社会的な要因等があり、難しいから欧米の企業や病院がやっていないことが分かってきます。
 
マクロ的な数字ではなくて、実際に現地に入って見ていくことで課題が見えてきていています。母子保健だとしたら、貧しい家庭の中で病院にかかるお金もない、政府から出る保険料もわずかです。そこには誰もお金が出ないので、JICAがODAで支援しているのです。現地ニーズと産業化できるニーズの違いは、半年から1年やっていくなかで、これはビジネスにならないなと分かります。補助事業の審査員にはどうしたらマネタイズできるかの観点から指導してもらっています。

森谷:私たちは、これまで教育の習慣化も長くやってきました。英語や中国語のグローバル人材育成だったのですが、日本の会社が海外に行って成功していくには、どういうプロセスで何が必要かということを経営者の方に聞いていました。現地に行って時間もしっかり使って理解をするというのが共通の項目でしたね。

北野:会員企業の中で世界的シェアを取って成功している会社の話を聞くと、まだ現地ルールが整備されていない国に、世界基準を伝え、ルール作りを促します。すると、保健省や現地病院がこの企業の話を聞きながらルールを導入するので、このルールに合った装置、即ち自社製品が導入されるというわけです。結果的に、その国にとって良いルールが導入されることで国民の健康増進が進むわけです。
 
次のポイントは、彼らは百何十カ国に製品を入れて、各国のシェアを取っていますが、各国に日本の代表者はほとんどいません。現地の人を育てて、現地の人たちが自分の国で、そのビジネスを成功させるために、現地法人の社長になっています。
 
日本企業がファイナンス的なところをしっかり教えなくてはいけないというところはもちろん重要だと思うのですが、オペレーションやマネジメントのところまで全部やろうとすると、その国のルールが分からずに成功できないということが結構多いのではないかと思います。現地のルール化を進めるのであれば、現地の人たちがやっていかなくてはいけないというところをうまくできている会社が成功しているのではないかと感じています。

森谷:そういったお話をたくさん聞きました。とても共感しますね。

将来的な展望について

森谷:将来的な展望についてはどのようにお考えでしょうか?

北野:日本の医療機器には、クラスⅠからⅣまでの分類がありますが、体内に埋込むなどの治療に関わるクラスⅣが少なく、診断系に特化しています。そうすると、丸ごと1つ病院をつくろうとしたときに、その中で治療などの一番お金がかかるところの多くが輸入品ということになります。そのため日本は医療機器で言えば、計算方法によりますが1兆の輸入超過になります。ペースメーカー等の治療系機器が輸入に頼っているからです。
 
アメリカの例を見ると、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどは、新製品を自ら開発するよりもスタートアップ企業を買収しています。スタートアップは製品化したところで売って、それで得た資金で次の開発をする。オープンイノベーションの世界です。
 
医療機器の世界では、製品の薬事申請、マーケティングと販売を考えると数十億かかり、大手しかできません。スタートアップが製品開発を行い、大手企業が買収するという融合ができたのがアメリカだと思っていまして、日本もやはりそこの道に行くべきなのだろうと思います。優秀なスタートアップはこれからもどんどん出てくると思いますが、スタートアップがファイナンスやマーケティングなどすべてを行い、上市した後の国際戦略まで全部考えるかというのは、限界があります。やろうとする会社出てくるのは、ユニコーンとしていいと思いますが、アメリカでもなかなかそれができていません。
 
日本の中で治療に関わっていくことは難しく、症例がどんどん減ってきますので、今後は多くのスタートアップが最初から海外に出ていき、アメリカで薬事を取ってくる、同時進行で日本でも取っていく、こういう会社が10社、20社出てきて、大手がこれを買収していくと、日本の医療産業が大きく変わる転機になるのではないかと思っています。スタートアップの活躍と大手企業との連携プレイに期待しているところですね。

森谷:経済産業省のいろいろな活動の影響もあって、日本はスタートアップエコシステムに恵まれてきているので、すごくありがたいと思っています。2006年頃は、本当にもう何をやっているのか分からないという感じだったのですが、今はスタートアップというワードも通じるようになりましたし、大手企業が軒並みコーポレートベンチャーキャピタルをつくって資金の供給量も増えているので、すごくいいスタートアップが生まれてくる土壌が整いつつあると感じています。国際展開の取り組みも、MEJさんのような組織があることで、情報にアクセスできるのはありがたいなと思っています。情報はすごく重要な資産ですので。

北野:現在、経済産業省の研究会に出させていただいています。医療というのは難しく、先生と一緒に取り組んでいかないと製品化できません。ただ、本当に素晴らしい先生が多いのですが、皆さん自分の領域で頑張っていらっしゃるので、自分はその製品を買うけれども、世界的に買うかといったら分からない。日本は中小含めて実力のある企業が多いので、先生と頑張ればほぼ製品化できますが、その後に市場がないというケースが結構多いですね。
 
では、どの先生と取り組んで行くのがいいかというと、学会でやったらいいのではないかという話もありますが、学会はあくまでも研究発表の場です。そうなると、個々の先生だけではなくて、いろいろな先生と横のネットワークを築きながら、世界的な潮流はどうなのか、ある程度マーケットをしっかり見ながら取り組みたいところなのですが、これを企業単独で行うのはなかなか難しいです。ですから、MEJのような場で、いろいろな先生を捕まえて、こういうのはどうでしょうかと聞いてみると、それはアメリカで失敗したなどといった情報が入ってくると思います。こういったネットワーク、情報交換の場、そういったところをMEJは目指していきたいと思っています。

森谷:今回ベトナム行ったことで、日本ではまず見なかった情報をたくさん得ることができました。本当にありがたかったです。今後ともよろしくお願いします。

本日はありがとうございました。