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【ファジサポ日誌】72.桃太郎大作戦~第34節ファジアーノ岡山vsベガルタ仙台~

チームは急激に強くなっています。しかし、このままシーズンを突き抜けられる力まで確認は出来なかった。これが率直ないわき戦の感想です。
だからこそサポーターの後押しが必要なチームなのだと再認識しました。

今週末の仙台戦、ホーム側は週明け早々に完売。満員に近い形でチームを後押しできます。今の仙台も比較的前から獲りにくるチームであると思いますが、奪ってからの質の高さはおそらくいわき以上であると予想されます。
簡単な戦いにはならないと思いますが、選手の粘りを引き出せるような応援がしたいですね。

【ファジサポ日誌】71.個の力で跳ね返す~第33節いわきFCvsファジアーノ岡山~より

前節いわき戦のレビューを上述のように締めさせていただきましたが、多くのサポーターがピーチピンクを身に纏った仙台戦はまさに「選手の粘りを引き出せるような」スタジアムの雰囲気づくり、応援が劇的な勝利を呼び寄せたのだと思います。
その余韻に浸りながらも、決して勢いだけではなかったファジ戦士の頑張りを中心にホーム、ベガルタ仙台戦を振り返ります。

1.試合結果&スタートメンバー

J2第34節 岡山vs仙台 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

スコアが動かない試合でしたが、これは両チームの攻守の健闘により特に前半は膠着状態がもたらされたことによるといえます。後半は岡山が選手交代によりオープンな展開を求めていきますが、やはり両チームの守備の頑張りが目を惹きました。
岡山としては「赤色」で塗った「攻勢の時間帯」に2度ゴールネットを揺らせた点は、良い攻撃を結実させるという意味で今後の戦いにおいて、大きな自信になるものといえます。

先にここで触れますが、3分の(5)柳育崇のヘディングシュートはゴールとして認められていてもおかしくなかったと思いました。
どうやら(7)チアゴ・アウベスのオフサイドをとったようですが、(7)チアゴはオフサイドポジションにはいましたが、仙台GK(33)林彰洋のボールへのプレーを妨げたようには見えませんでしたし、(33)林に対してチャレンジしている訳でもありません。
唯一可能性があるのは、(33)林の視線を遮ったという事かもしれませんが、それは副審の位置から明確に確認出来るのか、少々疑問がわきます。
これが認められないのであれば、多くのセットプレーでのゴールが認められないことになってしまう、そのような感想を持ちました。
もちろん、スタンドや映像からのみでは分からないこともあると思いますので、審判の判定は尊重したいと思います。

3分 柳の先制ゴールと思われたシュート
J2第34節 岡山vs仙台 スタートメンバー

続きましてメンバーです。
岡山ではCH(6)輪笠祐士が戻ってきました。一安心です。
(6)輪笠の復帰に伴い、いわき戦でCHを務めた(15)本山遥は再びRCBで先発します。ベンチにはМF(27)河井陽介が戻ってきました。
今の3-1-4-2(守備時5-3-2)導入以降は中盤の選手の負担も大きくなっています。頼りになるバックアッパーです。

仙台は堀孝史体制に代わりメンバーもやり方も変わりました。
アウェイ戦でその前プレに手を焼いた(7)中島元彦の姿はなく、今夏のマーケットで獲得したRWG(26)松崎快、LWG(19)齋藤学、LIH(37)長澤和輝といった実力者が顔を揃えます。
また、1トップには最近6試合連続でスタメン起用されていた(9)中山仁斗ではなく、(88)ホ・ヨンジュンが6試合ぶりにスタメンに入りました。
攻撃時は図示しました4-1-4-1ですが、守備時には4-4-2(4-4-1-1)のブロックを敷きます。最近数試合を観ましたが、守備の再整備に力点を置きながら、攻撃は両WGの切り返しによるクロス、シュートが主体となっている印象です。

2.レビュー

(1)見応えがあった両チームの攻守

序盤こそ仙台に関してはマイボールが「手につかない」状態になっていましたが、ゲームの流れが落ち着いてからは仙台の守備ブロックとそれをこじ開けようとする岡山のパスワークに見どころがありました。

また、注目していました仙台両WGの攻撃に関しては70分の(26)松崎から代わった(16)加藤千尋のカットインからのシュートが唯一危ないと感じた場面で、岡山守備陣はほぼ完封出来ていたと思います。

① 学びがあった仙台の守備ブロック
攻守において可変システムを用いているチームは多いと思うのですが、最近のJ2では守備ブロックを敷いているにも関わらず、堪え切れず失点しまうというシーンを多く見るようになったと感じています。
この日の仙台の守備ブロックは、ただ「構える」だけでなく、ブロック網に入った岡山の選手をしっかり掴まえていました。

J2第34節 岡山vs仙台 26分 岡山(7)チアゴと仙台守備陣の攻防

26分の場面です。飲水タイム明けで岡山(1)堀田大暉のゴールキックでボールは仙台陣内へ。岡山スローインを(7)チアゴが仙台の最終ラインと中盤の間で受けドリブルを始めます。
(7)チアゴのイメージはおそらくいわき戦の先制点同様にボックス右への侵入です。これに対する仙台の守備が素晴らしかったと思います。

まずブロックそのものが非常にコンパクトであること、コンパクトな理由はブロック網に入った相手ボールホルダーに複数人で対応しやすくなるからです。
この場面では(7)チアゴへの対応を最終ラインに任せるだけではなく、DМ(6)エヴェルトンが追走することで、LCB(3)福森健太とLSB(41)内田裕斗との間で三角形を形成し(7)チアゴを囲みます。
この3人のうち、ゴールから遠い位置にいる(突破されてもリスクが少ない)外側の(41)内田がまず(7)チアゴに止めにいきます。
(7)チアゴはこれを交わし前進しますが、(3)福森はこの前進に慌てることなくボールへは行かず、自身の背後、ゴールへ向かうスペースを消しますが、これは(6)エヴェルトンが更に(7)チアゴへの追走を強めることがわかっているから出来るのだと思いました。
最終的には(6)エヴェルトンが後方から(7)チアゴにプレッシャーを掛け、コーナーに逃れます。
岡山では最も突破力がある(7)チアゴを相手にしても、この仙台の各選手の動きには澱みがなく、選手間でのマークの受け渡しやチャレンジするタイミングなどの約束事が共有されていると伝わってくるシーンでした。
そして何と言っても、相手をボックス内に侵入させるのではなく、その前段階でボールを奪う、難を逃れるという能動的なブロック守備に好感を持ちました。

こうした仙台の整備された守備ブロックがこの試合を膠着した展開にした一因であると考えますが、岡山はこれに対してサイドではRCB(15)本山の持ち上がりによりRWB(17)末吉塁を高い位置に上げる。またFW(48)坂本一彩が下りてきて受けることで、数的優位をつくって対抗していました。また右サイドでつくって、逆サイドのLWB(42)高橋諒に展開、コンパクトな仙台の守備ブロックを広げるよう試みてもいました。
非常に見どころある攻防でした。

岡山の場合は、守備ブロックを敷いた際に中盤が手薄な形(5-3-2)になりますので真似をできる訳ではありませんが、最終ラインに送り込まれるのを構えて待つだけではない守備ブロックの在り方は参考になるのではないでしょうか。

仙台では(6)エヴェルトンが奮闘
危険な場面には必ず顔を出していた

② サイドの攻防
上項目でも述べましたが、対する岡山は仙台の攻撃のポイントでもあったサイドで優位に立つことで、逆に仙台ゴールに迫ろうとしていました。

J2第34節 岡山vs仙台 19分岡山の守備から攻撃

19分の場面です。仙台(19)齋藤が左サイドでボールを受けます。
素早く(17)末吉が(19)齋藤の前方を塞ぎます。(19)齋藤は後方の(37)長澤に戻し(17)末吉の裏へ抜けようと企図しましたが、あまりにも(17)末吉の反転の素振りが早く(19)齋藤は裏抜けのアクションさえ起こせませんでした。隠れた(17)末吉のファインプレーであったと思います。
岡山4連勝中の立役者とも言える(17)末吉ですが、特に守備時の反応速度には目を見張るものがあります。相手の次の動きに対して、ピクッと反応する様子がスタジアムでの観戦でもよく見えます。
そして、この場面では(37)長澤からのパスに対する(15)本山のカバー、処理も非常に迅速でした。
攻守においてこの(17)末吉と(15)本山のスピード感には相性の良さを感じます。右サイドの新コンビ登場といったところです。

ここにリンクマン(6)輪笠が加わり、斜め前方へ浮き球のパスを通します。最近の(6)輪笠はこうしたパスを難なく通すようになりました。
(7)チアゴとのワンツーで決定機を迎えた(48)坂本は残念ながら決め切れませんでしたが、仙台の攻撃の強みを消し、逆に手数少なく決定機を迎えたこの攻撃は見事であったと思います。
もし、ゴールが決まっていれば筆者の中では今シーズンのベストゴール候補になっていたと思います。

以下4枚は(17)末吉のプレースピード
筆者はSS1/500で設定
通常はそんなにブレないが、
末吉の足の運びはブレてしまう。
後半、仙台加藤の切り返しのシュートをきっちり弾く(1)堀田

(2)試合を動かす

展開としては、ちょっともどかしかった。相手コートに入っても良い形に持ち込める回数は少なかったですし、相手もそれほどガチャガチャと来なかったので、じれったい展開になったかなと思いますけど、後半は自分たちから意図的に動かしにいった。ちょっとゲームがオープンになりましたけど、そこはやるかやられるかの勝負をしないといけないかなと思いました。押される時間もありましたけど、ゴールを割られる感覚はなかったので、あとは1点を取れるかどうかかなと思いながら試合を見ていました。なんとか1つねじ込みたいなと思って見ていましたけど、最後に1つ(ステファン)ムークさんがよく枠を捉えてくれたので勝つことができました。

試合後の木山監督のコメント Jリーグ公式HPより

ここまで述べてきましたように、全体的には仙台の守備がよく整備されていて、岡山としてはボールは持てるものの、決定機の創出回数は多くはなかったと思います。しかし、逆転プレーオフ進出を目指す岡山としては、星勘定の上でもこの試合は落とせませんでした。
岡山は自らリスクを冒しても、勝点3を獲りにいくため、木山監督のコメントのように自ら試合を動かしにいきます。
木山監督らしい采配でした。
そこで、55分(44)仙波に代えてMF(8)ステファン・ムーク、(48)坂本に代えてFW(99)ルカオを投入します。

(48)坂本に代えて(99)ルカオということは、前線の起点をもっと前につくるということを示唆します。そしてその起点をこの試合で比較的優位に立っていたサイドに置いた。この試合の勝因のひとつであったと思います。左右問わずサイドに流れる(99)ルカオは仙台守備者の2人以上を相手にしながらも、その屈強なフィジカルを活かしてボールを収め、強引に前を向きます。一度前を向くと持ち前のスピードを発揮。フィニッシュの質は相変わらずですが、CKを含めて数多くのチャンスを創出しました。

59分(6)輪笠からのパスを浮かせて自らカットインでシュートにまで至った突破、75分右サイドからマイナスのクロスを送り(8)ムークのフィニッシュに至った突破は特に印象に残りました。

ルカオの凄いところは、
この状況からボールを懐にしまい、
反転して前を向いてしまうところだ。
ルカオのマイナスのクロスから
(8)ムークのシュート
仙台CBを交わそうと浮かせたが、
惜しくもバーの上へ

(3)勝敗を分けた交代

それでも相手アタッキングサードでのシュート、パスの判断ミス等から仙台のカウンターを受ける場面もありましたし、仙台CB陣が粘り強く岡山のシュートコースに入る、そして岡山の決定力不足も相まり、スコアは動きそうで動きません。
勝敗を分けたもの、スタジアムの雰囲気や応援の件については最後に述べますが、筆者は両チームのこの日最後の選手交代にあったような気がしました。

岡山のベンチにはCB(23)ヨルディ・バイスとLWB(2)高木友也が残っていた中、85分の(7)チアゴに代えて(2)高木を入れます。
これにより74分(42)高橋に代わってLWBに入っていた(19)木村太哉がRWBに回ります。
これまでの交代のパターンを踏まえますと(23)バイスのパワーを投入という選択肢も有り得たように思ったのですが、木山監督の選択はサイドアタッカーでした。
この試合のこれまでの展開からも明らかであったように、この試合で岡山は両サイドで優位に立っていました。このサイドから押し込む力の維持を最後まで優先したという木山監督の判断が当たったと思います。

最後のCK獲得に至った(99)ルカオのシュートは、自陣右サイドからの(19)木村の持ち上がり、そして左サイドに流れたパスを諦めずに残した(2)高木の力によってもたらされました。

一方、仙台の最後の交代はRIH(11)郷家に代えてCB(5)菅田真啓を入れるものでした。この日の(11)郷家はほとんど存在感を示していなかったことを考えても、誰かと交代する必要はあったのかとは思います。
しかし、ひょっとしたら堀監督に守備を固めて勝点1という考え方もよぎったのかもしれません。
近年のJ2残留ラインは勝点40前後。現在の仙台がちょうど勝点40であったことを考えますと、仮に勝点1でも早く上積み、残留ラインに到達したいという心情も十分想像できるものです。

一方、岡山は上を目指すには勝ち続けなけれならないという状況。そして、何と言っても勝利を諦めないスタジアムの雰囲気が最後まで選手を後押ししました。

AT、(19)木村太哉が自陣からタッチライン沿いを
炎のように突破する

(4)劇的な決勝ゴール

この決勝ゴールが生まれた背景的な要因はここまで述べてきたものなのですが、このCKのシーンに限ってみますと、最近の岡山のセットプレーの変化が良い作用を生み出したと筆者は感じました。

今までは(5)柳に「決めさせる」配球であり、周囲の動きであったのが、最近は(5)柳に「落とさせる」配球が加わり始め、周囲も(5)柳の落としを狙うようにもなってきましたね。
偶発的要素はあったかもしれませんが、この意識が(5)柳に枠内に飛ばさなくても良いという余裕を与え、(8)ムークに具体的にこぼれ球を狙うイメージを湧かせたのかもしれません。

この場面での(41)田部井のキックはライナー性でしたが、最近のCKではドロップ系のボールが増えている点も見逃せません。まず(5)柳に確実に当てさせることを最優先に取り組んでいる跡がみえます。
小坂コーチもその都度「セットプレーは全員で獲るもの」と述べていますが、まさにそれが体現されたゴールでした。

ついに決めた!
(15)本山のガッツポーズが印象的
(8)ムークさん、結構厳しい体勢であった事が窺える

3.まとめ

筆者の記憶が正しければ、この試合のチケットは9/3(日)夜の段階でバック自由席に400席以上残っていた筈なのですが、一夜のうちに完売。
この日の夜はアウェイいわき戦を勝利しました。
今シーズン初の3連勝を飾ったタイミングという事を踏まえますと、この座席販売数の伸びは特殊要因でない限り、ファジに関心があったり、ファンであったりするが毎試合は現地観戦できない層の観戦を促した、またいわゆる「お誘い効果」もあったのかもしれません。
いわば、リピーターになっていただけるかは試合結果によるところもあり、そんな大事な試合で劇的な勝利を収められた。
これは「大きい勝利」なのです。

そして、キャプテン(5)柳を中心に試合後の各選手も「大きい勝利」を強調していました。この点も非常に心強いです。
現場での今のサッカーへの手応えは、ひょっとしたらサポーターを含めた周囲が感じている以上のモノがあるのかもしれません。
改めてもう一度この試合を振り返りますと、戦術や劇的な決勝ゴールの裏で、ネガトラや相手ショートコーナーへの対応、スローインの成功など、岡山の隙であった細部についてほぼきっちり出来ていた点は見逃せません。
現場の手応えはこうしたところからも発生しているのかもしれません。

最後に、ムークの決勝ゴールはサポーターが、スタジアムが、岡山の街が獲らせたのだと思います。筆者が座っている位置からは構造上アウェイの応援の方がよく聴こえる筈なのですが、この試合ではゲート10からの応援声量、迫力が仙台を明らかに上回っていました。
桃太郎チャント、今後も(ホームの)勝負所でまた聴きたい(歌いたい)です。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

大の字になって喜びを表現していた堀田を迎えに行く本山
桃ピンクの大応援がチームに力を与えた

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。


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