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【ファジサポ日誌】106.情熱~第12節 ファジアーノ岡山 vs 清水エスパルス マッチレビュー~

コロナ前は、試合終了後挨拶に来てくれる選手たちに声を掛けることもあったが、そんな習慣はいつのまにか自分の中で無くなっていた。しかし、昨日の試合では久々に自然発生的に声が出た。
スタジアムの雰囲気は最高であったと思う。昨シーズンのホーム清水戦はJ1(から降格した)清水が来るからという物見的な観客も多かったように思えたが、この時と比べても応援の圧、迫力、スタジアム全体を包む熱気は間違いなく上であったと思う。それでもGATE10では、応援の様々な観点からまだ足りないとの認識もあるらしい。それはもう伸びしろでしかない。

一人一人に出来ることは限られるし異なる。筆者もそれなりにこの清水戦に向けて自分で出来る盛り上げ方を考え、熱意を持って臨んだ一戦であった。

勝負事は負けた後も続いていく。だから普段は「絶対」という言葉は使わない。ましてやリーグ戦はまだ前半戦、敗れてもまだ立て直しは利くが、それでも「必ず勝つ」とコメントを吐いた。

それは6ポイントマッチだからというだけではない、清水に未勝利というクラブの壁を越えるための戦いであったからだ。

だから悔しかった。その悔しさも「もっとやれただろう」、「力を出し切っていないだろう」という選手たちのプレー、チームのゲーム運びに対しての消化不良感であったからだ。

ただ声掛けは不満を述べるだけでは意味がない。声を掛ける相手の能力を肯定した上で具体的に伝えることが重要である。一サポーターの言葉が彼らに届いたかどうかはわからないが、時には言葉を吐かなければ届けたいものも届かない。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

いわゆるスコア以上の差を感じた0-1というパターンでした。
この敗戦により岡山は首位清水と6ポイント差、2位長崎とは5ポイント差をつけられました。3位以下は3位岡山から9位秋田までが4ポイント圏内にひしめく団子状態になりつつあります。岡山としては連休残り2戦(山形・徳島)を連勝して長崎との一戦に向かいたいところです。

J2第12節 岡山-清水 メンバー

それではメンバーです。

岡山としては目算が狂ったのはFW(8)ガブリエル・シャビエルのメンバー外でした。前節熊本戦で相手に後ろから厳しく削られた場面があり、前半のみで交代しました。負傷欠場と思われます。最近はCF(9)グレイソンにロングボールが十分収まらない試合もある中、秋田戦、熊本戦と代わりに(8)シャビエルが受ける場面も目立ち、これが良いアクセントにもなっていました。今回の清水戦では(9)グレイソンに対してはCB(3)高橋祐治がほぼ競り勝っており、前線の代替ターゲットという意味でも(8)シャビエルの欠場は痛いものであったと思います。

終始清水CB陣の厳しいマークに晒された(9)グレイソン

ルヴァン横浜FC戦で先発出場を果たしたMF(7)竹内涼がリーグ戦初のメンバー入りを果たしました。一方、その横浜FC戦で奮闘したMF(44)仙波大志はメンバー外となりましたが、これは連戦を見据えてのことと推測します。

リーグ戦初出場の(7)竹内涼。攻守においてポジショニングの良さを発揮した。

清水にはMF(33)乾貴士の姿がありません。これで岡山戦は昨シーズンから3戦連続の欠場。コンディションや連戦の影響はあったと思いますが、筆者は戦術的な理由、より組織の形を崩さずに戦った方が岡山には良いというような理由もあるように推測しています。とはいえ、この点については論じる材料は持ち合わせていません。

2.レビュー

J2第12節 岡山-清水 時間帯別攻勢・守勢分布図

30mラインへの進入という点のみをみると、前半の岡山はそれなりに出来ているという場面もありました。この後に貼る木山監督のポジティブなコメントの根拠の一部はこうした点にあると考えます。
しかし、後半の岡山の攻勢に対しては、清水が意図して受けに回っていた点もあり、特に59分LSH(21)矢島慎也に代えCB(70)原輝綺を投入し3バック(5バック)化、岡山を1対1で抑えに来てからはその動きが鮮明になりました。更に最終盤には逆に攻勢に出て、岡山の最終盤の反撃を抑えることに成功。
この清水の、おそらくこれまでもみられていた試合運びをさせてしまったという点からも、岡山は前半のうちに先制点を与えてしまったことで勝ち筋の多くをを失ってしまったといえます。

再び前半終了後の筆者のポストを貼りますが、GK(49)スベンド・ブローダーセンのスーパーセーブによる起死回生の流れをすぐに手放してしまい、先制を許したことによる失望感が現れています。
それだけこの試合では先制点が重要であったのです。

まず(49)ブローダーセンのセーブについては、事前のしっかりした情報収集、研究に基づいていることは各種記事から明らかと思いましたが、その準備の良さに加え、鋭い観察眼、最後まで動き出しを待てる瞬発力が光っていたと思います。
やはり、キッカーの動きを最後まで見ています。清水OFM(10)カルリーニョス・ジュニオのステップを最後まで見て、完全に自身左側方向のグラウンダーと確信しているように見えました。
そして弾かずにキャッチしてしまう。
主審の理由が不明なジャッジを跳ね返すという意味でもビッグセーブでした。そして、この後訪れたゴール前FKからのチャンスをモノにする、また攻勢を持続することが岡山には必要であったのです。

試合に関して言えることはあまりありません。言えることがあるとすれば、自分たちにしっかりベクトルを向けて、もう少しレベルを上げるところを頑張っていこうということだけ。 ゲーム自体は悪くなかったと思いますし、しっかりしたプレーができていたと思います。それでも勝ちに足りないのであれば、そこを追求する。それのみかなというふうに思う。また次に向けて頑張っていきたいと思います。

--前半は押し込まれたが、後半は押し返した。攻撃に変化を加えた部分は?
前半も良い感じになりそうなところがあったけど、そこは相手がさすがなところもありました。われわれがハーフウェーラインを越えても、その先は簡単に越えさせない。CKは右サイドから多く取っていたけど、最終的にはやらせない。そこはやっぱりせめぎ合いなので。決して何かを変えたわけじゃないですけど、1つ言えるとすれば、もう少し勇気を持ってプレッシャーに行ってもいいかなと。後半はプレッシャーの掛け方を少し整理して送り出しましたけど、そんなに何かを変えたわけではない。連係も非常に取れていて、後半はそれがより良くなった部分もあったんじゃないかなと思います。

J2第12節 岡山-清水 木山監督の試合後コメント JリーグHPより

有料媒体ではもう少し具体的に語っていますが、アタッキングゾーンでの工夫、ボックス内でのズレのつくり方、アイデアについての指摘がありました。(49)ブローダーセンのPKストップの直後、清水ゴール前のFKからのCKのチャンスではショートコーナーを読まれて、結局清水に流れを切られてしまいました。ショートコーナー自体の選択は清水守備陣の目線を振る効果もあり、良いと感じたのですが、結局ボックス周りでだらだらとボールを持ってしまい、ボックス内にボールを供給できなかった点は攻撃陣に猛省してほしいと思います。

清水に再び流れを渡したと感じた大きなプレーでした。
前半を終えて、岡山の選手に「もっと戦え」と呟いたのは、こうした攻撃をやり切らないプレーに対してのことであったのです。

それでは論点はアタッキングゾーン進入以降にのみあったのか?というと、そうではありません。

ブローダーセンPKストップ後の絶好のチャンス
ここは(18)田上が蹴ったが今季の岡山には絶対的なプレースキッカーが不在。
この点も攻撃に少しずつ影響を及ぼしている。

(1)前で奪うことは可能であったか?

先に貼りました木山監督のコメントにあったように、後半岡山はプレスの掛け方を少し整理して送り出したとありますが、確かに前半の岡山は清水のボール運びについてどこで制限を掛けるのか、曖昧な面はあったと思います。

今シーズンの岡山のプレスには前線→サイド(WB&CH)→SCB→ボックス内(最終局面)と4つの段階があったように感じます。
当然理想はより高い位置で奪うことなのですが、この清水戦ではプレスが掛からず、特に前半はいわゆる最終局面で跳ね返すことに終始してしまいました。
もちろん最後をやらさずにロングカウンターに懸けることも立派な戦術の一つですし、熊本戦ではそれが上手くいった面もあったのですが、前提として最終ラインで跳ね返したこぼれ球を拾わなくてはなりません。
この役割をこれまではCH(24)藤田息吹が驚異的な回収率で担っていた岡山でしたが、この試合においては清水の両CHを中心に上回られてしまっていました。よって跳ね返しても、跳ね返しても押し込まれる場面が続き、前述のPKについてもこの流れが続いたことから与えたもので、主審の判定面の問題を差し引いても、大きな原因は岡山側にあると思うのです。

やはり、岡山としては出来るだけ高い位置でプレスを掛ける必要がありましたし、筆者は奪えるチャンスもあったと考えます。

清水の前進において、この試合目立っていたのはRSB(28)吉田豊でしたが、PA内への進入という点ではLSBの(14)山原怜音から如何にボールを奪うか、制限を掛けるかが守備側のポイントになります(SPORTERIAさんのデータより)。
清水の攻撃が上手くいっている時は最終ラインからワンタッチで最前線までボールが動きます。守備側としてはこのワンタッチの流れをどこで遮断するかを見極めなければならないのですが、それが(14)山原から中への横パスにあったと思うのです。

第11節清水-仙台の65分、仙台(7)中島元彦が1点差に迫るゴールを決めたシーンです。注目していただきたいのは冒頭の仙台の奪い方です。
ハーフウェイラインを越えた(14)山原が敵陣斜め中央にパスを差そうとしているのですが、受け手の準備が十分でなく断念。ここに仙台RSH(11)郷家友太がプレス、躊躇した(14)山原がCH(13)宮本航汰に横パスを出したところを仙台が奪い得点に繋げます。

シチュエーションは少々異なりますが岡山にも獲れそうなシーンがありました。今度は岡山-清水の11分です。

J2第12節 岡山-清水 11分 清水の攻撃

先ほどの場面と比べると(14)山原が高い位置でボールを持っていますが、ここにも岡山が奪えるチャンスがあったと思いました。
(21)矢島は裏へ抜けようと走りますがRCB(4)阿部海大がしっかりついていきます。そしてRWB(88)柳貴博が中を切りながら(14)山原へプレス。(14)山原の横のスペースにはまだ誰もいません。このスペースに清水の選手が走り込み(14)山原が横パスを出したところが奪えるチャンスであったと思います。このスペースに最も近いところにいたのがRST(27)木村太哉でしたが、残念ながらこのスペースを感じている雰囲気はみられませんでした。ここで自陣ゴール向きに(27)木村が奪えても即岡山のチャンスになったかといえば、そうではなかったのかもしれませんが、しかし同じロングカウンターを仕掛けるにしても、自陣ボックス内から攻め上がるよりは相手の帰陣も遅れますし、少しでも高い位置で奪う事には意義があるのです。

この場面(27)木村の目線はずっとボールホルダーの(14)山原に向けられており、サイドでWBとCHまたはSTが囲い込むという岡山の原則的な奪い方に照らし合わせると決して間違いではないのですが、清水戦の対策的な情報として清水からのボールの奪い所がチームとして共有されていれば、この試合の結果はまた異なるものになっていたような気がします。

もちろん岡山と仙台ではシステムが異なります。仙台は4-4-2の分、後ろの心配をせずにSHがプレスにいける反面、岡山は3-4-2-1。対峙したRWB(88)柳貴博が剥がされ、裏をとられる心配から若干プレスに消極的になったのも理解が出来るのですが、ここはチームコンセプトに正直であっても良かったと思いました。ハーフタイムの修正にはこうした点も含まれていたと思います。

試合全体を通じて清水(14)山原からの横パスは狙えたのではないかと思う。

(2)ストロングの表現と対策の両立

この試合、細かいポイント(北川航也の立ち位置や岡山のミドルシュートの少なさや前線へのボールの当て方など)はもっとたくさんあるのですが、もっと大きな括りの話を考えなくてはならないと思いました。
それが木山ファジの見方についてです。
前項(1)とも関連しますが、清水が比較的岡山対策をやっている跡が見えたのに対して、岡山からはほとんど清水対策というものがみられませんでした。昨日の試合という局面だけをみれば、それが筆者には残念ではあったのですが、それが即ち木山ファジの限界になるのかと言えば、この段階では結論が出ないと考えています。

まず、この試合に対してチームが清水の分析を怠っていたかというとおそらくそうではないと思います。もし怠っていたのであれば、おそらく後半の修正は出来なかったと思います。

もう木山ファジも3年目ですので、そのチームづくりも少しは理解できるようになってきたつもりなのですが、おそらくこの清水戦も、いや清水戦に限らず、まず「自分たちのサッカー」で挑むことから試合をスタートさせています。
ここに木山監督の理想家という一面もあるとは思うのですが、相手の対策や噛み合わせから「自分たちのサッカー」を表現出来ない時も、セカンドプラン、つまり「解答」をすぐに選手たちに示していない時が多いといえます。
これは敢えてそうしているように筆者には見えるのです。

これも有料媒体なので詳しく紹介できないのが歯がゆいのですが、試合後の(4)阿部のインタビューからも選手自らがこの試合でのボールの奪いどころを考えていた跡がみえました。
それを選手全員で即座にピッチ内で共有するのは難しかったと思えるのですが、この(4)阿部のコメントからみても、おそらく木山監督はゲームの進め方、上手くいかない時のセカンドプランといった方法論の大枠はちゃんと選手に示しているのではないかと推測しています。

ただ、その解決案、セカンドプランの当てはめ方という「解答」をすぐに選手に示さない、選手に考える余白を与えているところに監督木山隆之の神髄があるのかなと思いますし、選手の成長を促せる監督として一定の評価を得ている理由なのではないかと筆者は理解しようと思っています。
この指導姿勢をこの大事な試合でも崩さずに出来るというのは、ある意味凄いことなのです。
ブレない指導者と表現しても良いのではないでしょうか。

よく木山監督の評価で、セカンドプランの不足、上手くいかなかった時の引き出し不足といった内容の評価も見かけるのですが、岡山サポの一員としてはもっと深い部分で木山ファジを理解したいと思っています。

攻守において高い戦術理解度を示す(4)阿部
岡山としてこうしたシーンをもっと増やしたい。

3.まとめ

さて、今回お伝えしたレビューの流れを踏まえますと、今後の岡山躍進のカギは木山監督本人にあるともいえます。
試合後コメントではベクトルを自分たちに向けたレベルアップについて語ってくれました。この試合単体で振り返った時、その対策の少なさは不満にも感じましたが、今後、岡山に対する相手の対策強化が予想される中、ピッチ内での解決能力の向上と現実的な勝点獲得の折り合いをどのようにつけていくのか、一サポーターの想像を超えるリーグ展開に期待しながら応援を続けていきたいと思います。

すぐ、山形戦が迫っています。
今、可能な限りのベストメンバーで精いっぱい戦ってほしいです。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

※敬称略

清水(23)北川のサイドに流れる動き
(23)北川の岡山ボランチの背後、ライン間で受ける動きに岡山は苦しめられた。
こうしたゼロトップ的なやり方に弱い面がある。
近いようで遠いゴール
パスを出すことが悪い訳ではないが(27)木村の特性を活かすなら、シュートを狙っても
良かったし、ドリブルでもっと清水守備陣を引きつける手もあったと思う。
近くて遠いゴール②

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)

地元のサッカー好き社会保険労務士日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。





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