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【ファジサポ日誌】107.論点はみちのくにあり~第13節 モンテディオ山形 vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー~

何ともレビューしにくい試合でした。
筆者にも年数回とはいえ、アウェイ遠征の経験がありますので、現地で応援してくださったサポーターさんの心境を想像するに、結果を受け入れにくい試合であったと思います。

一方で今シーズンのチームの特長もよく出ていた試合との感想も持ちました。今回のレビューではこの点を中心にまとめてみたいと思います。

全体的にチームはよく戦ってくれたと思います。
相手の違いもありましたが、前節清水戦で浮き彫りになった課題を改善して得点という結果に結びつけてくれた点はチームを称えたいと思います。
一方でひとつ課題を潰せば、今度は別の課題が浮き彫りになる。その課題の原因を突き詰めると苦しい台所事情に行き着いてしまいます。
もどかしいです。

1.試合結果&メンバー

2度のリードを奪いましたが、2度追いつかれました。第2節いわき戦以来となる、後半AT被弾によるドローとなりました。岡山としては勝点2を失ったといえるでしょう。

J2第13節 山形-岡山 メンバー

岡山に関しては、詳細は避けますが、この試合前の段階で少なくない負傷離脱者がいるという状況です。苦しい台所事情が窺えます。
こうした情報が地元メディアにより伝えられた目的のひとつには、苦しいチームを支える応援を促すねらいもあったと思いますが、現状は却ってサポーターの心情をナーバスなものにしているのかもしれません。
しかし、この18人に関しては戦えるメンバーは揃いました。昨シーズンまでと比較しますと、選手層の厚さに助けられており、積極補強の甲斐もあったと感じますが、出場が続いている選手に蓄積された疲労の影響も心配になってくる頃です。

一方、山形は開幕前には多くのサッカーメディア、識者から優勝候補と目されていましたが、序盤では波に乗れませんでした。
毎シーズン鬼門となる開幕数試合の成績は悪くはなかったものの、なかなか好調を持続できない苦しさが伝わってきます。優勝候補とされる分、対戦相手から厳しいマークを受けている印象は否めません。
渡邉晋監督のインタビューからもナーバスな様子が伝わってきます。

2.レビュー

J2第13節 山形-岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図

苦しい戦力状況ではありますが、岡山としては攻勢の時間は十分につくれており、繰り返しになりますが、その点に関しては前節清水戦での消極的な攻撃姿勢からの反省、改善がみられていたと思います。改めて選手はよくファイトしてくれたと思います。
山形の攻勢はそのきっかけとして風上・風下に立った際に浮き球を上手く使えていたことによるものです。この点についてはホームの利はあったのかもしれません。更に岡山とのシステムの相性の良さもあったと思います。この点については後ほど述べます。
今シーズンの岡山はJ2他クラブと比べましても、自然条件に悩まされているという点は否定できないのですが、この試合に関していえば、ホーム山形程ではなかったにせよ、比較的風は上手く使えていたと思います。
この点からもチームの成長はみてとれました。

(1)岡山の攻勢要因

「時間帯別攻勢・守勢分布図」からもわかるとおり、岡山は序盤から山形陣内に進入、ゴールに迫ります。
ゴールに迫れた要因は大きく2点あったと思います。

① 活性化した2シャドー

ひとつは両ST(セカンドトップ)、つまりシャドーの2人が自由に活発に動けたことです。
清水戦では(19)岩渕弘人、(27)木村太哉の両シャドーに対するマークが厳しく、特に清水の北川航也をはじめとした前線の選手によるプレスバックが彼らを自由にさせませんでした。
今回対戦した山形は前線3人のうち両WGが「ウィング」の名のとおり、攻撃時に最初からサイドに張るポジションを取ることが多く、プレスバックという部分ではそれほど機能していなかった(仕組みとして準備されていない)点は大きかったと思います。(この点はおそらく清水の岡山対策の方がしっかりしていたという認識で良いかと考えます。)
また(19)岩渕のボールサイドへと自由に動くスタイルも岡山の攻撃時に数的有利をつくる好要因になっていたと思います。
CF(9)グレイソンも含めて、元々今シーズンの岡山の前線3枚は流動的に動く点を強みにいたと思いますので、まさに原点回帰出来ていたといえます。
ボックスへの進入、フィニッシュに至る過程にも、単純にシュートを撃つのではなく、ボックスの中でワンタッチで細かいパス交換を行ったり、浮き球とグラウンダーのパスを交互に使ったりと様々な変化をつけている点に好感を持てました。
後半の(9)グレイソンの豪快なバイシクルゴールも、シンプルでしたが(27)木村から一度ファーの(19)岩渕に当てて折り返すことで、山形守備陣の目線を左右に振った効果はあったと思います。

また試合全体を通して(19)岩渕をよく観察すると相手DFやGK(1)後藤雅明の立ち位置を確認しながら、シュートを放っている様子が伝わってきます。
惜しくもゴールは奪えませんでしたが、古傷に配慮しながら足の使い方を工夫している様子(いわき時代のトレーナーさんの投稿により把握)等を踏まえると、シュートの精度を自身の感覚と照らし合わせながら上げていこうとする意図を感じる場面も多くみられます。
現状では決定力不足と言われても仕方ないのですが、(19)岩渕の足の感覚が万全となれば、岡山の前半の得点力は大きく向上する可能性を秘めています。

② 優勢であった左サイド

そして岡山の攻撃が上手くいった要因の2点目は、左サイドでの優勢でした。この日の山形のRSBは本来CBの(83)菊地脩太でした。清水から移籍してきたばかりで今シーズン初出場、岡山WB(17)末吉塁とはやはり差が出ます。左サイド、タッチライン際を突破した(17)末吉は終始山形ボックス脇へと進出しました。この(17)末吉に前述した(19)岩渕やボランチの(6)輪笠祐士や(24)藤田息吹がサポート出来た点も(17)末吉に多くの自由を与えていました。この点も前節の清水は潰しに来ていましたので、山形には申し訳ない書き方にはなりますが、却って清水の守備のソツの無さも強調されたような気がしました。

(2)表裏一体な岡山のサッカー

(1)で述べた岡山の「良かった点」は裏返すと岡山の弱点も表しています。
今シーズンのここまでの岡山のサッカーはこの「表裏一体感」が非常に強いと筆者は感じています。
第13節終了時点での岡山の総得点16は6以内のチームの中では5番目、4位以上は全てのチームが既に20得点以上をマークしていることからも、フォーカスすべきは得点力の強化にあると考えます。
そしてデータを取り出すまでもなく、前半の得点不足がチーム全体の得点力不足(高いレベルでの)に直結しているといえます。

ちなみに筆者作成の「時間帯別攻勢・守勢分布図」の1~13節における前半の攻勢時間帯の割合(赤色と桃色の時間帯)は全体の45.4%にわたります。半分の50%には至っていませんが、岡山も前半に相手陣内へ有効な進入を果たせているといえるのです。よってこの前半での得点力(決定力)を強化出来るか否かが、今後の上位進出、昇格レースを維持するための必須条件になってきます。
筆者は(19)岩渕に関しては明るい兆しを感じているのですが、周囲を活かすタイプである(9)グレイソンのまだまだ秘めているであろう得点能力、そしてここまでリーグ戦1得点に止まっている(27)木村の奮起に期待すると共に、この山形戦で2点目を奪い得点量産体勢に入った(10)田中雄大のスタメン起用なども視野に入れる必要があると考えます。
それが難しいようであれば「獲れるシャドー」の補強は必須です。

こうした前半の得点力強化が身を結べば、「多少なりとも」後半ATに手を組んで祈らなくてはならない試合は減るのではないでしょうか。

「多少なりとも」と書いたのにも理由があります。今シーズンの岡山の攻撃は本来表裏一体なのです。得点を獲れば、その分獲られるリスクも秘めており、最終的に終盤まで1点差を争う展開になる可能性も高いからです。
キャンプ中のトレーニングマッチでも得点が多い反面、失点もそれなりにしていたと思います。

項目(1)では左サイド(17)末吉の躍動について触れましたが、今シーズンの岡山の攻撃の強みが両WBの攻撃関与です。よってRWB(88)柳貴博も含めて高い位置を取る場面も多いのですが、これが裏目に出たのが山形の同点シーンであったといえます。58分CB(18)田上大地のO・Gに繋がったシーンを振り返ります。

58分 山形の同点ゴール

端的な図にしてみました。
岡山自陣(88)柳(貴)からのスローインが(27)木村→(6)輪笠と繋がったものの流れて、山形CB(4)西村彗祐に渡った場面からです。
映像では確認できないのですが、おそらくこの時(88)柳(貴)は高い位置をキープしていると思われます。そうなると岡山3CBの脇にはスペースが出来ます。そして山形のWGは元々外に張っていますので、彼らには広いプレースペースが与えられます。
そこで、山形(4)西村はおそらく風下でボールをコントロールしやすいという理由もあり、シンプルにLWG(14)坂本亘基へロングボールを供給します。
この3CB脇にボールを出された際に、今シーズンの岡山はサイドのCBが積極的に迎撃するのです。この場面ではRCB(4)阿部海大が(14)坂本につきます。そして(4)阿部が出た後のスペースにはCHの(24)藤田(息)がカバーするという仕組みなのですが、この時に山形OMF(25)國分伸太郎がボックス内に進入してきますので、(24)藤田は(25)國分へのマイナスのクロスを警戒するのです。これにより(4)阿部の背後にはゴール手前までスペースが出来てしまいます。(4)阿部を剥がした(14)坂本は難なくゴール前にクロスを供給、このクロスに(18)田上がステップを合わすことが出来ずO・Gとなりました。
非常にシンプルな仕組みで決められてしまったという点はあるとはいえ、岡山の今シーズンの守備の弱点を突かれたともいえます。
WBが攻撃的に高い位置をとればとる程、自陣CB脇のスペースを使われる可能性が高くなり、このスペースで迎撃するCBが1対1で勝てなくなると、このように一気にピンチになる可能性が高くなるのです。

リーグ序盤戦の岡山はこの1対1を高い確率で制していたと思いますが、このシーンからは(4)阿部やO・Gをした(18)田上の疲れも隠せないものになっていると感じました。
ちなみに山形が最終ラインで保持してから少々時間があったにも関わらずWBの(88)柳(貴)が最終ラインまで戻っていなかった理由は、おそらく中盤のプレスに加わる意図があったのではないかと推測します。
山形のビルドアップを警戒したのではないでしょうか?

一方、岡山左サイドも山形RWG(42)イサカ・ゼインに度々進入されていましたが、(17)末吉の驚異の運動量とRCB(15)本山遥の機動力によって全体的には対応出来ていたと思います。

筆者としてはこの現象が心配というよりは、元来今シーズンの岡山のサッカーはこのような失点を許容しなければならない仕組みであったことを強調したいと思います。攻撃的な布陣を敷くことによる守備のリスクを驚異的な個の強さでカバーしていたのが、序盤戦の失点の少なさに繋がっていたと思うのです。

そして、その個の強さを生み出していたのが、フィジカルの強化であったのかもしれません。その結果、負傷者が続出してしまっているのであれば、何とも皮肉な状況といえます。この点はあくまでも憶測に過ぎません。

そこで最初の論点に戻るのですが、やはりフォーカスすべきは前半の決定機逸の改善ということになるのです。つまり1-0で勝つサッカーを否定しませんが、勝点を増やすには3-2で勝つ攻撃力を磨く、攻撃的な補強を行った方が良いという考え方です。

(3)不可解な?AT被弾

それではATの同点被弾についても許容できるかというと、わからないというのが筆者の正直な感想です。
皆さま既にご指摘されていますように、クロスに寄せられていないですし、ゴール前で跳ね返す人員も揃っていませんでした。
誰が寄せるべきであったのか?という点は犯人探しのようになるので触れません。昨シーズンのちょうどこの時期はCB(5)柳育崇がずっと叩かれていました。ここは異論もあるところかと思いますが、それが彼のプレーにプラスになったかというと、筆者は今でもそうは思っていません(推しゆえの贔屓はあります)。

ATに入る直前の交代により(4)阿部がRWBに入った配置変更については気になりました。通常、後ろで跳ね返すのであれば(4)阿部は最終ラインに残すはずです。
真相はわかりませんが、仮説をいくつか考えてみました。

ひとつは(88)柳(貴)の状態です。
ひょっとしたら前節に怪我をしていて限界が近づいていた。
怪我はしていないにせよ、交代直前に足を攣らせていたことから限界のサインがベンチに出ていた。
また(88)柳(貴)にボックス手前でファールを犯すマイナスイメージが木山監督の中にあったのかもしれません。
理由がいずれにしましても(88)柳(貴)を交代させる必要はあった。
これまでであれば(17)末吉を右に回して、左に新たにWBを入れるところが(27)木村は交代済で代わりに入れられる選手がいなかったということかもしれません。
それであれば、(15)本山を右に回すという手もあったように思いますが、これはやはり(42)イサカが怖くて配置変更が出来なかったのかもしれません。起動力がある(15)本山は左に残しておきたかったのかもしれません。
最後、本職(16)河野という手ですが、守備重視の交代で(16)河野を積極的に選択するのかということです。

結局は(25)吉尾虹樹も含めて、左サイド(が出来る人)に怪我人が多い事が響いたと感じました。木山監督も難しい判断を迫られていたと思います。

3.まとめ


以上、なかなかしんどい山形戦を振り返りましたが、清水戦からの攻撃の改善がみられた点については、木山監督や選手たちは中4日のアウェイ戦にも関わらず有言実行してくれました。しんどいながらよく戦っていると思いました。
ですので、筆者もポジティブな気持ちを維持するという点でチームと一緒に戦いたいと思います。
徳島戦後、選手たちに心から労いの言葉をかけられるよう努力を続けていきたいです。

今回もお読みいただき、ありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)

地元のサッカー好き社会保険労務士日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。




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