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【ファジサポ日誌】74.肉を切らせて骨を断つ~第36節 ファジアーノ岡山vsジュビロ磐田~

山形がドロー、長崎が大敗、千葉は6連勝も群馬は敗戦。
プレーオフ圏内を争うライバルが比較的理想的な形で勝ち点を積み上げられなかった土曜日を受けて、日曜日のデーゲーム、ファジアーノ岡山にとってこのジュビロ磐田戦はますます落とせない試合になりました。

一方、3位ジュビロ磐田もJ1自動昇格圏再突入のためには落とせない1戦でしたので、決して簡単な試合にはならないという緊張感を個人的には持っていました。

前節のレビューの最後で、このチームにはサポーターはもちろん、街の後押しが必要と述べましたが、高校生無料招待デーとなったこの日、地元高校生が開発商品の販売や吹奏楽演奏、そしてダンスパフォーマンスなどでCスタを盛り上げてくれました。

また、前回のホームゲーム仙台戦で配布された桃色ユニを着用されている観客も多くみられ、いわゆる「ご新規さん」がリピートしてくださっている様子も窺い知れました。

満員とまではいきませんでしたが、観衆は1万人を超え、地元地上波中継も実施された今節、チームは対戦相手ジュビロ磐田の実力を目の当たりにしながらも「自分たちのサッカー」を貫き、J1昇格戦線に生き残ることができました。

振り返ります。

試合前、ダンスパフォーマンスを披露してくれた高校生たちが
スタジアムの雰囲気を盛り上げる。
ベストメンバーが揃う

1.試合結果&スタートメンバー

J2第36節 岡山vs磐田 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

開幕での対戦時とは異なり、磐田の「巧さ」「強さ」「速さ」を見せつけられた序盤に先制を許し、その後、前半途中まではなかなか岡山はマイボールを繋げず苦戦しました。

しかし、30分過ぎに磐田が守備ブロックを敷き始めた影響で、岡山もボールを持てるようになり、岡山の型のひとつである左サイドからの崩しで同点に追いつきます。この一連の流れがこの試合の大きなポイントのひとつでした。

そして、後半は60分頃から磐田攻勢の時間帯が続きますが、これは57分のFW(99)ルカオ投入後の岡山の戦い方が影響しています。苦しい時間帯であったことは間違いないのですが、実は岡山の意図した戦い方でもあり、それが故に勝ち越しゴールを奪えたともいえます。この点についても後ほど触れます。

いずれにしましても今シーズン初の逆転勝ちを飾った点は、プレーオフで勝ち切らなければならないシチュエーションを想定しましても、チームにとって大きな成功体験となるでしょう。

J2第36節 岡山vs磐田 スタートメンバー

続いてメンバーです。
事前の予想もありましたが、岡山に山形戦の欠場メンバーが戻ってきました。ベンチも含めてベストメンバーといえるでしょう。戻ってきたメンバーのコンディションがどの程度回復していたのかがポイントでした。

磐田も最近定着している4-2-3-1ですが、トップ下に10試合ぶりのスタメンとなった(10)山田大記が入ってきました。ベンチにはレジェンドMF(50)遠藤保仁や開幕戦で2ゴールを決められた現役高校生FW(42)後藤啓介も控えます。

磐田は今シーズン補強禁止の処分を受けているのですが、ルヴァンカップも含めて登録メンバーをほぼフルに起用。現在の自動昇格圏をねらう位置に付けるマネジメントは見事としか言いようがありません。

2.レビュー

(1)縦に速い~磐田の攻撃~

事前に磐田の試合を何試合か見ましたが、前線のCF(18)ジャーメイン良をターゲットにした縦に速い攻撃を指向しているように見えました。

これには先ほど述べました磐田のチーム事情が影響していると考えます。
補強禁止により登録選手の多くを戦力化する必要があり、その為に複雑な戦術よりもシンプルな戦術を用いることで、戦術浸透をスムーズなものにしているのではないかと筆者はみています。
またJ1で戦っていた昨シーズンの磐田には攻撃面、特にボックスへの配球に課題があったと感じています。この点の改善として、得点に直結しやすいボール運びを意識しているのではないかと思いました。

戦術そのものはシンプルながらも、縦へのパススピード、走り込むスピード、縦パスを受ける強さ、そして各プレーの正確性といった要素が詰まった磐田のショートカウンターからの先制点でした。

岡山の各プレーヤーは全体的に攻撃局面からよく戻って対応していたと思いますが、(18)ジャーメインのポストプレー、そして(10)山田の縦へのランニングに引きつけられてしまいました。岡山の悔やまれる点はRIH(44)仙波大志やRWB(17)末吉塁の戻りが遅れたことです。(岡山側から見て)ボックス右のスペースへLSB(4)松原后に走り込まれてしまいました。

この時点で一部のファジサポさんは気づかれたかもしれません。
岡山には今シーズン逆転勝利がなかったのです。絶対に落とせない一戦においていきなり大きなビハインドを負ってしまった。筆者にはそのショックは少なからずありました。

この先制点からその後20分ほど磐田ペースが続くのですが、岡山と磐田の違いが何なのか?を考えていました。

現地で観戦していて感じたのは、出足の鋭さの違いです。岡山も出足が鈍い訳ではないのですが、磐田と比べると感覚的に「半歩のタイミング」で遅れている感じがしました。もちろんそれだけが原因ではないのですが、この半歩の遅れが、セカンドボールを回収できなかったことによる序盤の岡山の苦戦に繋がっていた気がします。

また、失点シーンもそうでしたが、岡山の左サイド、これまで好連携をみせていたLCB(43)鈴木喜丈、LWB(42)高橋諒、そしてLIH(41)田部井涼、また彼らをサポートするCF(48)坂本一彩らの呼吸が合わずマイボールをロストするシーンも目立ちました。
これは少なからず山形戦欠場選手たちの「病み明け」の影響もあったのかもしれません。

ところが、このままの展開が続く訳でもない。これがサッカーの面白さですね。(最近、こんなことばかり書いているような気がします。)

磐田ジャーメインに競り勝つ柳

(2)守備ブロックを崩す~岡山の同点弾~

30分ゴール正面(41)田部井のFKからの流れでRCB(15)本山遥がシュート、この時間帯から明らかに磐田の各選手のセカンドボールへの反応が鈍ります。
各選手からも明らかにしんどそうな表情がみてとれました。

この試合の前後のSNS等をチェックしていますと、磐田が細かく岡山をスカウティングしていた様子がみてとれました。当然、岡山に今シーズン逆転勝ちがないことも把握していたと思われます。
ということは、想像ですが、磐田は先制点を奪うために序盤から飛ばしていたとも考えられるのです。そして、そのねらいどおりに先制に成功したのですが、9月とはいえ30℃を超える気温下、時間的にキツイ陽射しが降り注ぐデーゲームとあって、想定より早く選手に疲れが出てしまったのかもしれません。

そこで磐田は32分ぐらいから4-4-2の守備ブロックを敷くのですが、この守備ブロックを岡山は今シーズン継続して取り組んでいた「型」により崩すのです。

仙台戦や山形戦でのレビューでも守備ブロックについては触れましたが、守備ブロックはただ敷くだけでは意味がなく、ボールの奪い所の考え方を深めていかないと失点のリスクは却って高まってしまう。最近のJ2全体を観ていて筆者はこのように感じています。

岡山にとっては、この磐田の変化が常日頃岡山が標榜している「相手コートでのサッカー」を実行する大きな転機となりました。

この岡山の同点ゴールのシーンを、岡山が「右でつくる」場面、「左を突破した場面」に分けて考えてみます。

J2第36節 岡山vs磐田 36分のシーン①

まず右でつくる場面です。
左の(42)高橋から(5)柳に戻されたボールを(15)本山が持ち運びます。磐田(18)ジャーメインが(5)柳にプレッシャーを掛けてましたので、このタイミングでは磐田の守備ブロックは完成していません。
よって磐田2列目の脇、(33)ドゥドゥの横のスペース、右に張った(17)末吉へボールを出されます。上がっていた(44)仙波が裏を狙いますが、磐田(4)松原がついていき、また(33)ドゥドゥが(17)末吉にプレッシャーをかけたことから、岡山はいったんボールを下げます。

ブロック自体は完成していないのですが、磐田の最終ライン、ボックスには絶対に入れさせないというねらいがみてとれます。
では岡山がボールを戻した後をみます。

J2第36節 岡山vs磐田 36分のシーン②

まず注目は岡山の陣形です。右サイドで時間をつくっている間にCB(5)柳育崇を扇の頂点にFP全員が磐田コートに入っているのです。
この時点でまず岡山が標榜してきた「相手コート」での戦いが始まっているのです。
左に展開した後の背番号40番台の選手たちの見事な連携は映像で振り返っていただきたいのですが、注目していただきたいのは磐田RSH(14)松本昌也の動きです。終始(43)鈴木のボックスへの侵入についていくのですが、常に後手に回っています。
これは岡山が右サイドで一度つくっていたことにより、磐田の陣形全体が右サイドに寄せられていたからなのです。

磐田としては、右サイドと同様に第2列の段階で(43)鈴木を抑えて、ボックス内への侵入を防ぎたかったところでしたが、岡山が右でつくって戻したことにより、想定していた対応が出来なかったといえます。

このような岡山の攻撃を可能にしているのが、両WBの高いポジション取りで、実はこの形こそが今シーズン途中から岡山が取り組んできた「相手コートでの戦い」のひとつの形なのです。(筆者は勝手に「岡山スタイル」と呼んでいます。)

かつての岡山に相手が全員自陣に引いている状況をシステマティックに崩したゴールがあったでしょうか?
このゴールの持つ意味は、この磐田戦の勝利のみではなく、現在の岡山のサッカーの完成をも意味するのではないかと筆者は捉えています。

43鈴木の勇気ある前進からの同点ゴール
ファジに加入し攻撃意欲は高まっているという

(3)ルカオ投入後の岡山を考える

しかしながら、(2)のような陣形で90分ずっとサッカーを続けられるほどJ2は甘くありません。同点ゴールのシーンも前線で一度ボールを失うと(5)柳の両脇には広大なスペースが広がっています。もちろん「ネガトラ」全開で全力で戻る訳ですが、体力的にそれでは90分はもちません。
そこで岡山の第2のスタイル、(99)ルカオ投入後の「型」が準備されているのです。

前の項目もそうなのですが、この項目も実は先週別のファジサポさんの記事から学ばせていただいた内容を参考に自分なりに解釈、自分なりの言葉にしてまとめています。

この試合では57分に(99)ルカオが投入されましたが、この交代に伴い岡山の陣形に意図的な変化が生じます。
DAZNでは56分30秒以降の映像がわかりやすいのですが、それまでと比較して両WBの位置が最終ラインまで下がっています。
(99)ルカオ投入によって、岡山は意図的に5バックに変化しているのです。

J2第36節 岡山vs磐田 56分30秒過ぎの陣形(一部選手を省略)

つまり前半よりもリスクを低減した陣形に移行した訳です。
そして両WBが張っていたサイドの高い位置に(99)ルカオが起点をつくり、縦横無尽に走り回る、チャンスになると後方からWBも含めて飛び出していきます。後ろ向きに走るよりは前向きの方が走りやすいですからね。

一方でこの陣形になりますと相手に押し込まれる時間も長くなります。
最初にお示ししています「時間帯別攻勢・守勢分布図」で(99)ルカオ投入後の時間が水色(守勢)に変化するのはこのためです。

ここで大事なのは、このやり方は岡山が意図したものであるということです。よって岡山の5-3-2(5-4-1)の守備ブロックには明確な防波堤が設定されています。それが(5)柳を中心とした最終ラインといえます。岡山の守り方は最終ラインに人数をかける以上、必ずシュートコースを消す、ブロックにいく、競り負けないといったことが徹底されています。
応援する側としてはヒヤヒヤする、スリリングな場面の連続なのですが、選手、現場はある程度許容している守り方であると思います。

この試合に関していえば、これまでどおり(17)末吉の粘り強い守備が光りました。
磐田(4)松原とのマッチアップは優勢、これをみて磐田はMF(31)古川陽介を(17)末吉に当て、(4)松原をワンレーン内に入れます。
岡山としては磐田が(17)末吉との勝負にこだわってくれたのは助かった面であったといえます。磐田は(4)松原やRSB(17)鈴木雄斗の高い決定力を活かしたかったのかもしれません。その為に左サイドでの崩しにこだわった可能性はあります。

磐田31古川に渋太く喰らいつく末吉
もうファジに欠かせない選手に

91分、(5)柳がゴールライン上のボールを掻き出したシーンがありましたが、あの場面も(15)本山が滑り込んで(18)ジャーメインに完全な形で撃たせない、(1)堀田がちゃんとニアを切っているからこそ、予測が出来たのだと思います。最終局面で各選手がやるべき事をやり切る、それが徹底できているからこそ可能な守り方ともいえます。

Twitterにも載せましたが、
柳のスーパークリア

(99)ルカオ、更にはMF(19)木村太哉投入以降の戦い方は岡山が伝統的に積みげてきたクラシカルなスタイルも連想させるのですが、この戦い方においても得点を奪えるというのが「岡山スタイル」の強みです。

分かっていても止められない
それが今のルカオ

(4)積み上げてきたセットプレー~柳の追加点~

(99)ルカオや(19)木村がサイドを推進し、数多くのCKを獲得する。こうなれば岡山得意のセットプレーが威力を発揮します。
この(5)柳のゴールは良い体勢で強いシュートを放ったことにより生まれたものですが、(15)本山が磐田CB(36)R.グラッサをブロックした動きが効いていました。これは今までも見てきた形でした。

今シーズンはなかなかセットプレーが決まらない中、(5)柳を囮にする形や、(5)柳に当てたこぼれ球を狙う形など様々なスタイルを模索していた努力が実を結んでいた最近でしたが、1周して本来の形が戻ってきたような気がします。

岡山の選手がいわゆるゴールに向かって縦に並ぶ形に、昨シーズンのホーム金沢戦の(15)本山や(5)柳のゴールを思い出した方もいらっしゃるかもしれません。

勝ち越しゴールのセットプレー
トレイン型の並び
あまり上手く撮れませんでしたが、
柳の強烈なヘディングシュートが決まる
キャプテンの跳躍

3.まとめ

以上、ホームジュビロ磐田戦を振り返りましたが、前回の開幕戦での対戦と比べますと、現在の順位が示すとおり、磐田の状態は当時よりも格段に上がっていました。

そこに岡山が積み上げてきた、ここで言う「積み上げ」には今シーズン途中からの繋ぐサッカーのみならず、昨シーズンのパワー全開のサッカー、更には岡山が長年積み上げてきた泥臭いサッカーと広い意味を指しますが、これらの「積み上げ」によるねらいをストレートに表現したサッカーが磐田に通用した意義は大きく、筆者はこの試合にいったん「岡山スタイル」の完成をみた気がします。

この岡山スタイルは、相手に「肉を切らせて」相手の「骨を断つ」サッカーであると思います。このスタイルを遂行できるチームはJ2広しといえどもそうはありませんし、今後も勝ち続けなければならない岡山にとっては最適なスタイルともいえます。
このスタイルに誇りと自信を持ちながら、チームと共に残り6試合、いや8試合戦い続けたいものです。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。




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