見出し画像

黒の魔法使いと銀色の少女。

「おじさーん!」
「メフィラスのおじちゃーん!!」
金色に輝く草むらをかき分けるように、エンヤとミーヤが手を振りながら
駆けてくる。
「やぁ、エンヤ、ミーア」
メフィラスめがけて、2人は、はしゃいで飛びついた。
「きゃあ!」
「これはこれは・・・2人同時の攻撃は私でも勝てないよ」
あのメフィラスが困ったように笑っている。
「だって、おじさん、あまり来てくれないんだもん」
「仕事があるからね。二人とも元気だったかい?」
「元気だよ!」「ミーアも!!」
「メフィラスさん」
子供達のあとから、リピアがやってきた。
細いシルエット。赤いラインと銀の体皮。
鋭角な口元。
あの頃と変わらない。
いや、もう彼はいないのだったな。今、ここにいるのは違うリピア。

『メフィラス』

頑固で無表情。攻撃対象には非情。ためらいなどない。
そのくせ、好きになったら、一途というか・・・。
自らの命すら賭す程の思い、あの天体最終兵器へと突っ込んでいく姿。
あの赤いボディラインは、その熱さを物語っている気がする。
全身が銀色で、顔も年寄り臭かった時と同一人物とは思えない。
人類と同化して、本来の姿になったのかもしれない、彼は。

「やぁ、リピア。身体の具合はいかがですか?」
「ここのところ、調子がよくて。ゾーフィも仕事の合間を縫って、そばにいてくれるので・・・」
太陽を背に、動かない口元が微笑みを浮かべたように見える。
「それはよかった。ですが、あまり無理はなさらないように」
「ありがとうございます」

子供達に告げているのは、ロジンに帰る途中、事故に遭い、リピアが重傷を負った事。そして、記憶を失ったという事だ。
それ以外は話してはいない。だが、
「おじちゃんは魔法使いでしょ?だって、おかあさん、あのままだったら
帰って来れなかったもの」
この銀色の少女は、何かを感じている?
「何がだい?」
メフィラスの黄色の点滅がチッと光る。
「ミーアは、たまに不思議なことを言うんだ」
「だって、わかるんだもん」
「何言ってるんだか、わかんないよ、ミーア」
事情を飲み込めないエンヤは、ちょっと苛つき、膨れる。
「んーっとね」とミーアは言葉をつなぎたいけれど、うまく言えない。
「いいの!ミーアにはわかってるから!!」
「おとうさんとおじちゃんが、おかあさんを連れてきたの!
ここにいるのは、そうなんだもん!!」
ミーアを見つめるメフィラスの目の黄色の点滅が訝しそうに光る。
この子は透視能力がある。
しかも、かなりの距離なのに、あの時の出来事を感じ取っている。
兄にはない、特殊な能力。
こんな小さな子が。この子は一体・・・。
「そうだよ、ミーア」
半分泣きそうになっている、ミーアを抱き上げ、メフィラスは笑う。
「だから、おかあさんは此処にいるんだよ」
「うん!」
泣きべそをかいていたのに、もう笑っている。
「ミーア」
リピアが両手を差し出す。
「おかあさん」
ミーアはリピアに抱きつく。
「おかあさん、おかあさん、大好き」
「おかあさんもよ」
リピアの手が優しく、ミーアの頭を何度も撫でる。
「僕だって、おかあさんの事、大好きだから!」
エンヤも、リピアの腰にしがみつく。
「・・・ええ」
リピアは屈んで、子供達を抱きしめる。
胸元に鈍く揺れるドッグ・タグ。
遠き向こうから、聞こえるのは、何。

「遙か遠い星の故郷」第三話です。
振り返ったら「黒い客人。共有する秘め事」から4ヶ月経ってました。
ちまちまと下書きだけは書いていたのですが。
シン・ウルトラマンが公開されて2年。
ウルトラマンであり、神永新二であったリピアーに、もう一度
会いたいという気持ちが、今もくすぶっています。
でも、もう、どこのウルトラマンの世界にも、リピアーはいない。
ウルトラマンと呼ばれた外星人リピアーは、地球のどこにもいないと
思い知らされるだけなんですけどね。
ここでアップしている話が、どこへ行こうとしてるのか
書いてる本人もわかりません。
でも、奥の細道のように、道なき道を歩む話にしたいです。















この記事が参加している募集

沼落ちnote

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?