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不便を笑って話す

  先日、NHK「病院ラジオ」を見ました。サンドイッチマンが進行役となり、病院に出かけて一日ラジオをやるというものです。ゲストは患者のみなさん。多くが重病の人たち。今回は九州がんセンターでした。
 患者さんの年代は20代~40代。疾患は大腸がん、腎臓がん、リンパ性白血病などです。前回もどこかのがんセンターで、その時はほぼ全員が白血病でした。
 
 サンドウィッチマンの2人が尋ねます。
「ガンと言われた時、どんな気持ちでした?」
「家族にはどのように伝えられたのですか?」
「○○の手術をしようとどうやって決断されたんですか?」
 質問にひとつひとつていねいにみなさんが話します。
 
 その様子にある不思議が湧きてきました。かつての私ならスルーしてしまったのですが、とても印象に残ったシーンがありました。
 
「あれっ?みなさん、笑って話しているぞ・・・」
 
 そうなんです、みなさん、とくに深刻ぶらず(とっても深刻なエピソードばかりですが)に笑いもまじえて、その時の気持ちや自分がとってしまった行動や家族とのやりとり、泣いたこと、落ち込んだことを話されるんですね。
それがとても妙に明るい声が印象的なんです。
泣いているのはラジオから流れる声を聴いている家族のみなさんです。
 
 自分が白血病になる前なら、「乗り越えたから話せるんだろうな」「サンドウィッチマンや家族に気をつかってわざと明るく話しているんだろうな」と解釈したことでしょう。
 
 しかし、いま、自分が当事者となって思うことは、そのどれでもないこと。けっして乗り越えているわけではない。いつ再発するかわからない。つねに不安のなかにいるわけなので、コトはそう単純じゃない・・・正直、笑えるようなものでもない。
 

この1週間、第4クール目の入院でした。


 ではなぜわざと明るく話しているのか。もちろん、そういう人もいると思います。気を使わせたくないというより、ガンになった自分に負けたくないファイティングポーズの人もいるでしょう。
いやいや、それもあるでしょうけど、そんなにワルイ体験でもないんじゃないか、人生を全否定するほどの経験でもないかも?、とちょっとポジティブな思いの人がいるんじゃないかと思います。
 
 とても登れないと思っていた山を登り切った後に、その時のハプニングややらかし、弱音、絶望などを、翌日話すような気分でしょうか。つらかったけど、終わってみるとどこか晴々としている気分っていうのでしょうか。
 もちろんそんな単純じゃないですけどね。でも、そう話したい、そう話せる自分でいたい、という気持ちはあります。
 そんな気持ちが語り口に笑いやほほ笑みがまじるんでしょうね。
 
 よく、これを強いとかすごいとかと思われがちなのですが、そこはちょっと違うかな、と。そういうことではなくて・・・もちろん、つらい吐き気や痛み、だるさなどいつ終わるか、さっぱりメドが立たない中なので、ずっと孤独なものです。すごく、さみしい。でもなってしまった病気なのでもう後には引けない。まずはとにかく生きるためには前を向いて治療に堪えなくてはいけない。だからとりあえず前を向いて生きるしかない。
 


放射性物質を連想させるほどのインパクト


ひとつひとつの抗がん剤のクールをクリアーすることだけを考えて歩んでいたら、長~い時間が経過したあとに、気がついたら闇から陽のあたる場所に出られたという解放感・・・それを実感した時のこぼれるような感情なのでしょうか。
 
こう考えたらどうでしょう。
 
たしかに通院したり入院したり、なにかと不便です。
自分も人生、そんな予定でもなかったので不運だな、と思ったりします。
でも「不幸」とは限らない・・・それは、白血病となってから、周囲の気づかいややさしさにたくさん出会えているからです。
当事者となって人生と真摯に向き合えているからです。
なっていなかったら・・・たぶん、イケイケのままで無茶して、家族や周囲に老害を振りまいていたかもしれません。
 
不便や不運だったら自虐的にネタにして笑えますよね。
それと、笑いはストレスケアに効果があると聞きます。
笑いはがんの進行の抑制効果さえ期待できる、という研究成果を近畿大学の医学部が吉本新喜劇と協力して論文にさえしています。
じゃあ、どうしたら笑えるか?
おかしくないのに笑えるか?
安心して下さい、笑えるんですよ。
 
私は20代に演劇の世界にいました。そこでやる演技のエチュード(練習)のなかに「感情の発露」というのがあります。
こんな風です。
先生からいきなり「はい、怒って!」「次は泣いて!」「ムキになって!」「恥ずかしがって!」と指示が飛びます。瞬間、エッと戸惑いますが、意外とできちゃうんですね、これが。もう矢継ぎ早やです。
さすがに指示されるワードはネガティブばかりなので、心はどんどんすさんでいきます。まあ、ワザとなんですけどね・・・(^^;)。
 
終わりに近づくと「はい、笑って!・・・もっと笑って!・・・お腹の底から笑って!」と促されます。するとね、どんどんみんなの笑い声が大きくなるんですよ。とくにお笑い芸人の一発芸を見たわけでもないのに、ね。
そして、なんと気持ちまで楽しくなってくるんです。
 
これですね・・・
そりゃ、クヨクヨとつらくなることもあります。
悲しくてなんか情けなくて大泣きすることも大切です。
でも・・・
笑うことで気持ちが明るくなるなら、笑ってみるに越したことはありません。
なにより心がな~んかあったかくなってきて、ケアされます。
 

本日退院!お気に入りのタイ料理屋さんへ、いざ!


気がつくと、心の免疫力をしなやかに強くしてくれている。
そんな思いになっている自分に出会えます。
 
※一人笑いははた目にはちょっと不気味感があるので(^^;)、できれば人がいない環境でせいぜい数分程度がよいかとアドバイスしておきますね。
 
 
 


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