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雨のぬくもり【RE_PRAY横浜現地感想】

(※横浜公演の記事がなかなか書き上がらなくて、こちらが完成する前に宮城公演の感想を公開してしまいました。
でも、横浜公演の感想もせっかく書いたので公開させてください。
時系列が前後してしまいすみません!)



2024年2月19日。

ついに迎えたRE_PRAYツアーの最終日(※この日時点で)、横浜のぴあアリーナММに行って参りました。

チケットを取るのも大変だったけれど、この日を迎えるまで個人的に乗り越えなければならない壁がたくさんありすぎて精神的に疲弊しきっていたので、ぴあアリーナММの入口に続く長い階段を目の前にした時軽く涙が出そうでした。


やっとここまできた。
現実世界に立ちはだかるあるゆる障壁を避け、高い壁をなんとか乗り越えてようやく手にしたRE_PRAY横浜のチケット。

うまくいったこともうまくいかなかったこともあるし、区区たるものを踏み台にしてきたのかもしれないけれど、
私は私のために努力をしてここに来たのだ。

誰にも譲れない。
私がこの世界のルールだ!とばかりに意気揚々とぴあアリーナの階段を上ったのでした。



今回のお席はショートサイドの二階席。
リンク横に設置してあるお立ち台がよく見える神席でした。
公演前から目の前のお立ち台で演技する羽生選手の姿を想像してしまい緊張が止まらず、完全に浮き足立っていました。

埼玉公演では2日間ともロング側から見たので、今回念願叶ってショート側から観覧することができて本当に嬉しかったです。

リアル異界送り


私の大好きな「いつか終わる夢」、この日もやっぱり最高でした。
今回はリンクに近い席だったのでプロジェクションマッピングがあまり見えなかったのですが、その代わりに羽生選手のスケートを存分に味わうことができました。
ぴあアリーナの音響がとても素晴らしいので、音楽と羽生選手のスケートの融合を深く堪能することができました。
身体に感じる程重低音がよく響き、その音にピタリと合った羽生選手の演技は本当に極上すぎて…。
自然と涙が溢れました。

深く腰を落としてなめらかに滑っていく羽生選手のスケートは何も重力を感じさせませんでした。

無重力の世界の中で、哀しみをも慈しむかのように舞う演技。

やはり、FF10のキャラクターである召喚士ユウナが水上で舞う動きとよく似ているなぁと思いました。

羽生選手の舞いが人間離れしている様(さま)に見とれているうちに魂がどこかへ持っていかれるようでした。

まるで私の魂があの世に導かれているような。リアル「異界送り」を体験したひと刻でした。

間近で見たプロジェクションマッピングの映像にも新たな発見がありました。
水流のように渦巻く光の粒の映像が鮮明に描写されており、ひとつひとつの粒がまるで生き物のように蠢いているのを見ました。

あんなに解像度の高い映像を使っていたとは。
今までもそうだったのか、それともぴあアリーナの設備のお陰なのかは分かりませんが、映像が細部まで作り込んであるというのが分かったのも今回の席で得た収穫でした。

鶏と蛇と豚を浴びる



横浜公演の席がお立ち台に近い席だと分かってからずっと期待していた「鶏と蛇と豚」。
その姿を拝める時間が遂にやってきました。

赤い直線のライトを挟むように光の柱が立て続けに出現する中厳かに出てきた羽生選手をほぼ真正面から見た時、
「あぁ、ここで気を失いそう!」
と思いました笑

やっとの思いで掴み取った席なので気を失ってはいけないと自分を奮い立たせながら、氷上の羽生選手を凝視していました。

真っ赤なライトに照らされた羽生選手のご尊顔…


信じられないほど顔が良い。

これ以上何が言えるというのか?
私の語彙力では表現が足りなさすぎる。

羽生選手って、リラックスしてる時や笑顔の時はとても親しみやすい雰囲気だし、失礼ながら「可愛らしい」と感じるようなお顔なのに、氷上で演技している時は凛々しくてかっこいいお顔にガラッと変わるんですよね。
そのギャップにやられてしまいます。


羽生選手がお立ち台に上ってきた時には自分との距離が史上最高に近かったので、目だけはそちらに向けつつも何だか私がここにいてはいけないんじゃないかという謎の遠慮が生まれるという事態に笑

だってもう、圧がすごいんです。

ドラゴンボールの孫悟空が超サイヤ人になった時「ヒュンヒュン」という音とともに身体の回りに黄金のオーラみたいなものを出していると思うのですが、まさにアレです(?)。

羽生選手が超サイヤ人みたいにヒュンヒュン出してるオーラのお蔭で「鶏と蛇と豚」の演技の細かいところまで覚えていません。悔しいです!
チケットを手にしてからあんなに見たすぎて焦がれてたまらなかった羽生選手のせっかくの演技なのに…思いが強ければ強いほど記憶に残しておけないなんて悲しい…。

覚えているうちに頭の中の記憶の欠片を必死に拾い集めて書いておきたいと思います。


お立ち台に立って踊る前に、羽生選手が「フーッ」と息を吐き出していました。

その音が何故か今でも耳に残っています。

映像を通してじゃない、ダイレクトに聴こえてきた羽生選手の「生きている」証みたいな息の音が、私にとっては尊くて忘れたくない音に聴こえたのかもしれません。

それと、足元の火花。
スケート靴を履いた羽生選手の足首に赤いレーザーライトが当たっているために、氷の飛沫が飛ぶ度にまるで火花が散っているように見えたのです。

その視覚効果が「鶏と蛇と豚」の曲調と相まってよりダークな世界観が鮮明に伝わってきました。

氷の上で火花を散らして舞う羽生選手は、世界中の「かっこいい」を全て集めて濃縮させた生命体でした。


今改めて「鶏と蛇と豚」のことを思い出すと、
「見た」というよりは「浴びた」という表現が一番しっくりくるかもしれません。


音楽、演出、羽生選手の存在、スケート…ひとつひとつの込められた熱量、オーラがとても強かった。
細かいことはあまり覚えていない代わりに、そういった感覚的なことはまだ私の身体の中に残っている気がします。

私は客席にいて、
リンクの上のあらゆるエネルギーをひたすら「浴びた」。

これこそが、現地で見ることの醍醐味。
肌で感じる感覚、この感動が忘れられないから、現地鑑賞はやめられないですね。


羽生選手らしい文章



「RE_PRAY」全編に渡って羽生選手自らが綴ったこの物語、ところどころで彼らしい文章だなと感じたところがいくつかあります。

言い回しとか、ひらがなを使うところとか、「」や句読点の使い方などです。

物語の文章はメイン画面に映ることもあれば両側のサブ画面にのみ映ることがあります。

CS放送ではメイン画面しか映っていないために、サブ画面に映った言葉が不明だった箇所がありました。

それを現地で全て見て確認できた中で「羽生選手っぽいな」と思ったところがあります。

「MEGALOVANIA」の手前の映像パート、ゲームの世界で羽生選手が降ってくる障害物を避けながら戦っているシーン。

「もう1度死んでやり直そ」

とあります。

普通「やり直そう」と書くと思うんですが、
ここで「やり直そ」とするところが、普段の羽生選手の口調っぽいのかな?と思いました。

他にも、
2部からの映像パートで羽生選手が神様に問いかけるシーン。

「てか
今 何年?」

「てか」って、すごく口語体ですよね。
小説などを読んでいてもあまり出てこない言葉遣いです。

だからこそ羽生選手の普段の口調を想像させるというか、等身大の青年っぽさが出ていて微笑ましく思います。細かいところなんですが…。
羽生選手「らしさ」を感じさせる文章、とても好きだなぁ。

ノーミスの威力



「RE_PRAY横浜」のハイライトは何と言っても「破滅への使者」だったんじゃないかと思います。


この日の「RE_PRAY横浜」公演を現地で見ていて最初から思っていました。
「今日の羽生選手は調子が良い」と。

最初の「いつか終わる夢」の演技を見ていても、最高にかっこよかった「阿修羅ちゃん」の動きのキレを見ていても、
私のような素人にも分かるくらいの調子の良さでした。


逆に埼玉公演初日と佐賀公演のライビュでは、見ているこちらが少し心配になってしまうほど動きに元気が無いように感じる場面があったんですね。

その日のコンディションもあるでしょうし、元気が無かったからといって感動が無くなる訳ではないのですが、やっぱり心配はしてしまいます。

でも、この横浜公演ではその心配がまるでなかった。

佐賀公演ではあんなにハラハラした気持ちで見ていた六分間練習ですが、
今回は「絶対いける」とファンを安心させてくれるように何回も綺麗なジャンプを決めてくれました。

そして本番、期待通りに「破滅への使者」を見事なノーミスで演じてくれた羽生選手。

終わった瞬間、弾かれるように席を立ってスタオベしました。

「圧巻」という言葉がとてもよく似合う演技でした。

「破滅への使者」はあまりに高難度すぎてノーミスが難しいプログラムだと思います。
でも、ツアー途中で構成を緩めることなく最後の最後まで諦めずに頑張ってくれた成果が、あのノーミスの演技でした。

羽生選手のアスリートとしての矜持をまざまざと見せつけてくれました。

本当にかっこよかった。

この「破滅への使者」の演技は、
競技者時代の名演技たちとも全く引けを取らない熱演だったと思います。


例えばですが、過去の名演技たちを思いつくままに挙げてみます。

まずは、
ソチ、平昌、北京の演技全て。
これらの演技は別格の位置付けです、私にとっては。

オリンピックの演技以外だと、

2012年の伝説のニース「ロミオ&ジュリエット」。
2015年GPF、初の300点超えを達成した「SEIMEI」。
2017年のフィンランドの奇跡「Hope&Legacy」。
2019年の世界選手権「Origin」。
2020年の全日本ノーミスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」「天と地と」。
2021年四大陸選手権での「バラード第一番」。

他にもたくさんの名演技があったと思いますが、私の中でパッと思いつくだけでもこれだけの名演技たちがありました。

この競技者時代の名演技たちの中に、
プロ転向後のプログラムを入れるとすれば

「プロローグ」の「SEIMEI」
「スターズ・オン・アイス」の「オペラ座の怪人」
「GIFT」の「ロンカプ」
そしてこの「RE_PRAY横浜大楽」の「破滅への使者」を加えたいです。
これからもずっと続く羽生選手のスケート人生の中で、語り草になるような演技だったと私は思います。

プロ転向後の演技たちには点数がついていないので、何を名演技と感じたかは人それぞれだと思います。
なので、上に挙げた例はあくまで私個人の意見です。

(※「RE_PRAY宮城」初日の「破滅への使者」も素晴らしいノーミス演技だったそうですね!
現地で見た方は、その日の演技を名演技として選ぶかもしれませんね。)

泣けるところも十人十色



私が今回の「RE_PRAY横浜」で泣けたプログラムは、
「いつか終わる夢Original」
「破滅への使者」
「いつか終わる夢;RE」

です。
(どんだけ「いつか終わる夢」好きなんだろ私)

だけど私のお隣の席にいた方は、
「春よ、来い」
で泣かれてました。

そしてそのまたお隣さんは、
「破滅への使者」
「あの夏へ」
で大号泣されてました。(隣の隣にいる私にまで聴こえてくる程の大号泣)


そこで思ったのは、皆羽生選手が大好きな気持ちは一緒だけれど、それぞれの胸に刺さるプログラムは違うんだということ。

当たり前の話かもしれませんが、すすり泣きの音がプログラム毎に違う場所から聴こえてくるのが興味深くて。

「春よ、来い」で泣いた人。
「あの夏へ」で泣いた人。
他のプログラムで泣いた人。

人それぞれの背景があって色んな想いがあって
ファン一人ひとり違う感性を持っている。

でも心は「羽生選手のファン」ということで一つに繋がっている。

面白いなぁと思います。

単独公演という「羽生選手のファンだけがいる空間」とは、なんて居心地が良くて楽しいんだろう。

…と、しみじみ思いました。

そう思えるのはやっぱり、羽生選手自身からこんな言葉があったからです。

正解が一つではない問いの中で、そして、一度として同じにならない空間とスケートと演出で、見てくださる方、一人一人の中にしか生まれない世界の色を、感じていただければと思います。

https://repray-icestory.jp/

一人一人の中にしか生まれない世界の色。

私と、私の周りの方々はそれぞれ見えている世界の色がそれぞれ違っている。
泣くところも違っている。

でもそれでいいんだ。
自分の感情に蓋をする必要なんてない。


羽生選手の懐の広さ、心の優しさがコメントから伝わってくるから、私達ファンは安心してそれぞれ自分だけの「好き」という感情に向き合えるんだと、そう思います。


幸せと寂しさ


ショーの最後の最後、
adoの「私は最強」が流れる中の幸せな周回時間。

あの時間は、羽生選手とファンの間の距離が一番近くなる感覚がして、とても好きです。

羽生選手はいつもこの曲のワルツ調になるところで少し踊ってくれるのですが
この大楽の日はかなり長めに振りをつけて滑ってくれました。

ツアーが進むにつれて「私は最強」の踊る部分が段々と長くなっていくのが面白くて、見ていて楽しかったです。

体力を使うプログラムたちを一人で何曲も滑って疲労困憊だろうに、いつものように天井席まで丁寧に手を振ってくれていました。

幕が下りる前、
渾身の力を振り絞って
「ありがとうございました!!!」
と生声を届けてくれた羽生選手。

その肉声をしっかりと耳と心に刻みながら、私はどうしても「寂しい」という感情に抗えませんでした。

つい先程まで目の前のリンクにいた羽生選手はもう居なくて、
あんなに幸せが溢れていた空間はもう終わってしまった。

寂しい。

この日のために、色んなことに耐えて
やっとの思いで辿り着いた幸せな時間が終わってしまった。

(※この時はまだ追加公演のお知らせがなかったので、RE_PRAYツアーがこれで終わりだと思うと余計に寂しかったのです。)

すぐには気持ちは切り替えられません。
席から腰をあげるのも億劫でした。

だから、規制退場のアナウンスがありがたかった。
「〇〇から〇〇の席番号の方はご退場ください!」
と言われてしまえば、席を離れざるを得ないから。

自分の意思では立てないという腑抜け状態の私には大変ありがたいシステムだなと思ったのでした。


冷たい雨、でもあたたかい


会場を出たら、雨が降っていました。

傘が役に立たない程の強風に煽られ冷たい雨が容赦なく私を打ちます。
でも、何故かそれが妙に心地よかった。

いつもなら煩わしいとしか思わないのに。
その夜の雨は私の高揚した気持ちを鎮めてくれる恵みの雨でした。


人、人、人の激流に飲まれながら駅へ向かう私。
ふと、「RE_PRAY」の物語の一節が頭に浮かびました。


「冷たくて でも、あたたかい…?」



そうだ。この雨はあたたかい。


まだ、寂しい。切ない気持ちは胸の中に残るけれど、
思い出そう。
あんなにたくさんの幸せを貰ったじゃないか。羽生選手からの祈りを貰ったじゃないか。
冷たい雨にぬくもりを感じるほどに。

そう思ったら、じんわりと心が満たされていきました。


羽生選手のスケートが見られてよかったな。
とっても素敵な時間を過ごしたな。



私の周りにある世界は、
私の気持ち次第で見え方感じ方がまるで違ってくる。

暗い気持ちでいたら晴れていても空に青さを感じないだろうし、
満たされて幸せな気持ちでいたら冷たい雨でさえもあたたかくなるんだ。


私の心を満たしてくれるのはやはり羽生選手のスケートなのだなぁと。
心からそう思いました。

長い人生の中で本当に大切にしたいものはきっとそんなに多くない。
見つからないままただ過ぎてゆく人生もあったかもしれない。

でも私は見つけることができました。
心をあたたかくしてくれる、羽生選手のスケートを。




ありがとう。

素晴らしいアイスショーを見せてくれて本当にありがとう。

羽生選手の祈りは、ちっぽけな私のところにもちゃんと届いていますよ。



そう思いながら歩いていたらやがて駅に着いたので、私は傘を閉じました。

名残惜しく改札を通る私の目に映る世界は、
いつもと少しだけ違う色をしていました。





終わります。

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