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介護をしている全ての人へ#69 ~ 臨界

 この日の日記には、やや正気を失いつつある自分の姿が描かれていた。自分の周囲がみんな自分より幸せに見えてくる……
本当にギリギリだったのかもしれない。良く踏みとどまれたと思う。

2019年3月10日(日) 母の日記

 朝食後、Kちゃん(父の弟・三男)は岐阜に帰っていった。
 そのすぐ後、長男が爆発してしまった。
 夫の「お前たちさえいなければ、もっといい暮らしができた」とひと言。ボケて我侭になった老人の戯言と受け流してくれればよかったのだが……
 夫、自分が言ったことを理解できていない。長男が何を怒っているのかわからない様子。
 普段から、自分のことをあまり言うことがない長男が、言葉にならない叫び声を出して苦しんでいる姿を見るのは胸が痛む。
 いろんな事が一度に押し寄せて、目一杯に張りつめている心が壊れてしまわないよう祈るばかり。
 午後、無言で家を出て夜中まで帰らず。

2019年3月10日(月) 私の日記

 些細なことで正体を失うほど腹をたててしまった。人様に迷惑をかけないように、身の丈に合った幸せより少しだけ小さい幸せを追いかけるように心がけてきたのに、それすら掴むことができずに不幸ばかりが体にまとわりついている気分になった。
 心に余裕がなくなっている。誰かに、不満や怒りをぶつけたら楽になるのかもしれないが、そんな人はいないしそんなことをしてはいけない。街中で通り魔事件を起こすような人の心持が分かったような気分になる。怖くなった。
 生まれ育った街をあてもなくぶらぶらしていたら、何となく心が落ち着いてきた。日本平から見た街は本当にきれいだった。ギリギリで踏みとどまった感じがする。
 母には悪いが、明日の父の再検査は2人で行ってもらうことにした。
 
 
 



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