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ソーシャルワークの価値と倫理について考える-価値葛藤を補助線にして-

先般、価値と倫理について、実践における価値葛藤を材料にして言語化する機会を得たので、こちらでも書き残しておきたいと思います。

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ソーシャルワークの価値と倫理、と言えば、人それぞれ、実践で出会った・得た・書籍等で読んだテキストなどに関連付いて想起されるのではないでしょうか。

私が、いつも思い出すのは、以下、小山隆教授の言葉です。平易であり、学生時分でも理解できたような気になりましたし、現場に出てからは、その平易さに恐れ慄いたことを思い出します。

ソーシャルワーカーの価値というたら、ソーシャルワーカーであるあなたは何を大切にするのか、何を信じるのかという問いかけだろうと思います。

それに対して、ソーシャルワーカーの「倫理は?」と問われた場合には、その価値を実現するためにあなたは何を守らなければならないのか、何を約束するのかということが倫理の問題ではないだろうか。

                     by 同志社大学 小山隆教授


1.価値と倫理

本稿では、先に紹介した、小山教授の言葉を拝借し、その通り定義し扱います。

価値=大切にしていること、信じていること

倫理=価値を実現するために守ること、約束すること

その上で、価値と倫理について考える際のアプローチとして、以下の2つがあるのではないかと仮定することとします。

①ソーシャルワークのグローバル定義や倫理綱領から思考をはじめる

②実践現場で生じる価値葛藤から思考をはじめる

②をあげたのは。ソーシャルワーカーが「職業人としての価値」と「組織人としての価値」との間で、価値葛藤を覚えやすいと思われるからです。(多くの研究もなされています。以下リンク)

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2.実践現場で生じる価値葛藤

ここで、まず、葛藤について、以下の通り定義します。

葛藤(conflict)
2つ以上の動機(目標等)が競合すること

その上で、先にも記した通り、ソーシャルワーカーが直面する可能性の高い価値葛藤として、「職業人としての価値」と「組織人としての価値」をあげました。(以下スライドの通り)

20210711_山口県MSW協会 (2)

医療機関に勤めているソーシャルワーカーが直面するかもしれない価値葛藤の例(以下スライド)

20210711_山口県MSW協会

そのほかにも、以下のような価値葛藤が考えられ得ます。

・早期退院・在院日数の短縮⇄患者さんのニーズに沿った支援
・患者さん本人のニーズ⇄ご家族のニーズ
・部署の方針⇄自分の考え
・給料の金額⇄得られる経験
・組織から課せられる役割⇄職業人として必要だと考えるが組織からは求められていない役割

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3.自身が有していた価値葛藤

自身が、医療機関に勤務した頃に有していた価値葛藤は以下のようなものでした。

20210711_山口県MSW協会 (5)

20210711_山口県MSW協会 (6)

それらは、端的に言えば、組織から主に求められるミクロ実践と、職業人として行うべきと考えたマクロ実践の間に生じるものであったといえます。

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4.価値葛藤に対して、行なったこと

当時、先にお伝えした価値葛藤を抱えた自分は、その状態から脱するために、自分の職業を取り巻く環境のアセスメント、という名の「自分が悪いんじゃない!環境が悪いんだ!」と言う他責思考を発動した(笑)ものでした。

これは結果として、自身を葛藤によるバーンアウトから守り、その後の実践展開のヒントを与えることになったのです。

20210711_山口県MSW協会 (7)

上記はいわば自職業についての当事者研究みたいなプロセスを経たのですが、そのあたりの話は、以前に、以下のエントリに記しました。

その頃の当事者研究の結果を簡単にまとめたのが以下です。

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5.価値葛藤を乗り越えるための選択肢として考えたこと

当時、「自分が悪いんじゃない!環境が悪いんだ!」と言う他責思考を発動し、自職業のアセスメントという名の当事者研究を経て、「では、どうすればいいか?」と考えました。大まかに以下のようなことを(実現可能性はさておき)考えていたように思います。

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①現在身を置いている組織で頑張り、ミクロもマクロも実践展開できるような状況にする
・組織が有する資源や組織が位置するエリアの資源を活用して、組織にいるからこそできる実践を展開する
・組織において権力を有すポジションにつき、職業人としての価値に基づく実践展開を行うパワーを有す
・組織において、組織人としての非従順さを帳消しにできるくらいに、職業人として突き抜ける

②組織を離れて組織をつくる
・ミクロ実践-マクロ実践を行う事業形態を模索する
・法定事業を行わない際につきまとう経済的問題をクリアする。

③職能団体に関わる
・職能団体でマクロ実践を行う
・・資源開発、運動体的実践
・職能団体がパワーを持てるように尽力する
・労働環境改善を目的にした政治的な動きに関わる

④社会福祉士/精神保健福祉士のあり方を変える
・法定定義を変える
・同時にカリキュラムを変える

⑤別の仕事につく
却下!(この仕事についたのも何かの縁だから、もう少し頑張ろう)

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上記プロセスを経て、

自身が選択した職業の定義を「個人の問題を社会化する職業」であると定義づけたり、

その定義は「権利侵害や抑圧、排除は社会構造上の問題によって引き起こされる」、「クライアントの声には、社会構造上の問題を実践対象化するためのヒントになる」といった価値に基づき、

それゆえ、「クライアント個人に問題の原因を決して押し付けない」、「日々の実践において、アセスメントの範囲を拡げる」といった倫理(価値を実現するために守ること・約束すること)を有するに至ったのだ、などと振り返りました。


当時を、そして現在有している葛藤を通して思うのは、葛藤は扱い方を間違うとバーンアウトを生むが、新たな実践展開や価値創造の材料にもなるということです。

自分の実践が拠って立つ価値・倫理を自覚し、その価値を体現すべく学び・研鑽し、自らの倫理に則り、実践を展開すれば、そのさきに何か新しいものが見えるような気もすれば、見えたことで、「見えなくなる」気もする。

そんなことを思います。








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