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”制度からの孤立”を防ぐために必要なこと-申請主義によって生じる課題に焦点をあてて-

はじめに

本エントリでは、行政サービスのデジタル化以前の部分で、申請主義によって生じている制度からの孤立の問題についてお話をさせていただきます。よろしければご覧いただけますと幸いです。

去る4/15、自民党 孤独・孤立対策特命委員会の第9回有識者ヒアリング『申請の改善』において、「申請主義によって生じている”制度からの孤立”の課題と施策」と題し、以下、3月3日に提出した「孤独・孤立対策に関する要望書」の内容の一部に焦点を当て話をさせていただきました。

以下、4/15にお話をさせていただいた内容について解説をさせていただきます。(スライド版の資料は以下になります)

1.孤立リスクを有する方たちと孤立状態が強化される循環

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私たちは、誰しも、日常生活を送るなかで、大小、自分ひとりだけでは対処が難しい生活上の困りごとに直面することがあります。

お金、住まい、家事、仕事、妊娠、出産、子育て、一緒に暮らしている人とのこと、介護、体調、病気、性、依存、交通事故、災害、事件、犯罪 などに関する困ったこと etc...

自分ひとりで対処ができないとき、家族や友人知人に相談をしたり、手助けをお願いしたりするかもしれません。ですが、手助けやお願いをする家族や友人知人がいない人もいます。いたとしても頼れる関係でなかったり、困りごとの内容によっては詳細を知られたくない気持ちから、話をすることが難しいこともあります。

自立でなんとかしようとしても、生活上の困りごとは解決されず、次第に疲れ果て、その困りごとに対処する力がなくなって、困りごとは放置され、気付いたら、新しい困りごとが生じて...。そんな悪循環を繰り返すなかで、人は疲弊して孤立していくのではないでしょうか。人を支える仕事の現場では、そのような方たちに出会うことがあります。

2.孤立リスクを有する方たち-具体例-

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ここでひとつ事例をご紹介します(過去に出会った方のエピソードを複数組み合わせた架空の事例です)

27歳女性。元配偶者の不倫、DVにより離婚後、不眠、うつ病の診断を受け心療内科に通院するものの、医療費支払いの不安から、通院を自己中断。発達に課題を抱えた息子。脳梗塞後後遺症で介護が必要な母親。会社でのパワハラを機に職を失い10年ほど引きこもっている兄を養うためにダブルワーク中。母の脳梗塞後遺症に起因する母と兄との間の関係の変化や息子の転籍を学校からすすめられていることからストレスが増え飲酒量も増えているが、離婚して地元に戻ってきたこともあり後ろめたさから近隣や地元の友人との関わりを避け、孤立していました。

3.支援における「相談」と「給付」の機能

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自身の困りごとに対する制度給付や相談機関が存在しているにも関わらず、そういったものを利用していない方たちがいます。それは何故でしょうか。

大きな理由のひとつとして、具体的な生活上の困りごとを解決・軽減する制度給付には申請が必要であることがあげられます。

4.申請主義によって生じている課題

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「申請が必要ならば申請をすればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、制度給付の利用申請をするためには、以下のプロセスを経る必要があります。

・制度を探す
・制度要件を理解し自分が該当するか判断する
・必要書類を揃える
・行政等の担当窓口に足を運ぶ
・書類とともに自身の状況を説明し、申請をする

「制度を探す」ひとつをとっても、さまざまな困りごとに対してどのような制度があるのか、一目でわかるデータベースなどは現在存在していません。以下は一例(筆者作成)ですが、簡単にまとめるだけでも100以上の制度を羅列することができます。

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みなさんは、さまざまな困りごとに対する自分が利用可能性のある国や自治体の制度をどれだけ知っているでしょうか?

・制度を探す
・制度要件を理解し自分が該当するか判断する
・必要書類を揃える
・行政等の担当窓口に足を運ぶ
・書類とともに自身の状況を説明し、申請をする

多忙であったり、病気や障害を抱えていたり、言語の問題を抱えていたり、疲れ果て、パワーレスな状態であったりしたならば、上記プロセスが、制度の利用申請に至るハードル(障壁)になり得るであろうことは想像に難くありません。

5.課題を生じさせている要因

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制度からの孤立という課題を生じさせている要因としては、大きく
「情報の入手」、「申請手続き」、「申請窓口」の3点があげられます。

6.制度からの孤立を防ぐために考えられえる施策

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これら3つの要因を踏まえて、申請主義によって生じる「制度からの孤立」を防ぐために考えられ得る施策としてポイントを6点に絞り、挙げました。

情報の入手
申請手続き
申請窓口
情報が届きづらい人との接触機会
申請を伴走支援する仕組み
スティグマの軽減

本エントリでは、デジタル庁創設が迫っていることなどを背景に、上記「情報の入手」のポイントにおける施策「ポータルサイト」について記します。

7.ポータルサイト・ナビゲーションシステムの必要性

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現状、国や自治体のホームページにおいて、各種制度情報が掲載されているページはありますが、ひとつのページに集約されていなかったり、内容がわかりづらかったり、文字の羅列だけで、「自分の困りごとにあった制度を探す」、「自分が利用要件に合致するか理解し判断する」ことをサポートするものになっていません。(以下に2つの例を示しました)

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8.ポータルサイト・ナビゲーションシステムのイメージ

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まずは、さまざまな支援制度をひとつにまとめる(ポータルサイト)こと、そして、上記画像のように、自身の状況をフローチャート式に選択する、もしくはチャットボットなどを利用するなどし、質問(選択肢)に回答すれば必要な支援制度が明示され、手続き先までナビゲーションする機能も設けることが必要であると考えます。

また、あとで見返したり、誰かに自身の状況等を説明する際に活用ができるように、回答選択した内容とその結果ナビゲーションされた制度一覧を何らかの方法で訪問者がデータとして保存できるようにすることも必要であると思います。

9.ポータルサイト・ナビゲーションシステムに掲載するコンテンツ

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上記画像は、厚生労働省が、作成したページ「生活保護を申請したい方へ」のキャプチャ画像です。(厚生労働省は2020年12月末に「生活保護の申請は国民の権利です」「ためらわずにご相談ください」と国民に伝え、必要としている人に申請を促しました)

このページのように、サイト内の各制度の簡易な概要ページについては、スティグマの強化につながる記載となっていないか留意した文章とすることや、わかりやすい日本語で、必要最低限の項目を設け記載することが重要であると考えます。

加えて、各制度概要ページから、サイト閲覧者所在地の担当申請・相談窓口のサイト(自治体等)にワンクリックで飛べるよう誘導すること(例:郵便番号の入力等で)そして、将来的にはマイナポータルとの連携によってオンライン申請が可能な制度についてはオンライン申請との接続ができるようにすべきだと考えます。

10.ポータルサイト・ナビゲーションシステムへの導線づくり

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サイトのオープン後は、ソーシャルメディアやインターネット広告などの活用を通して、サイトの存在を必要な人に届けるための導線を複数用意することが必要です。

ソーシャルメディアの活用
・NPO等の支援団体や自治体のアカウントによる協働発信
・ハッシュタグの活用(例:#お金に困っています)
・インフルエンサー(フォロワー数の多い人物)による拡散 etc
インターネット広告の活用
・ポータルサイト上の制度掲載ページごとに適切な検索
キーワードを選定した上での広告の出稿
(Googleで「お金がない」と検索して出てくるのは、消費者金融の広告ばかりです。どうにかならないものか、と思います)

そのほか、基本的なSEO施策や、自治体の関連ページにポータルサイトのリンクを貼るなどの施策も考えられます。

11.ポータルサイト・ナビゲーションシステムの副次的効果

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本ポータル・ナビゲーションサイトは、「相談」につながったものの、行政やNPOなどの相談対応者の知識の偏り・不足により、「給付」につながらないという課題の解決にも繋がりえる副次的な効果が期待できます。

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12.施策の効果検証

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最後に、制度からの孤立を防ぐために考えられえる施策の効果検証について上記画像の通り記しました。

13.まとめ

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以上が、お話しさせていただいたことのまとめになります。
引き続き、単なる言いっぱなしではなく、さまざまな施策が前に進むように手足を動かし汗をかいていきたいと思っています。

最後に

また、本エントリでは、社会保障制度利用において申請主義をとることにより生じる制度からの孤立の課題と、それら課題に対して、申請する権利の行使をサポートする施策について記しました。

しかし、そもそも現在の社会保障制度の対象にないニーズや困りごとを抱えてる方々も数多くいらっしゃいます。

例えば、難病患者さんを取り巻く制度に目を向けると、難病医療費助成制度となる指定難病の対象は333疾病、障害者総合支援法の対象となる疾病は361疾病に限定されています(令和3年2月現在)また、指定難病の一部が障害者総合支援法の対象になるにもかかわらず、障害者雇用促進法における障害者雇用率制度の対象になっていない現状もあります。

過去から現在に至るまで、制度の対象となっていない、いわゆる制度のはざまにいる疾病の患者家族会などが運動を行い、困りごとに対する支援の制度化などを訴えてきました。患者数が多い疾病、患者団体が既に組織されている疾病など、ある程度の数の力をもって運動を推し進めていくことができない疾病以外の疾病であったとしても、ひとりの困りごとやニーズについて、社会に対して声をあげやすくする仕組みが必要です。

台湾には、国民が行政に提案ができるデジタルプラットフォーム「公共政策網路參與平臺(Join)」があり、政府が国内の少数意見を把握し、社会に存在する問題を取りあげるため、Joinは「2ヶ月以内に5,000人が賛同した場合は、必ず政府が政策に反映する」というルールの下に運用されています。

日本においても、インターネット署名サービスなど、ひとりのニーズを社会に対して届けていくための手段が少しずつ増えてきています。さまざまな事情の異なる、制度の対象にならない困りごとを有する方たちを取り巻く現状やニーズを社会に対して発信し、仕組みを変えたりつくっていく方たちの動きにも連帯していきたいと考えています。


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