マクロソーシャルワーク実践の展開に関する現状と課題-医療現場におけるケースを補助線にして-
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マクロソーシャルワーク実践の展開に関する現状と課題-医療現場におけるケースを補助線にして-

本講では、日本における今後のあるべきソーシャルワーク実践の方向性について、マクロ・ソーシャルワークの必要性を中心に考えを述べていきたい。(某所でお話したスライドの内容をもとにブログにしました)


1.マクロソーシャルワーク実践の必要性を感じた事例


医療機関勤務時代に、同様の生活歴を有するクライアントと出会った。概要を以下に記す。

• 被用者保険から国民健康保険への切り替えをせず、「無保険」の状態
• 失業給付を受けていない
• 求職活動がうまくいかず、家賃滞納、アパート退去
• ホテル、サウナ、ネットカフェを転々とし携帯電話から派遣の仕事へ
• 保険証をもっておらず、受診控え、意識喪失して救急入院
• 働くことができると生活保護は受給できないと思っていた

 クライアントから聞かれた生活歴には上記のパターンがみられた。この経験により、私は福祉現場でクライアントから聞かれる声(生活歴)には、排除を生み出す社会構造を理解するためのヒントが詰まっていると痛感した。

しかし、パターン(言い換えればぼんやりとした介入の焦点)に対して、当時、医療機関に勤務をするソーシャルワーカーとして介入を行う手立てを持たなかった。つまりは、ミクロソーシャルワークのスキルは持ち合わせていたが、マクロ・ソーシャルワークのスキルは持ち合わせていなかった。この事実は、国際定義には程遠い自身の知識や技術、そして職業自体への疑念を生んだ。

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2.マクロ・ソーシャルワークにおけるアセスメント

 前述したケースのクライアント多くは社会的孤立していた。そして孤立に至るプロセスにおいて社会的に排除され、物理的環境、経済的環境、そして、支援機関との接触もなく社会的環境からも排除の圧を受けていたと言える。

 社会的排除の定義はさまざまあるが、本稿では、平成 24 年に内閣府の社会的排除リスク調査チームから出された「物質的・金銭的欠如のみならず、居住、教育、保健、社会サービス、就労などの多次元の領域において個人が排除され、社会的交流や社会参加さえも阻まれ、徐々に社会の周縁に追いやられていくことを指す。社会的排除の状況に陥ることは、将来の展望や選択肢をはく奪されることであり、最悪の場合は、生きることそのものから排除される可能性もある」を採用する1)

 孤立は「状態」を表すものであるのに対し、社会的排除は、排除されていくメカニズムまたはプロセスに着目する。すなわち、社会的排除は、社会のどのような仕組みや制度が個人を排除しているのかに焦点を当てる。
 本田(2014)は、戦後日本型循環モデルという概念を記し、現代はそのモデルが破綻し、それによりさまざまな生活課題が生じていると指摘する。2)言い換えれば、個人が抱える生活課題が社会構造の変化によって生み出されているということである。

・リストラされ国民健康保険の切り替えをしていなかった時点で
・家賃を滞納した時点で
・アパートを強制退去になった時点で
・ネットカフェに住まうようになった時点で
・生活保護も考えたが、テレビで若くて働ける人間は受けられないと聞いたから

 前述した事例においては、上記のような、マクロレベルでのさまざま介入のポイントがあったが、前提となる知識やクライアントを取り巻く環境を常にマクロレベルの構造から捉えることを繰り返すトレーニングを積み重ねることなしには、生活保護の申請支援、住居確保支援以外にソーシャルワーカーとしての役割を見出すことができなかったであろうと振り返る。

 換言すれば、マクロソーシャルワークにおいて、その介入の焦点を定めるには広範囲の人や社会に関する知識が必要になる。そしてまた、機関の役割と介入の焦点が何らかの関連をもたない限り、マクロソーシャルワークにおける介入方法は機関の役割に制限されることも自身の経験から学んだ。

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3.日本における今後のあるべきソーシャルワーク実践の方向性について 

今後のあるべきソーシャルワーク実践の方向性について考えた時、マクロソーシャルワークの強化が必要だと考える。社会的に排除され、孤立状態にある人たちへの支援においてはミクロソーシャルワークだけではなく、社会的排除を生む構造、メカニズムに少しでも影響を及ぼすことを考えたとき、マクロソーシャルワークが必要であるという論は正論ではあるだろうが、その正論を現実化することがなぜ難しいのか、その理由を以下3点にまとめた。

⑴国内のソーシャルワークに関する資格の法的定義
 日本にソーシャルワークに関する資格には社会福祉士と精神保健福祉士がある。両資格の根拠法において、両資格がどのように定義されているかを以下に記す。

両資格に共通するのは、『個人を対象とした「相談援助」を業とする者』という記載である。ソーシャルワークのグルーバル定義に比べると国内の両資格の定義は、対象を狭めていると言わざるを得ず、両資格においてマクロソーシャルワークは前提とされていないとも読み取ることができる。


⑵養成課程や現任者教育の内容

 前述した職業定義の問題以外に、マクロ・ソーシャルワーク実践の現実化を妨げるものとしてスキルの問題が挙げられる。以下は、ボストン大学の修士課程、マクロプラクティスコースの科目である。日本の社会福祉士や精神保健福祉士の養成課程のみならず、大学院においても学ぶことのない科目が並んでいる。欧米においては、マクロプラクティスのコースは就職先が多くない等の問題はあるようだが、テキストもまとめられており、体系的にスキルを学び、習得する環境は整っていると言える。

⑶日本におけるソーシャルワーカーの配置

3点目は、ソーシャルワーカーの配置の問題である。日本においても独立型の社会福祉士が増えてきているが、多くのソーシャルワーカーは機関に雇用されているがゆえ、機関の役割に影響を受けることを避けることが難しい。機関の役割と介入の焦点が何らかの関連をもたない限り、マクロソーシャルワークにおける介入方法は機関の役割に制限されるというのは前述した通りである。

吉永 清 (1976)『社会福祉概説』有斐閣より抜粋

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4.おわりに


 本稿では、統合後の特徴のひとつとして、ソーシャルワーク実践の介入対象のマクロ化をあげ、日本における今後のあるべきソーシャルワーク実践の方向性について、マクロ・ソーシャルワークを中心に考えを述べてきた。

 社会構造の変化によって社会から排除される人たちに関わり、そのような人を生み出す構造に対してアプローチするには、マクロソーシャルワークの強化が必要であると考える。そのためには、資格定義の見直しや養成過程、現任者教育におけるマクロソーシャルワークに関するカリキュラム、研修の充実が必要であると結論づけた。

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5.引用文献


1)内閣官房社会的包摂推進室社会的排除リスク調査チーム(2012)『社会的排除にいたるプロセス~若年ケース・スタディから見る排除の過程~』
2) 本田由紀(2014)『社会を結びなおす――教育・仕事・家族の連携へ』岩波書店
3) 吉永 清 (1976)『社会福祉概説』有斐閣


6.参考文献


・日本社会福祉士会(1087)『社会福祉士及び介護福祉士法https://www.jacsw.or.jp/01_csw/04_cswtoha/law02.html(アクセス日:2019年1月29日)
・厚生労働省(1997)『精神保健福祉士法』https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80998052&dataType=0&pageNo=1(アクセス日:2019年1月29日)
・日本社会福祉士会(2016)『ソーシャルワーク専門職のグローバル定義と解説』
https://www.jacsw.or.jp/06_kokusai/IFSW/files/SW_teigi_01705.pdf(アクセス日:2019年1月29日)


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Hokuto Yokoyama

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NPO法人Social Change Agency / ポスト申請主義を考える会 代表 / 骨髄移植(1999/10/1)で救命されたサバイバー/ 趣味はダジャレと散歩