詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好…

詩と少年

詩が好きです。料理を作るのも好きです。時々ケーキやクッキーを食べたくなって焼きます。好きばかりで毎日を過ごせたらいいなと思っています。

最近の記事

【詩】蛍光うさぎ

裸で夢をみる 恋人の白い背中が 窓から覗く月の光で割れ 一匹のうさぎが現れた 描かれたように うさぎは重さと厚さを持たなかったが 月の光がうさぎに色を与え うさぎは緑に輝いた うさぎは跳ねながら 部屋の窓から飛び出した 私は彼女のそばに横たわっていたが 視線はうさぎを追った うさぎは確固たる意図を持ち どこかへ向かっていた 視線は うさぎを避けるように 駅へ向かった 汽笛の音 発車のベル 鈍色の天井灯 車内に乗客が数人いた それは影のように 持ち場を離れなかっ

    • 【詩】心が自分のものでない

      心が自分のものでないのは 自分が 他人だから 心を止めれば 私たちは 軽くなる 心の重さを測るには 時間がかかる から  季節は 秋が良い  時間にも質量があって 夏は 瞬間に破裂する 風が吹いて    日差しが神の視線に変わる時     蝉は 天まで 飛んでゆき       星に止まる 午後の栄光と夜明けの残光 ペンと線の影 窓から 飛来 額に当たる 蜂 は もう一度 自分の行き先を 確かめる

      • 蝉の断章の記憶 第10(最終)話

         急に眩暈がした。その声は目の前の男ではなく、遠くの方から——地の果てから、あるいは地中の奥深くから聞こえるようだった。男が差し出した万年筆を手に取ると、催眠術にかかったようにわたしはその本に上半身を傾けた。意識がぼんやりして……万年筆が、不安定な体勢のわたしを支えるように動いて手を引っ張った。いつの間にか、わたしは自分の名前でなく次作のタイトルを書き始めていた。        『○○の冒険』  驚いたわたしは手の動きを止めようと抵抗した。が、無駄だった。ペン先は生き物よ

        • 【詩】どうしようもなく

          どうしようもなく生まれたこの世界で どうしようもなく生きてゆくのは どうしようもなく奴隷的で どうしようもなく自分が止まっても どうしようもなく人も世界も動き続けるので どうしようもなく逃避するか どうしようもなく何も考えないか どうしようもなく刹那的になるか どうしようもないから立ち上がるしかない 空は今日も青い どうしようもなく青いから どうしようもない希望を見つけて どうしようもない感動を追いかける どうしようもない人生を探す

        【詩】蛍光うさぎ

          蝉の断章の記憶 第9話

                  『セミの断章の記憶』  最初に目に飛び込んだ文字にどう反応すべきか? やはり、誰かがわたしと同じタイトルを使っていた。でもそれは、ひょっとしたらそうかもしれないと予想していた結果だった。タイトルがわたしの創作と同じなのは、偶然が重なっただけだとわたしは結論づけた。 次のページに、文字が並んでいるが透けて見えた。落丁本でない完全なやつが見つかったのだな。どんなふうに始まるのだろう、物語は最初と最後が一番重要だ。特に書き出しは作品全体のイメージを俯瞰する、そし

          蝉の断章の記憶 第9話

          蝉の断章の記憶 第8話

          「お久しぶりですな。いやあ、全く」 男は右目が義眼であることには変わりなかった。しかし、男がわたしの顔を覗き込むように見ると頭がくらくらした。蛇に睨まれた蛙が感じるような無感情な視線の呪縛。わたしは半歩下がった。  男はしゃべり始めた。 「あの折は良いものを手に入れられましたな。どうですか。その後、何か変わったことは? 無かった? いや、きっと有ったでしょう。分かりますよ。あなたの顔にそう書いてある。とても充実した人生を過ごされているのですな。今までとは違う別の! あなたは

          蝉の断章の記憶 第8話

          蝉の断章の記憶 第7話

           全集を読み終えると季節は夏だった。強い陽射しが朝の窓から入り込む。蝉の合唱が始まって蒸し暑くなった。あれから自分の作品のことはすっかり忘れて、読者として人生を満喫した。 しかし、ただ漫然と日々を過ごしていたのではなかった。読んだ本には文字の形をした原石が埋もれていた。それを採集し、記憶の標本箱に陳列し、時々、出しては眺めた。飽きると、公園のベンチで太陽の光を浴び、好奇心で近づいてくる小鳥に微笑んだ。 わたしにはセンスがある。これは事実だ。そしてそれは運命を待っていた。だ

          蝉の断章の記憶 第7話

          【詩】時・か・ん・

          時・か・ん・ 都会から田舎へゆくと 感じられるもの 時・か・ん・ 悲しくなると 考えたくなくなるもの 時・か・ん・ 嬉しくなると 抱きしめたくなるもの 時・か・ん・ 寂しくなると 忘れたいもの 時・か・ん・ 旅行していると キラキラと輝いているもの  時・か・ん・ 会いたい人を待つと 鼓動を激しくさせるもの   時・か・ん・ 芝生に寝転んで空を見ていると 掴める気がするもの 時・か・ん・ 久しぶりに誰かの子供に会うと 思い出すもの 時・か・ん・ パーティーが終わ

          【詩】時・か・ん・

          蝉の断章の記憶 第6話

           明け方の弱い光が樹葉の隙間から漏れ。それは幹に張り付く蝉の幼虫の背中を立体的に見せた。父とわたしは息を潜めてじっと見ていた。幼虫の背中が音もなく割れた。時間が静止する。驚きがわたしの内部一杯に満ちた。 裂け目が縦に広がって、少し揺れてから、それは見えない扉を開けるように頭を出した。世界を伺うように。初めて試す呼吸。純白な二つの目。汚れていない神秘が初めて触れる世界。その目はまだぼやけていて何も見えていないようだった。 見る間に、体は半分以上殻から抜け出して、いきなり後に

          蝉の断章の記憶 第6話

          蝉の断章の記憶 第5話

           本は部屋に並べると宝物みたいにキラキラと輝いた。ウッドの香りがほんのりと漂う。部屋の明かりを暗くすると、林の中にいる気分になった。わたしはリラックスして椅子にもたれた。読破するのにどの位かかるだろうか。二ヶ月? いや、三ヶ月? あるいは半年?  まあ、どうだって良いじゃないか。もう時間に追われることはないのだ。そのために今まで我慢して働いて来たのだから。そして今、ここに自由がある。 「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」  子供が差し出されたお菓子を選ぶように本を順番に指差し

          蝉の断章の記憶 第5話

          蝉の断章の記憶 第4話

           そこは古書を扱っている店だった。外から見るよりずっと広かった。店内は外の明るさとは対照的に、暗くひんやりしていた。それに何十年も前から有るようにカビ臭い匂いがした。入れ替わりに客が出ていったので、店には、奥で背中を丸めて座っている店主以外誰もいなかった。 コの字型に配置された本の壁の中を、わたしはゆっくりと見て回った。文庫本や新書が綺麗に並べられていた。美術書や学術書、絵本、画集、漫画、雑誌、地図、ビジネス本——。手に取るとどれも綺麗に手入れされていた。古本によく有る痒み

          蝉の断章の記憶 第4話

          【詩】危ない

          あの目は危ない 開いているが何も見ていない あの耳は危ない すましているが何も聞こえない あの鼻は危ない 嗅いでいるが何も匂わない あの口は危ない 開いているが何も語らない あの手は危ない 握っているが何も掴まない あの足は危ない 歩いているがどこへも行かない あの神経は危ない 感じているが反応しない あの脳は危ない 記憶しているが何も考えない あの心は危ない 暖かいが何も感情がない あの人は危ない 人間だが人らしくない あの言葉は危ない 印象的だが何も真

          【詩】危ない

          蝉の断章の記憶 第3話

           わたしの孤独な性格は、大人になるまで変わらなかった。孵化してから成虫になるまで無変態の生き物みたいだった。 どんな人間にも出会いはある。わたしも例外ではなく、高校時代に、女の子に声をかけられ、デート(?)に誘われた。気難しい本好きの、殆ど笑わない人間も、好奇心の対象としては価値があったのかも知れない。わたしの初めてのデートは、百貨店を一周しただけで終わった。二回目、別の女の子とのデートは映画館だったが、映画は開始時間を過ぎていた。並んで座った二人の目に入った最初のシーンは

          蝉の断章の記憶 第3話

          【詩】カオス

          カオスな顔 カオスな夢 カオスな人生 カオスな通りで 地番のない歩道が工事中 踏むと沈む 商店街に立つ灯籠が 夜に笑う Y字路は毎夜赤く点滅 歩くとできる道  足跡は消える 見ないと聞こえる 描かないと動く カオスな風の 議論 雨の模索 答えのない笑い 聞こえないリズム 時間を食べる猫が 小さく笑うと泣く子犬 青い雪 黒い雲の願望 命が掛かる老いから逃走する時間を追いかける記憶が死者達の青い宴から光が夢から色が答えから疑問が消失消化される星の色慣性の法則が壊れ

          【詩】カオス

          蝉の断章の記憶 第2話

          (* 過激な表現が有ります。)  中学校では、部活動をきっかけに何人かの男子や女子のグループに分かれた。あるいは、隣同士で友達に。だが、わたしはクラブに入らず、誰とも話が合わず、相変わらず一人だった。休み時間に一人で本を読んでいた。縮れ毛のリョウは空手が得意でいつもそれを見せびらかしていた。いきなり、わたしの机に片手を撃ち下ろすと小さなヒビが入った。彼は唇を歪めながら、 「なあ、金貸してくれない?」  その日から、わたしの毎日は地獄になった。リョウは三人組のリーダーだった

          蝉の断章の記憶 第2話

          【詩】三種の神器

          面接の最後に採用担当者は尋ねた 君の三種の神器は何ですか 九回裏ツーアウト満塁のこの場面で 一打一発逆転を狙う僕は 投手の決め球がストレートで ここでそれを投げてくると 百パーセント確信していた 予想通り百五十キロの球がど真ん中に 迷わずバットを振り抜く 僕は即答した それは赤青黄の三原色の信号でも 見ざる聞かざる言わざるの事勿れ主義でも 天地人を愛する詩人でも 飲む打つ買うが日常のノスタルジー的な男性会社員でも 走・攻・守をこなせるベースボ

          【詩】三種の神器