Wind-Up Bird Books (兵庫県豊岡市の本屋的なるもの)

国登録有形文化財に登録されている庄屋屋敷の蔵で本屋的なことをしています。主に海外文学・…

Wind-Up Bird Books (兵庫県豊岡市の本屋的なるもの)

国登録有形文化財に登録されている庄屋屋敷の蔵で本屋的なことをしています。主に海外文学・村上春樹作品など人文系の本を置いています。兵庫県豊岡市但東町矢根1076大石家住宅(営業時間13:00~18:00)

最近の記事

『イラクサ』アリス・マンロー

世界中に読者を持つ、カナダの作家アリス・マンローが今月亡くなられました。アメリカでも昨年コーマック・マッカーシーやラッセル・バンクスが亡くなられており、世界的に素晴らしい物語を生み出してきた小説家たちがここ数年去られいるのはとても残念です。 アリス・マンローへの追悼も込めて、彼女の代表作の1つ『イラクサ』を手に取りました。 アリス・マンローは基本的に短編小説の作家ですが、それでも優れた長編に匹敵するくらい心にじわっとくるものを描かれています。 『イラクサ』は彼女の晩年に執

    • 『白鯨』メルヴィル

      19世紀に多数の作品を書いてきたメルヴィルは、今日、アメリカの偉大な作家と称されている一人です。(生前はあまり評価されなかったらしい) 彼の代表作『白鯨』は、青年イシュメール(この小説の語り手)が乗り込んだ捕鯨船ピークフォード号が、船長エイハブの執念の下、モービィ・ディックという白鯨を倒すために追いかけ航海していくというストーリーです。 物語と並行して、鯨や捕鯨に関する知識もたくさん語られます。 これは、メルヴィルの実体験とリサーチに基づくとか。 ストーリーを読み進めてい

      • 『プールサイド小景・静物』庄野潤三(新潮文庫)

        庄野潤三も、安岡章太郎や小島信夫らとともに戦後に頭角を現した「第三の新人」の作家の一人。 『プールサイド小景』や『静物』が彼の代表作として有名です。 これらの作品含めて、本作には7つの短編が収録されています。 自分たちが過ごしている日常がもろく崩れやすいことを伝える作品が多いかなと思います。本作に収録されているものでは、『プールサイド小景』や『静物』はもちろんのこと、『舞踏』や『イタリア風』といった短編も良かったです。

        • 『変身』フランツ・カフカ

          世界的に有名なフランツ・カフカの代表作の1つが『変身』です。 カフカはプラハ(現在のチェコの首都)で生まれ育ち、昼は役人として勤めながら、夜に小説を書いていました。 現在、早稲田大学国際文学館の村上春樹ライブラリーで、カフカ没後100年ということで「変身」するカフカ展が開催されています。この企画展に先日行ってきて、『変身』を読み返そうと思い、約10年ぶりに手に取りました。 この作品は、青年グレーゴル・ザムザが巨大な虫に変わってしまった中での日常を描いています。世の不条理・

          『浮世の画家』カズオ・イシグロ

          『浮世の画家』は、イギリスの小説家カズオ・イシグロの2作目の長編作品です。 個人的にカズオ・イシグロの小説ですごいと思うのは、毎回新しいテーマや舞台を設定して執筆している点。同じ作家が書いたとは思えないくらい、毎回新しい試みにチャンレンジされているのを感じます。とはいえ、どの作品も心にぐっとくるものがあり、彼の小説はとても好きです。 本作を含めて、初期の2作の長編は戦後の日本を舞台にしています。カズオ・イシグロは幼少期までは日本(長崎)で生まれ育ち、その後父親の仕事でイギリ

          『彼らは廃馬を撃つ』ホレス・マッコイ

          ホレス・マッコイは1900年代前半から半ばにかけて執筆活動に勤しんだアメリカの作家です。同時期にアメリカでは、ヘミングウェイやスタインベックがその名を輝かせていましたが、さまざまな職を転々として作家になった当初のマッコイは無名。フランスで先に評価され、母国でも知られるようになりました。 『彼らは廃馬を撃つ』は、若い男女が賞金を求めて、最後の一組になるまで踊り続けるマラソン・ダンスを物語の舞台にしています。マラソン・ダンスでボディー・カードをしたマッコイの経験を元に描かれた、

          『彼らは廃馬を撃つ』ホレス・マッコイ

          『運命と復讐』ローレン・グロフ

          アメリカ出身のローレン・グロフは、1978年生まれの若手作家です。日本ではまだ数作品しか翻訳されておらず、彼女の名はあまり知られていないかもしれません。 村上春樹さんが編訳した『恋しくて Ten Selected Love Stories』に収録されていたグロフの短編に衝撃を受け、彼女の長編作『運命と復讐』を手に取りました。この本もとてもいい作品で、グロフは素晴らしい大河恋愛小説を書くなあと思います。 『運命と復讐』で描かれるのは、学生時代に出会い、恋に落ちた夫ロットと妻

          『恋しくて Ten Selected Love Stories』村上春樹(編訳)

          『恋しくて Ten Selected Love Stories』は10の短編の恋愛小説が収められている1冊です。村上春樹さんがアメリカの雑誌『ニューヨーカー』を読んで気に入った小説など9つの恋愛作品を翻訳し、最後の1つは自身で新たに書き下ろされました。かなりストレートなラブ・ストーリーからちょっぴり苦みを感じるものまで、幅広く収録されています。 あまり日本では翻訳されていない作家のものが選ばれており、僕も知っているのはアリス・マンローとリチャード・フォードくらい。こんないい

          『恋しくて Ten Selected Love Stories』村上春樹(編訳)

          『シャーロック・ホームズの事件簿』コナン・ドイル

          シャーロック・ホームズシリーズで有名なイギリスの作家、コナン・ドイル。医師として元々働きながら、副業で小説を書き始めたところ、いつのまにか執筆の方が本業になりました。人生には何が起きるかわからないものです。19世紀後半から20世紀前半にかけて、多数の作品を残してきました。推理小説が有名ですが、歴史小説やSF小説も書いています。 シャーロック・ホームズシリーズは、長編・短編ともにありますが、『シャーロック・ホームズの事件簿』は最後に書かれた短編作品。10作収録されています。1

          『シャーロック・ホームズの事件簿』コナン・ドイル

          『レンブラントの帽子』バーナード・マラマッド(夏葉社)

          バーナード・マラマッドは、20世紀の作家で、ロシアからアメリカに移住してきたユダヤ人の両親から生まれました。そのため、『レンブラントの帽子』も含めて、彼の小説には「ユダヤ人」や「ロシア」が題材に使われることも。 ひとり出版社として有名な夏葉社さんから出版された『レンブラントの帽子』には、表題作のほかに2つの短編が収録されています。1975年に刊行された同名の短編集から3編を選んで、2010年に復刊させたものです。装丁は村上春樹作品なども手掛けてきた和田誠さんが担当されていま

          『レンブラントの帽子』バーナード・マラマッド(夏葉社)

          『アメリカン・スクール』小島信夫 (新潮文庫)

          小島信夫は、戦後に出てきた吉行淳之介、遠藤周作、安岡章太郎らと一緒に「第三の新人」と呼ばれた作家の一人です。 表題作の『アメリカン・スクール』で、芥川賞を受賞しました。 この小説以外に、デビュー作の『小銃』や村上春樹さんが『若い読者のための短編小説案内』で紹介している『馬』など、8つの小説が収録されています。小島信夫の初期の短編作品を楽しむにはとてもいい1冊です。 村上さんが『アメリカン・スクール』は手放すことができない小説の1つと言っているように、面白い短編小説でした。こ

          『アメリカン・スクール』小島信夫 (新潮文庫)

          『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ

          ヘルマン・ヘッセは、20世紀ドイツの作家です。 『車輪の下』は彼の代表作品の1つになります。この小説は、ヘッセ自身の若いときの経験が反映されている、自伝的なものです。 村上春樹さんの『ノルウェイの森』で、主人公のワタナベくんが友人の緑の家で夜中に『車輪の下』を読んでいて、この作品の印象が残っていますね。 主人公のハンスは、勉学に励んで神学校へと合格します。入学後も勉強に打ち込みますが、友人ハイルナーとの出会いや神学校での生活が彼の人生を大きく変えていきます。 ハンスの人

          『さようならウサギ』ジョン・アップダイク

          20世紀後半のアメリカを代表する作家の一人であるアップダイク。 『さようならウサギ』は、彼がウサギこと、ハリー・アームストロングを主人公として描いてきたウサギ四部作の最終作品です。 本作では、1980年代後半のアメリカを背景に、1980年代後半のアメリカを背景に、ウサギは50代になって孫が生まれています。ただ、心臓の持病を抱えながら社長業を引退して余暇を過ごしています。 本作も含めて、ウサギ四部作は、アメリカという国の1950-90年の状況とそんな中で過ごす中産階級の人々

          『さようならウサギ』ジョン・アップダイク

          『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ

          マヌエル・プイグは20世紀のアルゼンチンの作家です。 彼の名前を知ったのは、実は最近のこと。 10-15年前の村上春樹さんのロングインタビューをたまたま眺めていたら、村上さんがプイグの小説を絶賛されていたのでした。 プイグは、若い頃にはもともと映画製作を目指していました。その後、小説家への道を歩み始めたため、その経験が彼の小説にも大きく影響を与えているようです。 彼の代表作の1つである『蜘蛛女のキス』も、映画の脚本を読んでいるような感じでした。文章の99%が会話(というか

          『ピアノ・レッスン』アリス・マンロー

          アリス・マンローは、カナダの小説家です。 数多くの短編小説を書いてきて、「短編小説の女王」と評されています。 世界的にも影響力のある作家でノーベル文学賞も受賞されましたが、2013年作家としては引退しました。 『ピアノ・レッスン』は、アリス・マンローが初めて書いた短編集です。 15の短編ストーリーが収録されています。 田舎で生まれ育った彼女は、成長して結婚・出産・母の死・子どもたちの子育て・豪邸の大変な家事といった経験をしてきました。そうした中で書かれたのがこの1冊です。そ

          『ピアノ・レッスン』アリス・マンロー

          『夜想曲集』カズオ・イシグロ

          カズオ・イシグロは、世界的にも評価が高いイギリスの現代作家です。 僕もとても好きな海外作家の1人です。 彼の作品をすべてはまだ読めていませんが、『わたしを離さないで』『クララとお日さま』など僕が読んできた作品は、毎回作風が変わるにもかかわらず、どれも心にくるものがあります。また、どれも非常にスラスラと読みやすいですね。 村上春樹さんも、カズオ・イシグロの小説は出版されるたびにすぐ手に取るぐらい好きらしいです。 『夜想曲集』は、現時点でカズオ・イシグロが書いた唯一の短編小説