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自分の背丈よりも大きな楽器ケースを背負いたい人生だった

自分の背丈よりも大きな楽器ケースを背負いたい人生だった。ギターでも、ユーホニウムでも、チェロでも、ベースでも、サックスでも、なんでもよかった。いや、もはや楽器でなくてもよかった。電車でときどき見かける弓道の弓を持っている人、それと見ただけでバスケ部や野球部、テニス部だとわかるスポーツバック。

そうだ。

私は、自分の背丈よりも大きな荷物を背負いたい人生だった。

まず、それらを持っていること自体がめっちゃかっこいい。本人たちからしたら、「たまったもんじゃない」「できることなら絶対的に車で移動したい」と思っているかもしれない。かもしれない、というか、そうだろうな。でも私には、大きな荷物がまるで勲章のように見える。それだけ重いものを頑張って持っていることもそうだし、エッサエッサと運んでいるのも、いい。大事なものだから、大事そうに抱えているのもいいなと思う。私が手持ちのカバンをきゅっと大切そうに持つのとはわけが違う。かっこいい。

何より大きな荷物は、その人の証明になる。

ギターケースを持っている人は、音楽を鳴らす人だ。金管楽器を持つ人は、それを吹く人で、野球バッグを持つ人は野球をする人だし、バスケバッグを持つ人はバスケをする人なのだ。

そうやって持っているもので、その人がわかるところが羨ましい。私のカバンでは、私が何をする人・している人なのかは、傍から見たらわからない。


それにね。私は、電車やバス、街中でそういう大きな荷物を持っている人を見ると、無意識のうちに心の中で「頑張れ」とひそやかなエールを送ってしまうのだ。

「鳴らしたい音を鳴らせますように」「演奏がうまくいきますように」「試合に勝てますように」「練習を頑張れますように」、その密やかなエールを送っているところで、無意識のうちに送っていたことにハッとする。

そして私のような人は、意外に多いんじゃないかなと思う。

声には出さない。本人にもきっと届いていない。だけど願う。「頑張れ」と思う。

それは、かつて同じように音楽に陶酔したり、スポーツで1番を目指していた自分に対してかけているエールなのかもしれない。

”終わりよければすべてよし” になれましたか?もし、そうだったら嬉しいなあ。あなたの1日を彩れたサポートは、私の1日を鮮やかにできるよう、大好きな本に使わせていただければと思います。