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藤井風MV考察「青春病なんてへでもねーよ」

 「オサレ」という「お洒落」を揶揄する言葉がある。キメ過ぎたファッションや悦に入った言動は一歩間違えば失笑ものだ。しかし、本気でやり切れば泣く子も黙る。

 筆者が初めて藤井風に遭遇したのは「優しさ」のMVだった。クリーンなホワイトコーデでキメたロン毛の色男が、ウィンクでもしそうな勢いで微笑みながらカメラ目線を送っていた。35歳くらいかと思った。

 彼は完璧にやり切っていた。王道のカッコよさを、照れや遠慮を微塵も感じさせることなく出し切っていた。

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 藤井風はハンサムである。

 イケメンというイマドキの言葉が似合わない。
がっしりした男らしい輪郭にキリッとした眉。太い鼻筋が通った横顔はギリシャ彫刻を思わせる。測ったように正しく配置された目は少々垂れ気味で、八重歯の覗く口元と相まって骨格の厳つさを甘く和らげている。

藤井風を取り巻くスタッフはこの顔の活かし方を熟知しているようだ。
「何なんw」「もうえーわ」「キリがないから」「優しさ」までのMVは、藤井風をひたすらカッコよく見せるものだったように思う。これらの作品は一歩間違えれば「オサレ」に転び、さらに下手を打つと「嫌味」にまで発展しかねない。それほど"2枚目”な作品だ。「こんなイカした歌を歌うグッドルッキングな新人がデビューしました。どうぞよろしく」という名刺代わりのMVだ。

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 「帰ろう」のMVを挟み、新曲とともにリリースされた2本のMVは、前述の王道2枚目MVからいきなり際の際まで攻めてきた。ちょっとした風向きでダサさにもクサさにも陥りそうな本当にギリギリのラインである。

超変化球MV「へでもねーよ」

 先に公開された「へでもねーよ」は無茶な暴投にも見える超変化球だった。古の東映映画のようなプロローグにいきなり子連れ狼が現れる。これがティザーとして先行公開された時、コメディタッチに仕上げるにしても悪ふざけが過ぎないか?と訝った。

 しかしサムライからボクサーから己の煩悩まで、ギャグ一歩手前のスレスレを本人に演じさせ、あちこちにとっ散らかりそうなエレメントを強引に曲のテーマに収斂させていく演出の手腕。そして1人多役を演じ切った藤井風の演技力により、蓋を開けてみれば見事にキャッチャーミットのど真ん中に収まっている。

 何よりもこのMVの功績は曲中で主人公が闘っているのは、外側から襲いくる敵ではなく、自らに巣食うあらゆる欲望であることを明確に提示したことである。
容赦無くパンチを打ち込んでくる煩悩たち。その魅惑的な一瞬の表情がサブリミナルのように脳に刷り込まれていく。

 ラストシーンで、傷だらけになりながらも不敵に笑う藤井風はミュージシャンに収めておくのがもったいほどの凄みがある。

 どんなカッコいいMVでも、途中何度も大五郎のアップが映ったら普通は笑ってしまう。いきなり白タンクトップでファイティングポーズを取られても対処に困る。それが堂々とパワフルな曲の世界観を構築しているのは奇跡に近い。

ド直球MV 「青春病」

 次の「青春病」のMVは、またして魔球が投げ込まれるのかと思いきや、拍子抜けするくらいのド直球が飛んできた。ちょっと嫌らしい言い方になるが、今流行りの「エモさ」を全力で狙ったような90年代風のシーン、ストーリー、色合い、画質である。

 ノスタルジックでエモーショナルなものの総称として使われる「エモい」は、若者には旬のトレンドとして、そしてリアルに90年代に青春を過ごした大人たちには涙がちょちょぎれるほどの懐かしさを持って受け入れられる。

 青春病のMVはこのダブルターゲットをガッチリと掴む力がある。何の捻りも加えずに真っ直ぐに青春の無邪気さ、楽しさ、甘酸っぱさ、儚さを存分に盛り込んでいる。あまりにティピカルな青春像は使い古されたクサさギリギリである。

 友達の長い髪を切るシーンでは「就職が決まって髪を切ってきたときに、もう若くないさと君にいいわけしたね(いちご白書をもう一度)」と言うナツメロの歌詞が浮かんだほどだ。

 しかし、仲間全員で楽しげに踊るシーンの切なさときたらどうだ。彼らが幸せそうなら幸せそうなほど、胸が締め付けられる。この7人それぞれの前途に待ち構えるものを思う。
ただ幸あれと祈るほかない。

そうだ。このMVは直球が正解なのだ。

 ビーチを駆け抜ける、キャンプファイヤーのような熱い炎をみんなで見つめる。ふざけ合い、じゃれあい、恋して、悩んでいるうちに過ぎ去っていく青い、青い、青い時間。何の衒いもなく真っ直ぐに投げ込まれた球がほろ苦い。

 このMVにはエンドロールがある。本編には出てこなかったスマホを手にした写真が何枚か出てくる。またロケバスに乗っている写真もある。つまり、このエンドロールは本編中で演じられた90年代の若者ではなく、この撮影に出演した彼らのリアルな姿を捉えたものだ。23歳の藤井風を含めた彼らは今青春の中にいる。しかしそれはもうエンドロールに近いのかもしれない。

藤井風は目で聴くミュージシャンだ。

 多くのミュージシャンはMVの中で誰か別人になることはあまりない。あくまでも本人として歌い、踊る。

 しかし、藤井風は完全に歌の主人公である誰かになり切ることができる。憑依型と言われるタイプの役者がいるが、彼もまたそのタイプなのだろう。その端正な顔を平気で茶化したり崩したりすることを厭わない彼は、映像ディレクターとしては思いっきり大胆に料理してみたい逸材だろう。

 いっそのこと映像から音楽に展開してみるのもいいかもしれない。イヤそれはやっぱり邪道かなw

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