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藤井風「燃えよ」は1粒で3度おいしい味変曲

ピアノ弾き語り「燃えよ」の温かさ

 9月4日、"FreeLive"で初披露された新曲「燃えよ」。YAMAHAの最高級ピアノから放たれるグルービーに煌く音色と、力強くもスモーキーな歌声が雨雲に向かってフワッと立ち昇っていく。

 この光景は奇しくも冒頭の歌詞とリンクしている。あのだだっ広い空間にたった1人という特殊なシチュエーションと降り止まない雨。普通だったら寂寥感と孤独を強調してしまいそうだ。

しょげた顔をひっさげて
石ころを蹴っ飛ばして
太陽が泣いてるよ
ほら見上げてみて

 だが、まるで太陽を内包しているような藤井風が、ポジティブにポジティブを重ね塗りしたような「燃えよ」を歌うと、そこだけに暖かな音の陽だまりが生まれ、誰もいない客席にまでその人肌の温度が伝播していく。 

 初めて聴いた「燃えよ」は、「旅路」の流れを組むような愚直なまでに優しいメッセージが伝わる応援歌。変わることのない藤井風の原点であり現在地。そんな印象が残った。

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配信された「燃えよ」音源の疾走感

 同日の夜、「緊急リリース!」といかにも”さっき決めました”的に配信された音源は、やわらかな温風ではなく凄まじい勢いの疾風だった。

 まずは晴れやかなストリングスからイントロが始まる。そこに響くドドドンッ、ドドドンッという不整脈みたいなドラムが心地よい緊張感を生み、まろやかな藤井風の声が寄り添うと、甘酸っぱい懐かしさが立ち籠めてくる。

 底の方で鳴っている「ポワンポワン」という音と「太陽に叫ぼ〜うよぉ〜」に重なる電子音のコーラスがYaffleらしい洒落たアクセントだ。

 そして、サビ頭の「も〜え〜よ〜!」でグッとギアチェンジすると、BPMが倍速の138になり、そこから一気に「行くぜっ!」とばかりにテンションが加速していく。まさに「ignite=着火!」だ。

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 体感的には、フルスロットルでハイウェイをぶっ飛ばしているようなスピード感なのだが、このBPM138というのは決してアップテンポではない。

 ランニングやドライブにオススメとされる曲のBPMは150〜180くらいのものが多く、例えば星野源の「恋」が158、BUMP OF CHICKENの「天体観測」が165、「うっせえわ」は178となっている。

 ちなみに藤井風の楽曲の中では「燃えよ」は最もBPMが高く「さよならベイベ(BPM132)」と同じくらいだ。車のCMに採用された「きらり」は意外にも117とかなりゆったり。

 決してテンポが早いわけではないのに、アップテンポ曲と同様、あるいはそれ以上の疾走感、高揚感が漲っているのはどういうことだ?

 これでもかと畳み掛けるように躍動するベース、ドラム、パーカッションのリズムパート、笑顔でグイグイと背中を押してくる音と声のエネルギーが、肉体の水分という水分を集め激流となって身体中を駆け巡る。

 それだけではない。恥ずかしいほどにシンプルな言葉が、ひしめき合う音の流れに溺れることなく真っ直ぐに押し寄せてくるのだ。この清冽な重みを全身に浴びることは、ある種、滝行のようなカタルシスなのかもしれない。

映像化された「燃えよ」は祝祭のカオス

 GooglePixelとのタイアップにより、全編最新モデルのスマホで撮影されたMVは、防水性能を見せつける水中撮影もふんだんに盛り込まれ、「カッコいい」ということの既成概念をひっくり返すようなハチャメチャな祭りだった。 

 お叱りを覚悟で書くが、全身真っ赤な衣装でフラついて歩く姿は米津玄師「フラミンゴ」?からの、日本人離れした濃い顔が潜水する「テルマエ・ロマエ」からの、パチンコCR小林幸子確変7を経由し、シャーマニズムめいたFoorinの「パプリカ」へ。さらにKingGnu「泡」からの実写版「ライオンキング」の雄叫び。

 なんだ?このカオスは?

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 一旦、屋上で”よくあるMVのように”カッコよく歌ったかと思ったら、アマゾンの奥地みたいなプリミティブな空間に戻り、火花がスパークする中でリミッターが壊れちゃったみたいな憑依的乱舞が繰り広げられる。

 そして、身も心も洗われて真っ白に生まれ変わった藤井風が爽やかな微笑でうなずいて終わる。

何これ?? 何コレ珍百景である。

 思わず笑ってしまった。この約4分半で腸内の悪玉菌が死滅して免疫力がグンっと上がったような気がする。

 このクソダサさすれすれのMVの凄いところは、すべてに躊躇がないことだ。思い切って言えば、もはや”すれすれ”ではなくダサい。それを確信犯的に堂々とやってのけている。狙い通りに。それが逆にカッコよく映る。

クールなフリ もうええよ
強がりも もうええよ
汗かいても ええよ
恥かいても ええよ

 まさにこの歌詞を映像化。トライバルな衣装は人間の根源を表し、あそこで覚醒し踊り狂っていたのは、抑制され、ビビリ、怠け、冷め切っていた自分の細胞なのではないか?

 このMVは精神にではなく「肉体」にくる。血流が良くなり体温が上がり発汗しカロリーを消費する。音源だけを聴いた時に感じた激流は、まさに血潮そのものだったのかもしれない。

まるで違う曲のような3つの味わい

 温かな風のようなピアノの弾き語り、ノリノリで駆け抜ける疾走感のある配信音源、そして、全身に力が漲ってくるようなエネルギーを発散するMV。

 残念ながら筆者は見ていないが、ライブツアーでのパフォーマンスでは、どんな味変を見せているのだろうか?

 同じ曲なのにまるで違う顔を見せる味変曲「燃えよ」は、藤井風のアーティストとしての底知れぬ表現力を証明している。


読んでいただきありがとうございました。

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