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俳句の鑑賞㊽


ていねいに木の影を掃く九月かな

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.99

季語:九月(仲秋・時候)

神社やお寺でしょうか、それとも、街中の歩道でしょうか。几帳面に道を箒で掃いている人がいます。そして、その道の上には、木の幹、枝、葉の影などがちらちらと映っています。
そして、まるでそれらの「影」を掃いているか、のように感じた作者。とても詩的な観点であります。

九月という季節、多くの木の葉は、まだ青々としていますが、桜の葉などは少しずつ落ち始めます。
残暑もありますが、秋の訪れを徐々に感じることができる、そんな時期。日々を「ていねいに」過ごしている人の営み、もまた感じられます。


引く波に音のなかりし秋思かな

村上鞆彦句集「遅日の岸」P.99

季語:秋思(三秋・生活)

海を眺めている作者。
海の色、波、波音に心身を委ねている間に、自分の世界に入り込みます。そして、ふと、再び、波の音に気付いたのでしょう。
その眼に映ったのは、引く波、そして、音が聴こえていなかったことに、少し驚きます。

まさに、秋思であります。


雲の峰サンドバッグに音溜まり

津川絵理子句集「夜の水平線」P.112

季語:雲の峰(三夏・天文)

サンドバックを叩くといえば、ひと昔前までは、スポーツ選手でなければ、ほぼ男性でしたが、最近は、女性にも気軽にキックボクシングや、ボクシングエキササイズをする方が増えています。

力強いジャブでしたら、音も外に弾ける気がいたしますが、非力なジャブですと、音が籠るようにも思います。
サンドバックに音溜まり、の措辞に、懸命にジャブを打っている女性の姿が浮かびました。
窓の外には、雲の峰。迸る夏の汗も見えます。


白南風や回して伸ばすピザの生地

津川絵理子句集「夜の水平線」P.113

季語:白南風しろはえ(晩夏・天文)

生地をくるくる回して、見事に丸く伸ばしていくピザの職人さん。その技に見とれている作者なのでしょう。
吹いているのは、白南風。憂鬱な梅雨が明けた、明るい空が見えます。

焼き上がったピザは、格別だったに違いありません。


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「南風」村上主宰と津川顧問句集の「俳句鑑賞」の経緯はこちらの記事に。
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