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紫乃のとっておきnote

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忘れたくない素敵なnote。
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記事一覧

椿の雫よ、その愛しき存在よ

椿の花が乱れ咲いたころ 椿の花々の間から 零れ落ちるように まるで椿の露を集めたかのように 現れた生命体 息を呑むほど美しい 漆黒の髪に深紅の唇 瞳は二粒の黒曜石 肌はそう 椿の雫と同じように透明で 私はその生命体を「椿姫」と名付けて愛でることにした ところが当の椿姫 私が「椿姫」と呼び掛けたとたん その名は気に食わぬと 私を黒曜石の瞳で睨みつけた 何が気に食わぬと言うのか こんなに美しいあなたには最もふさわしい名だと あなたを愛でるために付けた名だというのに お主わ

【#あなスパ】兎と犬と鳥と神

noteで配信されている人気ラジオ番組、『すまいるスパイス』が3周年を迎えられます。 その記念企画である、リスナーが心に残った放送を投稿する『#あなスパ』。 素敵な回、貴重な回、恐れ多くも自分の名前を出していただいたありがたい回(『推しについて話そ?』はありがたすぎてもはや別腹)がある中、それでもひとつを選ぶとしたら、白鉛筆はやはりこちらを挙げます。 紫乃さん(現在は卯月紫乃さん)がパーソナリティーを務め、ゲスト二人の創作に纏わるあれこれを掘り下げるコーナー、『創作につい

未完の美 3

前回の「未完の美」の記事のコメント欄で「これからもちょいちょい公開します」と言ったのに、気がついたら一年半も間が空いていた。 というわけで、一部の方に人気の、描きかけの状態の絵。未完だからこそ得られる何かがある(はずの)絵を公開する。 最近、絵の投稿が多いと思われるかもしれないが、特に物語に行き詰っているわけではない。むしろ書きたいことは溢れていて、早くアウトプットしたくて仕方がない。ただ、物語を始めてしまうと、間に他の記事を挟むのを極力避けたいという気持ちの方が大きいので先

新年のご挨拶に代えて 鳥の絵を載せるだけの日 24

日本から遅れること半日以上。私の住んでいる場所(もちろんマカニの村)もようやく年が明けた。 自然災害は時を選んでくれはしないけれど、2024年が皆様にとって自分らしく羽ばたける年となりますよう願いを込めて、まずはご挨拶がてらこちらを。 こちらも過去絵ではなく、新年のご挨拶のために描いたものである。 オオミミヨタカはドラゴンの子供のようだ、と言われている鳥。こんな鳥が実在するのだ。 ではでは本題。 ひとつでも気に入っていただける絵があると良いなあ。 『違和感』イヌワシ Go

鳥の絵を載せるだけの日 23

物語の方の謎が今篇も無事に解かれたので(まだ終わってはいないけれど)、この辺りで一度「鳥の絵を載せるだけの日」を挟むことにする。 今回はここには載せないけれど、この裏でも本の装丁や挿絵やその他ご依頼などで沢山絵を描いている(私はあくまで素人なのでこれはとても有難いこと)。新たな試みの習作もいくつか描いたのだけれど、それらもまた次回。 絵を描き続けることができることがとてもしあわせ。 もちろん、見て下さる皆様には最大限の感謝を。 『夜が来る前に』 イヌワシ Golden ea

【短編】紫信号

優しさなんてわからない。最初から見様見真似だ。 幼稚園で年少の子が泣いていたとき、頭をよしよししてあげたことも。 小学校でブスとからかわれた子を、「そんなことないよ」と励ましたことも。 中学に入り初めてできた彼氏に応え、毎日お弁当を作ったことも。 こうするのが「優しさ」だよね。周りの大人や同年代、テレビドラマや漫画の世界。そこで繰り広げられる悲喜交々を注意深く観察し、正解らしきものをコピーすることで、私はそれを実現してきた。 だって、それしかない。 お父さんもお母さん

『その四文字』ー詩ー

あなたが私に 最後に言った言葉で 流れる涙を拭きました 思い出したように 取りに来るかも しれないから 丁寧にアイロンを かけておきます 綺麗好きなあなたは こんな私を誇りに思うはず 出会った頃の あなたの言葉は ローズの香りがして 小さな独占欲に負けた私は 机の引き出しに 折り畳んで入れました 時にはそれを広げて頬にあててみたり 私は少女のような気分になりました 『さよなら』という四文字は これ以上沈めないところまで 私を引きずり 思い出のにおいも 奪ってゆきました

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瞳のつくりかた2

昨年『瞳のつくりかた』という記事を書いた。 コメント欄で瞳の描き方について質問をいただいたからだ。 これは基本の瞳の描き方だったので、今回『瞳について語ろう3』を書いた後、瞳の中に風景を仕込む場合の描き方を記事にしてみようと思った。 前回、この手順を見て実際に瞳を描いて記事にして下った方もいたので、ご興味のある方は是非三連休(@日本)のお供にどうぞ。 1.はじめに、瞳の外枠を決める。ここがスタート 2.瞳に仕込むものを決めて黒い色鉛筆でアウトラインを薄く取る 3.瞳孔

瞳について語ろう 3

おつき合いの長い方は、私の「瞳」へのこだわりをご存じなはずである。 中には反対に見て下さる方の中に「鶫の瞳マニア」を名乗って下さる方も数名いらっしゃるくらい。 私の絵はリアルに見えて実はファンタジー。 元々は気がついてくださる方だけ気がついてくださればいいと思っていたのだけれど、解説編を楽しみにして下さる方も居るので時々こうして種明かしをすることにしている。 幾つ見つけられただろう? まずは基本の瞳をおさらい やや特殊な瞳 朝焼けの空 こちらは控えめな空 こちらも少

鳥の絵を載せるだけの日 22

数カ月前、普段は受けていない絵の依頼を引き受けた。 依頼主は、昨年大切な鷹を病で亡くされた鷹匠さん。私が絵をネット上で公開し始めて以来、長らく応援してくださっている方だ。 「未だにずっと立ち直れなくて、でも、大好きな絵を描かれる橘さんに絵にしていただければ立ち直れる気がするんです」 私は自分が好きで絵を描いているのだけれど、そんな風に言ってくださる方がいらっしゃることに驚くとともに、自分の絵が誰かの心を動かすことがあるならば、こうしてこれからもネット上で公開し続けようと思った

モチヤモチヤ

みたらしだんご。 手で餅を一つ一つ丁寧に丸めて、串に刺す。炭火でこんがりと焼いたそれには、まだ熱いたれがたっぷりかかる。 その店の小さなショウウインドウに並べられて、うっとりと光る。だから、瞬く間になくなっていくのだ。 株式会社オーノ。今の私を幸せにしてくれる会社。グーグルで探しても、絶対出てこない会社。 今日は、そのお話をちょっとしてみたいと思う。 ◇ この小さな町に帰ってきた時、私はきっと負け犬だったんだと思う。 仕事を辞めて、食べたいものも食べなくなった。着たい

彼女は私のものだった【恋愛オムニバス短編集】

あらすじ <電車に乗り込むマーシャのうなじが恐ろしく細いこと、本当はバーで気づいていた。私を見ている彼女の視線を。私は、そういうものを無視して生きられると思っていたのだった―――。> 年齢を偽りマッチングアプリに登録する母親、美雨。母一人子一人の生活に困窮し、パパ活をはじめ―――。冷蔵庫を愛する女、理香子。ありとあらゆる食品を口に詰め続ける姿を同級生の名本くんに見られてしまう―――。「お前の飯はまずいね」。たった一人の育ての親に虐げられた生活から抜け出して8年、東京から帰っ

鳥たちのさがしもの 21.5『孔雀のわすれもの』

-孔雀のわすれもの・失われた時間-  一色がわすれものを取りに体育館へ戻ると、蘇芳孔雀がボールを触っていた。今日は朝から彼らの卒業式があったため、この体育館にも紅白の垂れ幕が下がり、パイプ椅子が並んでいた。先ほどようやく一色ら若手の教員がそれらを撤去し、通常の装いを取り戻したところだった。  多くの卒業生は証書を受理し、午前中のうちに学校を後にしていた。未練がましく居座っている者もいるが、昼食時を迎えた今、そうした連中もじきにいなくなるだろう。そんな中、他でもない蘇芳孔雀が

【掌編】晴れ、時々方程式。

世の中にある問題のほとんどは、人の思惑と思惑のすれ違いの結果だというのが俺の持論だ。 問題に巻き込まれたくないならば、思惑の違う人とは距離を置けば良い。しかし、そんな簡単なことができない人が多すぎるのだ。 クラスが同じだから、部活が同じだから、というだけでは理由にならない。距離の取り方は色々とあるだろう。それなのに、同じ集団に属しているからという理由だけで、なんとなく皆が等しく分かり合わなければならないという空気が世の中にはある。 人間は話せば分かり合えるものだと、なぜか大半