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風ニモ 火事ニモマケヌ フクギ

雨ニモマケズ 風ニモマケズ
で始まるのは、詩人・宮沢賢治の遺作。フクギ(福木)の場合は少し違う。

風ニモマケズ 火事ニモマケズ

 沖縄の古い集落には、フクギで囲われた民家が連なり、特有の並木風景を作っている。直立した幹に分厚い葉が密集し、縦長の樹形をつくる姿が特徴的。一見して見分けやすい木で、知名度も高い。

 台風の常襲地帯で、強風や潮風から家を守っていることは想像しやすいが、実際には火事の延焼を防ぐ「防火樹」としての役割も大きかったといわれる。水分を多く含んだ葉が、深緑色の壁のように茂る特性は、隣家が燃えた時に火が燃え移るのを防ぐのに最適なのだ。奄美では、火事木を意味する「クワジィーギ」の呼び名もあるという。

 しかし、火事の減少とともにフクギの生垣も減り続けている。生い茂る葉は家を暗くし、蚊の増加要因となり、木が大きくなりすぎて困る話も聞く。フクギは次々と撤去され、コンクリート塀に取って代わっている。今なおフクギ並木がよく残るのは、本部町備瀬(もとぶちょう びせ)や、瀬底島(せそこじま)、今帰仁村今泊(なきじんそん いまどまり/記事中写真)、国頭村謝敷(くにがみそん じゃしき)、粟国島(あぐにじま/上写真)、渡名喜島(となきじま)など、一部地域に限られる。

 阪神大震災や東日本大震災では、多くのコンクリートブロックの塀が倒れて人的被害も出た一方で、街路樹や生垣が建物の倒壊や火災の延焼を防いだ例が多数確認されている。いつ大地震が起きてもおかしくない沖縄で、フクギ並木の減少は何を意味するだろう。

 宮沢賢治の遺作には続きがある。フクギの場合は、「雪」を「潮」(しお)に置き換えて紹介しよう。
 
潮ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
欲ハナク
決シテ怒ラズ
イツモシヅカニワラッテイル

(後略)

※この記事は琉球新報に折り込まれる副読紙「週刊レキオ」に2023年6月29日に掲載された連載記事「葉っぱで分かる木々明解」(上画像)を一部改変して再掲載したものです。

【並木】フクギは中国名の福木が名の由来と思われ、フィリピン〜八重山諸島が原産。フクギ科の常緑高木。

【葉】濃い緑色の小判形で厚く、枝に対になってつく。側脈(横に伸びるすじ)はぼんやり見えるのみ。よく似たテリハボクは、細かく平行に並んだ側脈が多数見える。

【花】薄黄色で径1cmと小さく、4〜6月に咲く。テリハボクの花は白色で径2〜3cmと大きく、6〜8月に咲いてきれい。

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