取り急ぎ6,000字の愛

私が、
ある1人の歌手に惚れ込み、
恋に堕ちた日からこれまでのことを

いつかうんざりするほど歳を取って 
大切で抱き締め続けたい記憶が
黄ばんでしまう前に

ここへ記そうと思う。


milet(ミレイ)


デビュー当初はどこへ出るにも怯えた子鹿のような瞳をしていて、笑顔を見せることの極端に少ない子だったように記憶している。
今の騒がしく愉快なマシンガントークからは想像もできないほど、ラジオ越しの声ですらも常にいくらか抑えているような印象であった。


2021年3月11日
決定的に私が彼女に恋に堕ちた日。

堂々と右手にマイクを握りしめるその立ち姿は
デビューして間もない頃の彼女からは想像もできないほど歌手らしく

あどけなかった黒髪の少女は
その端正な顔立ちや髪の色は何一つだって変わっていないのに
まるで別人のように
紛れもない大人の女性だった。

瞳の奥に透かしていた警戒心や拒絶なんかは
かなり薄らいだように雰囲気は柔らかく、
それでいて何か心を決めたように真っ直ぐカメラの先を見つめる彼女から
目を離すことができなかった。

彼女があの日、どれだけの想いを抱えてステージに立ったのか私たちには分かり得ないが
多くを語らなかったその後からも
胸の内に秘めているものは大きかったように感じた。

いつもは探るように歌い始めて、
サビやその直前の山場を乗り越えると、
まるで水を得た魚のように
アウトロまで失速することなく、
のびのびと歌い切る。

そんなスタイルが多く見られた彼女だったが、
その日は歌い出しから
まるでライブ中盤のような喉の開き具合であった。
あまりに力を込めるものだから、
サビのファルセットが上ずる場面はあったが
それすらも超越するその気迫に息を飲んだ。

テレビ歌唱ではそれまで
身振り手振りの大きい方ではなかった。
肩幅に収まる程度しか動かなかった彼女が、
何かと闘うように
強く強く
横へ何度も空(くう)を振り払った。
鬼気迫った表情と
圧巻の身のこなし、
そして
あの細い身体のどこから湧いてくるのか不思議なまである声量と、
ハスキーで厚みのある発声。

婉曲だが
絶望や裏切り、その裏にあったのだろう期待
人が胸の奥底で抱えた縦横無尽の闇を
細やかに、詩的で情緒的に
そして悲痛に表現した歌詞。

この曲が私の全てだと思った。

金縛りにあったようにその場を動けず
一瞬たりとも彼女から意識を逸らせなかった。



人は恋に落ちる時、
限りなく無抵抗だ。

音よりも速いスピードで
その恋にのめり込んでいくのを感じた。


それからの私といえば
寝ても覚めてもmilet、
miletを中心に回る生活が長らく続き
今思い返せば割と頭がおかしかった。
初恋よりも初恋然としていて、
彼女の存在が私を形作っていたように思う。

楽曲然り彼女の人柄然り、
朝から晩まで、
端から端まで愛おしく
初めて無償の愛を学んだような気がした。
見返りを求めるなんて烏滸がましい。
ただ少しずつでも彼女が毎日幸せでいてくれたなら、
ただそれだけでいい。
むしろそれだけがいい。


人を愛し愛されるということを知らなかった私に
彼女はそのどちらも同時に与えてくれた。

親に懇願してファンクラブmilesに入会し、
radikoにも課金して隔週のmusic freaksをリアルタイムで視聴し、
Twitterで大暴れし
テレビ番組もくまなく録画。
ひとつにつき15回ほどは見返す。

脇目も振らず、
馬鹿になる程
彼女に夢中だったあの頃
私は頭がおかしくて
同時に果てしなく満たされていた。

元来、自分の為に生きられるほど器用でもないのに
他人を生き甲斐に出来るほどの余裕もなくて
八方塞がりだったその頃の私の前に、
突如として現れたmiletは
唯一の生きる希望となったのだ。

そして猛スピードで彼女を追いかけ回すようになって4ヶ月ほど時を経て

私は
液晶画面を跨がずに
彼女の声を聴けることになった。

SEVENTH HEAVEN。
7th EPのリリースと第七天国の意を掛けたそのツアータイトルにすらも
彼女の聡明さと愛情深さが滲み出ていて
胸が高鳴った。

コロナ禍で延期に延期を重ねた三度目の正直のツアーへ
後方ながらも参加できることが堪らなく嬉しくて、
部活やクラスの友人たちに自慢して回った2021年春。

そういえばmiletちゃん、きっとあなたは覚えていないけれど、
その年のラジオで
「はるちゃん!チアダンスの全国大会、がんばってね!緊張すると思うけど、私の音楽で背中を押せたらいいな。それでは聴いてください、miletでFine Line」
と初めてのリクエストを丁寧に拾ってくれたんだ。
人は嬉しさが振り切れると胸が痛くなるんだって初めて知った。
甘くて澄み切った空気の桜並木を毎朝駆け抜けた、
miletちゃんの歌声を聴きながら毎朝歩いた
高校3年生の春の香りを
今でも鮮明に思い返すことができるよ。

そんな最高に甘い春を、夏はすぐさま追い越すものだから
私はあっという間にその日を迎えた。

2021年7月22日。
バンドの音と共に、
幕を挟んだ向こうで影だけを映した彼女が
Again and againのサビでその姿を表したあの瞬間を、
きっと私は死ぬまで忘れることが出来ない。

私はこの日の為に生きていたんだ。
大袈裟でなくそう思った。

いわゆる沼曲では
あちらの世界にこちらが引き摺り込まれてしまうほどに狂気じみていて、
曲次第で彼女は世界を凌駕すると確信したのもその時だったように記憶している。
inside youやusなどメディア露出の多かった楽曲は飛び抜けて安定しており、
それに加え特にinside youは
恋に落ちたあの日を彷彿とさせるほどに
籠るものが桁違いであった。

そして
Again and againと並ぶほどに胸を打たれたのが
You & I。

彼女自身も
「あそこでねー、よく感極まっちゃうんだよね。ローレンのコーラスも相まってさ」
と話すブリッジ部分。
ローレンのしなやかで透き通ったコーラスの一音目を合図に
瞬時としてミラーボールの輝きが会場を覆った。

大きく腕を広げてもなお小柄なmiletの背中が
あまりに広く、同時にいじらしくて…

その瞬間、
私はこの子が目一杯に伸ばしてくれるその手を離してはいけない。
この子が表舞台を退くまで
全身全霊、
milesでいよう。
そう誓った。

私1人なんかの力で
彼女の目を通して見える世界は変わらないに違いない、
そう一歩引いて現実を思う反面、
束になれば
恋心に従い愛を叫び続けることが
彼女の原動力になることもよく知っていた。

愛するというのは、
そういうことなのだと
今も昔も信じてやまない私だから
これだけの熱量を保持して
長文を認めている。

その夏以降、
オリンピックでの歌唱、
オリンピックテーマソング書き下ろし、
更にのちには3年連続紅白出場など
彼女は文字通り目覚ましい活躍を遂げた。

こちとらオタクなので顔色や顔つきを見ればおおよその疲弊具合は想像できる。
2021年の夏頃などは、今に倒れるんじゃないかと本気で冷や冷やしていた。
それでも活動中、なお一切の弱音を吐かない彼女へ膨大な心配を募らせた日々もあったことを思い出す。
過度な心配は本人に悪影響を及ぼしかねないと見た私(たち)は、
頻繁には口に出さないものの、
かなり彼女の身を案じていた。
これは憶測の域を出ないが、
元からフィジカルメンタル共に強いわけでは無さそうだ
というのがことさら心配を掻き立てた。
しかし彼女は涼しい顔を模ったまま
怒涛の夏を終える。

(後にblogで正直な当時の状況を明かしてくれた。課金コンテンツなのでここには明記しないが、嘘偽らない彼女の姿勢に一層惚れ込んだ次第である。)

その後、
フェスやツアーで全国津々浦々を飛び回り
数々の映画主題歌やドラマ主題歌に抜擢
更には海外進出も果たし、
気づいた時には
武道館ライブが決まっていた。
しかしそれももう半年以上前の話であるわけだから
時の流れはあまりにもせっかちだ。


律儀に全編を振り返るととんでもない長さになってしまうので、
掻い摘んでツアーの感想を述べようと思う。

まずはvisions。
(私が参戦したのは埼玉公演と東京公演。)
アルバム発売前という異例の状況下で開催される事となったが、
それをものともしない彼女の秀でた歌手としての総合力に脱帽した。
というのもコロナ禍以前のライブでの彼女といえば
まるで動かない、ほぼ地蔵のようなスタイル。
まだ荒削りな歌唱力と場数の少なさも相まって
あまり安定しない日も間々見られた。
言うまでもなく、あれはあれで初々しく愛おしいのだけど。

それがどうしたものか。 
溝にハマったら根本から折れそうなピンヒールを履いて
ステージの端から端まで動き回る。
つむじから爪先までダイナミックかつ繊細な身のこなし。
弾ける笑顔と
自由自在なアレンジ。
完全に緊張もほぐれて不自然に締まっていない喉。
どこを取っても、到底同一人物とは思えないパフォーマンスであった。
技術は明らかに向上していながらも
愛情深く心優しい人柄、想いのストレートさ、時々見え隠れする過去の暗い部分…

そういった根幹は揺るがない彼女に
私はもう何度目かわからない恋心をぶり返した。

続いてUNZEPP、ホールツアーとは一味違うあの団結感。
声出しの全面的な解禁はされていないが
少し前まで想像もできなかったような密具合。
幸福が凝縮されたあの空間で聴いたレッドネオンの音色を、私はいつまでも覚えているに違いない。


けれど同時に、覚えていることの方が少ないほど、その頃の私は憔悴していた。
夏から長く体調不良が続いており、
自分の全てだったダンスすらも諦めることになり
膨大な時間と費用を投じて治療に専念するも
回復の兆しは無く、
「死にたい」
を超越して
「死んでしまう」
という恐怖すら感じていた。


けれど人間は案外しぶとくて、そう勝手には死ねないから
私は明日こそ死ぬんだと何度も心を決めた。

遺書も用意して
身辺整理もして
限りなく確率の高い死に方を検索し尽くして。

それなのに私が小心者だから
致命傷には至らなくて
私に残ったのは過量服薬による幻虫のトラウマと一時的な記憶障害と無数の生傷だけ。


だから
その頃のmiletを
私は全く思い出せない。


これからもその記憶が息を吹き返すことはないだろう。


それでも私は、
こうして彼女の元に戻って来られた。

同時に、彼女も私から離れなかった。
ありがとう。

這いつくばるように何とか参戦したUNZEPPも、
jamなんかとは正反対に75%カカオくらいの調子で
日によってはたまに舌をつくような後味がするけれど
今の私はその苦味を楽しむ強さと余裕すら持ち合わせている。

とてつもない進歩だ。

生きているよ、私。

miletちゃんが生かしてくれたんだ。

本当に本当にありがとう。
ありがとうのその上の言葉を持たない自分が悔しいくらいだ。

あなたが歩いてきた夜道とはまた違うものかもしれないけれど
街灯の一つもない暗闇を歩くのって、
吐きそうになるほど不安だよね。
泣き叫びながら、座り込みながら
それでも歩き続けたあなたは世界の誰よりも強いんだ。
その道の先に私たちが居られたことが
どうしようもなく有り難くて誇らしくて、
簡潔になんか纏められない。
だからこうやって、小分けに激重なラブレターを渡すね(笑)。


miletと共に人生を再スタートして間もなく
武道館ライブの開催が発表され、
瞬く間にその日を迎えた。


久々に良好な体調でのライブ。
健康第一!!!!と彼女から言われるたび
「すまん万年不健康で……」と申し訳なく思う気持ちもない、晴々しい5月21日。

もう多く語ることすら躊躇うほど、
永遠にあの鮮度のまま心の奥底に取っておきたいと願うほど、
全てが至高だった。

20年間、私が浅く呼吸し続けてきた世界は、
生きていてよかった、なんて軽率に口走れるような澄んだ空気が通う場所ではない。
澱んでいて、霧がかっていて、息が詰まる。

それなのに貴方に会う日だけは自然とうまく呼吸ができて
都心の空気ですら柔らかく、浄化されたように感じるの。

あなたが居なくなったら、私、呼吸できないかも。
重いよね。
大好きだから、
余計な言葉で貴方の荷物を増やすことはしたくないのだけど、
それくらい想っているよっていう
あくまで比喩表現として
受けってくれるかな。


欲を言えばこの先永遠に、
めいっぱい綺麗な空気を吸っていてほしいけれど
やっぱり人生そうトントン拍子には行かないこともあるから。
そんな時、不純物を極限まで取り除いてあげたい。あげたいっていうとなんか違う気もするけど。取り除かせて?…(笑)

miletちゃん。
もう3年くらい大勢の中のただ1人のファンでしかない私だけど、miletちゃんがその瞳で見据えた景色の中に居ることが出来て、本当に誇らしい。
人を愛するということをあなたに出逢って初めて知りました。
見返りなんて要らない、ただただ毎日少しずつでも幸せで居てほしい。そう純粋に応援し続けられたのはmiletちゃんの人柄ゆえです。そして何よりmiletちゃんの曲たちは、病める時も健やかなる時もいつだって私の隣に居ました。私を形作ってくれました。miletちゃんはあまり過去の事を口にしないけれど、きっと私たちが想像もできないような過酷で哀しくて…そんな時期があったのだろうなと今日のinside youとそのMCを聴いたら改めて胸が痛くなって、息が詰まった…少しでも私に、miletちゃんを幸せにさせてほしいな。こうしてメッセージを送ったりライブに行く事くらいしか出来ないけれど、ずっとそばに居るよ。miletちゃんがいつもそうしてくれるように、この声が枯れても愛を叫び続ける。どんな道を歩いて行こうとも、あなたが決めた道なら、信じて静かに後ろを着いていく。だから安心して好きな道を選んでいってね。あまり追い込みすぎずにね。
愛してるよ。
最高のライブをありがとう。
最高の人生をありがとう。
あなたと同じ時代に生まれて来られたこと、
あなたの音楽を毎日聴けること。
あなたに関わるすべてのものに感謝しているよ。

最後に

出逢ってくれて、本当に本当にありがとう。
末長く宜しくね。

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