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世界中何処にいても同じ空気と空を眺める。

海外生活
日本から遠く離れた土地で、少し懐かしい気持ちになっていた。

幼少時代、母の自転車に跨り買い物に出かけたあの日のことを思い出す。
小さな籠の後ろ、特等席は妹が乗り、僕は後部座席が専用席。
思いっきり顔にかかる夏風がひゅーっと抜けていって、鼻に残る夏特有のあの匂い。
皆で歌を歌ったり、色々な話をしたりそんな時間が幸福のときだった気がする。

スーパーへ行くためにはあの魔の坂道を駆け下りていかないといけない。
超急勾配の坂道が近づくと、僕らは胸が高鳴ってくる。
ドキドキとまるで胸を破裂し、心音が外まで聞こえて来るほど僕たちはエキサイティングしていたんだ。

ビューンと凄まじい勢いで駆け下りると、風は更に顔を洗ってくる。息ができない程の風達は僕たちの笑い声をかき消していた。

あの懐かしい風の匂いが
僕の住む学生寮の部屋に入って来た
聴いていた音楽を止めて、イヤホンを乱雑に放り投げる
無性に外に出たい気持ちに駆られて、僕は一目散に外へ出た。
日本とは大きく異なる風景なのに、そこには僕が好きだったあの場所となんら変わりがなかった。

どのくらい歩き続けたか忘れた

ただ僕は一歩一歩地面を踏みしめる事に
僕の幼き思い出を思い出す。
あの時の風景、笑い声、皆で食べたシャーベットの味
蜃気楼になってモヤモヤとした向こう側を歩けば
あの場所へ続いている様な感覚になっていた。

風も匂いもその全てがあの場所と変わらなかった
何処からか聞こえてくるラジオの音声
近所のおじさんたちの話し声、笑い声
その全てが違うのに、僕はあの場所に立っている
そう錯覚せざるを得なかったのだろう。

僕が今見上げているこの青空は
貴方の場所では夜だろうな。
でもこの空気もきっと貴方が感じた空気と同じものだ
何処にいても、遠く離れても
ずーっと繋がっている。

その記憶の断片を一つ一つ拾い上げている内に
遠くまで来ていた

バスを拾って更に遠くへ行ってみたくなった
目的もない、宛もない
ただ遠くへ、もっと沢山風を感じるために
もっと沢山思い出すために
僕は後部座席に座り、窓をガラッと開けて
心地の良いカラッとした海外特有の風を全身に浴びたかった。

ビーチも、街も全て通り越して
道行く人々を眺めて、何処までもつながる道を
ただ只管進んでいく。
まるで映画を眺めるかのようにその景色を目に焼き付けた

日が暮れ始め爽やかな空気がバスを包んでくる
僕は一度バスを下車して、辺りを見渡した。
殺風景な景色と蜃気楼に包まれた道はまだ続いていた
今度はぐるっと回り道をして、ゆっくり帰ろう
沢山店を眺めて、沢山満喫しよう!
僕はより一層心を踊らせていた。

あれこれ時間が過ぎ去り、美味しいお菓子も買い込み
再びバスに乗り込んだ。
昼間と違って夜風が気持ちが良かった。
大汗かいた後のお風呂。そういえば子供の頃はお風呂に入ったあとよく皆でドライブに行ったんだっけ?

マクドナルドで買い食いなんてしちゃったり、ちょっと悪い事しちゃった気持ちになってw
ちょっと大人になった気がしていた。

だから途中下車。
僕はマクドナルドへ行って大好きだったチーズバーガーを買い込んでまた乗車する。

窓から差し込む草の匂いの混じった夜風。
僕は一口口に頬張り目を閉じた。
その一口がまるで僕をあの頃に戻してくれた、そんな感覚になった。罪悪感を感じる必要のない。僕はもう学生だもん。

ガヤガヤと聞き覚えのある声
ああ、またうるせえ連中が乗ってきたぞ?
僕の真隣に座る3人組。
僕の寮の連中だ。
しきりに僕のポテトを強奪し始める。

やれやれ、折角懐かしい気持ちになれたのに
これじゃ全てが台無しじゃないか
僕は意地悪にそいつ等の肩を小突いて見せた
皆で笑いながら食べるハンバーガーも美味しかったんだ
その思い出もまた時間が経てば思い出すんだろうな。
そうやって人間は思い出を作っていくんだ。
そしてふと思い出す、楽しかった思い出

ずっと続いていた道も
いつしか見覚えのある僕らの住処へと運んだ
馬鹿笑いしながら、夜道を歩いて
いつしか沢山歩いていた

どんなに離れてもいつかは帰って来る。
時が来ればまた皆が集まる
思い出の場所へ
どんなに離れていても、僕たちは永遠に離れることは無いのだろう?
きっとこの中の誰かが思い出してくれるだろう。


時が過ぎ去っても
たとえ遠く離れても
記憶は繋ぎ止めてくれている
それは地球の裏側にいても同じことだろう

君達はこの空を眺めているかい?
皆で吸ったタバコの煙を覚えてる?
ここよりも遥かに寒いあの土地で
煙はゆっくりと形を変えて、空に消えていった。

僕を思い出すときは
僕も思い出している
全ては全部記憶の片隅に置いてあるから
記憶の断片は誰かが持っている
その断片をまたつなぎ合わせる日が来ることを
いつも心待ちにしてる僕がいる。

長い事ずーっと
これからもずっと

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夏の思い出

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