Step Across the Border

表象批評。映画、音楽、美術、デザインあたりを横断的に。「境界」を見つめていたい。AIに…

Step Across the Border

表象批評。映画、音楽、美術、デザインあたりを横断的に。「境界」を見つめていたい。AIには書けないことを書くのが裏テーマ。

最近の記事

スティーヴ・アルビニに続く才能は、あまり見当たらない。

スティーヴ・アルビニ逝去。享年61は早すぎる。ミック・ジャガーやイギー・ポップがあんなに元気にピンピンしているのが、恨めしくなるほどだ。 小野島大氏は、以下のように指摘する。 1986年において、アルビニ率いるビッグ・ブラックの『Atomizer』と、ミニストリーの『Twitch』が、同種のノイズを鳴らしていたのは、ロック史の重要なトピックだと思う。 "Kerosene"の4分46秒~と、"Where You at Now? / Crash & Burn / Twitc

    • ドラクロワを模写していたというミステリー。『マティス 自由なフォルム』

      国立新美術館でのマティス展。昨年、東京都美術館で回顧展があったので、またですか?という感じではある。昨年の展覧会のレビューは以下。 大きな違いは、昨年はポンピドゥー・センター、今回はニース市マティス美術館の協力ということ。後者は、切り紙絵のコレクションが充実しているそうで、それに関連した展示が多かった印象がある。日本初公開の大作《花と果実》が話題だ。 みんな大好き《ジャズ》も再登場。《ジャズ》のオリジナルは、1947年に270部限定で刷られたというので、昨年とは別のシリア

      • 自問には意味はあるが、そこで終わっては意味がない。『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』

        本日(5/12)終幕。出品者の飯山由貴が、内覧会でイスラエルのガザ進攻に抗議し、美術館の支援企業を名指しで批判したことでも話題となった。 タイトルの『ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?』は、ドイツの作家ノヴァーリスが、18世紀末に書き記した以下のような文章に依拠している。 国立西洋美術館は、「現在」ではなく「過去」、「東洋(日本)」ではなく「西洋」の作品が集められている。そのような収蔵品に、現代を生きる日本のアーティストの作品を組み込んで展示した。

        • 人間の営みは静謐である。『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』

          没後50年記念の回顧展。木村伊兵衛について、「日本のアンリ・カルティエ=ブレッソン」と称するのは、少し強引だがあながち間違いではない。1954年のヨーロッパ取材時、実際にパリでブレッソンと面会を果たし、親交を結んでいる。木村は、念願だった渡欧によってむしろ志向に迷いが生じてしまったそうだが、ブレッソンとの語らいによって、自己の進むべき方向をあらためて見出したという。その折に木村がブレッソンを撮ったショットは、ブレッソンのWikipediaで掲載されているもので、会場でも展示さ

        スティーヴ・アルビニに続く才能は、あまり見当たらない。

          やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

          2023年11月にリニューアルした三の丸尚蔵館。2024年6月まで、4期に分けて記念展『皇室のみやび―受け継ぐ美―』が開催されている。当館に収蔵された名品を順次紹介するコレクション展シリーズであり、再出発にあたって、まずは景気付けといったところか。 ずっと行きたいと思いつつ、なかなか足を運ぶことができていなかったが、ようやく第3期(5/12マデ)に駆け込むことができた。 ”近世の御所を飾った品々”と銘打たれた第3期。日本における「近世」は、一般的には豊臣政権の頃を始点とす

          やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

          生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

          13年ぶりに来日を果たしたディープ・ハウスのレジェンド。東京・青山のVENTにおけるラリー・ハード(Larry Heard)のDJセットは、まさに「一生もの」と呼ぶにふさわしい音楽体験だった。 シカゴ・ハウス~アシッド・ハウスのみならず、ガラージュ、ジャズ、アフロが渾然一体となった一大音絵巻。それはディープ・ハウスの多様性を詳らかにするものであり、総体としては、ブラック・ミュージック以外の何物でもない。 4つ打ちが基調だが、シンコペートするハネ系ビートが頻繁にかぶさる。と

          生気と色気に満ちた、夢のような3時間超──ラリー・ハード来日

          【過去原稿】コルトレーン特集への寄稿──コルトレーンはロックだった!? COLTRANE’S INFLUENCES ON ROCK(2006)

          『PLAYBOY』日本版(2008年休刊)は、ときどき硬派なジャズの特集をやっていた。2006年3月号のコルトレーン特集に寄せた原稿をここに再掲する。編集部からのお題を受けて、ジャンルを超えたコルトレーンの影響力を考察したものだ。 今、読み返すと、内容がいささか古くなってしまっているのは否めない。とはいえ、取り上げたアーティストはかなり広範に及び、手前味噌ながらけっこうレアな論考になっていると思う。この内容が、集英社の月刊誌に掲載されたのだから、古き良き時代だったと言ってい

          【過去原稿】コルトレーン特集への寄稿──コルトレーンはロックだった!? COLTRANE’S INFLUENCES ON ROCK(2006)

          『夜明けのすべて』は贈与の映画である。

          藤沢(上白石萌音)はPMS(月経前症候群)、山添(松村北斗)はパニック障害を患い、それぞれ生きづらさを抱えている。ああ、そっち系? その種のドラマは正直あまり好みではない。序盤、藤沢のナレーションが延々と流れ、なんだか説明的だな、とさらに警戒を強めたほどだ。監督の三宅唱がインタビューで明かしているとおり、彼の過去作ほど各ショットは作り込まれておらず、自然なフローが意識されているためか、とっつきやすい反面で画面の強度はそれほど高くない。しかし、結論としては、三宅らしい凛とした余

          『夜明けのすべて』は贈与の映画である。

          【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)

          ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、4枚目。 ひとつ問題提起をしてみよう。そもそもアート・ブレイキーのドラミングに、ハード・バップ~ファンキー・ジャズの器はふさわしいのだろうか? なにをバカな、と思われるかもしれない。だが、あの畳み掛けるロール奏法やニュアンスに富んだポリリズムを“祭祀のBGM”と捉えるならば、ビバップの刹那主義を乗り越えて確立されたハード・バップの構築性やファンキー・ジャズのペーソスとは、若干の食い違いが生じる。むしろ、半永続的

          【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』レビュー(2004)

          【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)

          ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、3枚目。 もしレア・グルーヴ/アシッド・ジャズのムーヴメントがなかったとしたら、いまでもルー・ドナルドソンは、“大衆音楽にセル・アウトしたアルト・サックス奏者”という不名誉な称号を戴いたままかもしれなかった。大ヒットした67年の『アリゲイター・ブーガルー』に当時の生真面目なジャズ・ファンが困惑したという話を、笑ってすませていいとは思わない。演る側も聴く側も、しなやかなジャズ観をもちづらい混迷した状況は、21世紀

          【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ルー・ドナルドソン『ブルース・ウォーク』レビュー(2004)

          映画=人生には始まりがある。では終わりは?『瞳をとじて』

          ビクトル・エリセの久方ぶりの長編。プロモーションのコピーには「31年ぶり」とあるが、それはドキュメンタリーの『マルメロの陽光』からであって、純然たるフィクション作品としては、『エル・スール』から41年ぶりとなる。変化の激しい現代において、まさに異例のインターバルだ。この間、実際のところ製作上のさまざまな苦難もあったようだが、この時間の経過はエリセにとって無駄ではなかった。本作を観れば、それが容易に理解できるだろう。 本作の主人公は、引退した元・映画監督ミゲルである。いや、引

          映画=人生には始まりがある。では終わりは?『瞳をとじて』

          【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

          ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューから、2枚目。 鈍色(にびいろ)に輝く、というと形容矛盾なのだが、そうとしかいいようがない。初リーダー作にしてスペシャルな一枚。アルバム・タイトル曲のオープニングの構成・展開を聴いて、少しでも惹きつけられるところがなかったら、ジャズとは無縁の人生を生きるべきだ、と傲慢にいい放ちたくもなる。もう少し穏便にいい換えれば、惹きつけられない人もそうはいないはずなんだけど……たぶん。 まずイントロの8小節で、ソニー・クラーク

          【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──ソニー・クラーク『ダイアル・S・フォー・ソニー』レビュー(2004)

          【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)

          2000年代の前半の一時期、ジャズに関する原稿を書いていた。ほとんどは紙媒体に寄稿したものだから、ネットには当然、痕跡もなさそうだ。せっかくなので、個人的な記録としてここに残しておこうかと。いかにも若書きで、詰めも甘いのだが、ご容赦ください。書名、筆名は伏せておきます。 まず、ブルーノートの名盤ガイドブックに寄稿したアルバム・レビューがいくつかあった。今回はそこからまず1枚。 無数にあるマイルスの吹き込みのなかでは、あまり大々的には言及されないセッションを収録したうちの第

          【過去原稿】ブルーノートの名盤紹介──『マイルス・デイヴィス・オールスターズ Vol.1』レビュー(2004)

          外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』

          現代の東京が舞台。役所広司が主人公の公衆トイレ清掃員・平山を演じた。カンヌでは男優賞のほか、エキュメニカル審査員賞を受賞したのは記憶に新しい。 監督のヴィム・ヴェンダースらしい音楽へのこだわりについてまず触れておきたい。『PERFECT DAYS』は、ルー・リードの名曲(こちらは単数形のDAY)にちなんだタイトルである。劇中で当曲が使われるほか、彼が在籍したヴェルヴェット・アンダーグラウンドからも1曲選ばれている。平山の姪っ子の名前が「ニコ」っていうのがいい。ていうか、日本

          外国人に『東京物語』は撮れるのか。『PERFECT DAYS』

          「考えるマシーン」としてのマウリツィオ・ポリーニ

          マウリツィオ・ポリーニ逝去。享年82。やはり一つの時代の終わりを感じさせる。 彼の登場以降、世間がピアニストに期待する技巧のレベルは、格段に上がった。「ミスタッチを含め、味わいで聴かせる」という在り方が前時代的なものになった。 個人的には、初期の名盤であるショパンの練習曲集の頃から追っかけてこられたわけでない。リアルタイムでは、同じショパンのピアノ・ソナタ第2・3番の音盤で初めてポリーニに接したと思う。 当時は、批評能力なんてゼロの子どもだったから、お小遣いをはたいて買

          「考えるマシーン」としてのマウリツィオ・ポリーニ

          “苦労しなくてもできる美しいもの”。『オラファー・エリアソン展──相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』

          話題の麻布台ヒルズに設けられたギャラリーの開館記念。オラファー・エリアソンの個展は、2020年の東京都現代美術館『ときに川は橋となる』以来だろうか。前回ほど大規模ではなく、新作のお披露目と過去20年ぐらいからのピックアップを織り交ぜた、コンパクトな展示となっている。 すべて日本初展示というが、どれも「ああ、エリアソンだ」と安心できるのが面白い。それはネガティブな既視感ではなく、作家としての軸が確立して久しいということ。今なお制作意欲は衰えず、フレッシュな感銘を与え続けている

          “苦労しなくてもできる美しいもの”。『オラファー・エリアソン展──相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』